mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより91 ジャノヒゲ(リュウノヒゲ)

  雪の下でも鮮やか  瑠璃色に光る種子

 冬の林のなか、歩く野原はいちめん銀世界です。日当たりのいい崖地で、雪に負けず伸び出している細長い葉の間から、のぞいているものがありました。きらりと光る瑠璃色の珠です。ジャノヒゲの種子でした。
 ジャノヒゲはリュウノヒゲとも言われ、細い葉が蛇や竜のヒゲに例えられこの名があるといいます。細長い葉は一年中深緑色のままです。ジャノヒゲは常緑の多年草です。

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             雪の下のジャノヒゲの種子

 ジャノヒゲは従来の分類ではユリ科にされていました。新しいAPG植物分類体系ではキジカクシ科ジャノヒゲ属に分類されています。キジカクシ科とはあまり聞きなれない科ですが、スズラン、ムスカリ、アスパラガスなどもこの科です。
 ジャノヒゲは日本の固有種です。本州、四国、九州に分布し、山林中の陰地に生育していますが、住宅地の歩道の日当たりのいい土手などにも群生しています。

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  歩道の土手に群生するジャノヒゲ    冬に瑠璃色の種子が見つかります。

 ジャノヒゲの花が見られるのは7、8月頃です。この時期に群生地をのぞいてみると、細い葉の根元から新葉とともに5~10cmほど伸びた花茎の先に、白いつぼみが房になってついているのが見られます。白いつぼみは花茎に互い違いについていて下から上へと花開いていきます。

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  根元に花をつけます。      群生地でも花の白さが目につきます。

 花は白か薄紫色の小さな花です。花びらは6枚、雌しべ1個に雄しべ6個。薄暗い葉陰でもほのかに浮かび上がり、受粉のために小さな虫たちを呼び寄せるランプの灯りになっているようです。

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    房になるつぼみ      下向きに咲く花     白いランプが灯るよう

 受粉を終えて花が枯れると、雌しべの先がとれて落ちます。雌しべの奥の方に白い種子ができて、その種子のいくつかが夏から秋にかけて大きくなります。

 ジャノヒゲの種子の成熟していく過程が変わっています。花が終わり実を結び始めると、種子をつつんでいた果皮は薄いためすぐ破れてぼろぼろになり、枯れた雌しべの先と一緒に剥がれ落ちてしまうのです。多くの被子植物は、雌しべのつけ根の子房が膨らみ実(果実)となって、種子はその実のなかに包まれているのですが、ジャノヒゲの種子は種子そのものがむきだしのまま育ちます。
 その種子は最初は濃い緑色ですが、冬が近づきすっかり大きくなると、きれいな瑠璃色に色づくのです。
 1つの花に1つの種子だけではなく、2,3個の種子がつきます。多いものでは6個つくものもあるようです。

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     緑色の種子        種子が熟すと 瑠璃色に色づきます。

 種子の瑠璃色の皮をむいてみると、皮の裏側の白い柔らかなスポンジ状のようなものに包まれて、半透明の珠が入っています。珠は固く弾力があり、手にとるとコロコロとこぼれ落ちます。この珠からジャノヒゲの種子の芽が出てくるのです。

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  熟した瑠璃色の種子   皮を剥いてみると・・・    半透明の「はずみ玉」

 この白い珠は、固いものにぶつけるとよくはずみます。こどもの頃、これを「はずみ玉」といって固い地面やコンクリートに力いっぱい叩きつけて、どれくらい高くバウンドするかを競い合ったものでした。玩具用のスーパーボールが開発される前にすでに天然のスーパーボールが存在していたのです。
 低学年を担任していたとき、登校時に瑠璃色の種子を見つけて持ってきた子がいました。この遊びを教えたら一気に広まり、こどもたちはジャノヒゲの種子探しに夢中になりました。こどもたちが見つけたジャノヒゲの群生地を地図に記録していたら、いつの間にか学区内のジャノヒゲの分布地図ができあがっていました。

 ジャノヒゲの瑠璃色の種子は、冬の野鳥たちの食べ物にもなるようです。果肉がなく白い種子の部分も消化されず、栄養分があるとも思えないのですが、それでも、野鳥たちは細い葉をかき分けて探しています。
 ジャノヒゲの種子は飲み込まれて林のあちこちにフンと一緒に散布されます。

 「月刊・かがくのとも『リュウノヒゲ』(2017年2月号)山根悦子さく・多田恵美子監修・福音館書店」は、この草花の生活史を精密な絵とやさしい文章でこどもたちに見せてくれます。

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   野鳥のなかでシロハラがこの種子を好むようです。  『かがくのとも』表紙

 絵本のなかで、小鳥たちに運ばれた種子が育っていく様子について、次のような文章で語りかけています。

 とりが はこんできた リュウノヒゲの たねから めが でました。
 めは ふゆに たっぷり ひを あびて、おおきくなりました。
 はるには ねの ところどころに ふくらみが できました。ふくらみには ようぶんを ためています。

 じめんのしたでは くきが のびはじめ、なつのはじめには、くきのさきに こかぶが できました。
 リュウノヒゲは ねの ようぶんを つかって あたらしい はを だし、もっと おおきくなります。
 つぎの としには、おやかぶからも こかぶからも あたらしい こかぶが できました。(月刊・かがくのとも「リュウノヒゲ」)

 絵本は、地上では見えない地下の根の姿を絵で見せてくれます。この絵本を見ていると実際に掘って確かめてみたくなります。好奇心あふれるこどもたちもきっとそうでしょう。
 掘って見ると、根の部分に紡錘状のふくらみが見つかりました。株と株とがつながっています。種子で発芽した株が親株となり、地下の茎を横に這わせて子株、孫株と栄養繁殖で仲間を増やしています。

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養分を蓄えるふくらみ   親株から子株、子株から孫株と地下茎で繋がっています。

 漢方では、この紡錘状に肥大した部分の日干ししたものを「麦門冬」(バクモントウ)とよび、咳止めや滋養強壮などの生薬として利用されています。

 ジャノヒゲの種子が見られる時期に、同じキジカクシ科のヤブラン季節のたより44)やオオバジャノヒゲの種子も見つかります。
 オオバジャノヒゲは、ジャノヒゲと分布する地域も生活史も似ています。同じ場所に生えていて混生することもあります。ただ、ジャノヒゲの方が陽射しに対する耐性が強く、オオバジャノヒゲは林床や窪地など、より湿り気のある陰地を好むようです。オオバジャノヒゲは、「オオバ」と名がつくように葉は長く幅も広く、花や種子も大きいので、ジャノヒゲよりも目につきます。
 ただオオバジャノヒゲの種子の色はくすんだ灰緑色、ジャノヒゲの種子は艶のある瑠璃色をしています。ジャノヒゲの存在感はその種子の美しさにあるようです。

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   ジャノヒゲに似るが、姿形は2倍ぐらいの大きさ。   種子はくすんだ灰緑色

 ところで、ジャノヒゲやオオバジャノヒゲという名前ですが、図鑑類には「蛇の髭」と書かれています。「蛇にヒゲがあるの?」とちいさい子でも不思議がります。いくら大きな蛇でもヒゲはないでしょう。それで「リュウノヒゲ」という別名が生まれたのでしょうか。
 細見末雄氏によると、ジャノヒゲは江戸初期の書物などには「ジョウガヒゲ」と記され、江戸中期にジャノヒゲの名が見られるといいます。このことから「このジョウガヒゲは、おそらく尉が鬚で、尉は左衛門尉などの官職名ではなく、白いヒゲを生やした能面の尉、すなわち老翁のことであろう。この翁のヒゲなら叢生しているジャノヒゲの葉の状態に似ているから、もっともとうなずかれる。ジョウノヒゲがジャノヒゲに転じて方言となり、それが和名にとり上げられて今日に至った。このことからジョウガ(ノ)ヒゲは能が興隆した室町時代に起こり、ジャノヒゲは江戸時代に替わった名と考えられる。」(細見末雄著・「古典の植物を探る」八坂書房)としています。 
 ヒゲを表す漢字には「髭」と「鬚」と「髯」がありますが、それぞれ髭(くちひげ)、鬚(あごひげ)、髯(ほおひげ)を意味しています。ジャノヒゲの細長い葉は、能面(老翁)の鬚(あごひげ)を連想させたものなのでしょう。

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  細い葉は能面の尉(老翁)の鬚を連想させます。   艶のあるジャノヒゲの種子

 冬の季節、自然の風景には何もないように見えますが、樹木には赤い木の実が残っています。地面近くでは、常緑の細長い葉が雪に負けずに頑張っています。その細い葉をかき分けてみると、ヤブランやジャノヒゲ、オオバジャノヒゲの種子が、きらりとその姿を見せてくれるでしょう。

 子どもの 小さな宝箱に  そっと しまわれるような、
 石ころを、 ガラスのかけらを、 草の実を、 落ち葉の一枚を、
 生活科の授業のたびに 手渡したい。

 以前に(季節のたより51 ケヤキ)で紹介した生活科の教科書「どうして そうなの」(1年)「ほんとうは どうなの」(2年)(現代美術社版)の紹介パンフレットの一文です。

 教室の授業のなかで、家庭の暮らしのなかで、こどもたちの小さな宝箱をいっぱいにしてあげたいものです。こどもたちがときおりその宝箱を開いてのぞきながら、その美しさを感じ、自然の不思議さを思い、生きものの、自然の、理(ことわり)を感じとっていく。その始まりになることを願いながら・・・。(千)

◇昨年1月の「季節のたより」紹介の草花