相変わらず目まぐるしい学校の仕事のなか、先生たちは子どもの良さを見つけようと日々授業を考えています。今回も、参加者のみなさんの発言内容を簡単にまとめてみました。授業に取り組むうえで何かの役になれば幸いです。
まずは、今年採用となった新任の渡部さんが、初任研などでやらねばならないことが山積している中で、『ビーバーの大工事』の授業実践の報告をしてくれました。とても忙しいなかでの報告、本当に頭が下がります。
※ 渡部さんの報告部分については省略します。当日の資料などが欲しい方は、
研究センターまで、ご連絡ください。
【実践報告】
『ビーバーの大工事』に取り組んで
渡部 綾香さん(連坊小路小2年)
《 質 問 》
①子どもが喜んだり戸惑ったりしたところはあったかな?
渡部:木を切り倒すのところは、幹の周りが50センチ以上もあると書かれているので、木の高さではなく幹の周りなんだよね、物差しで測ってみようか、と実際の大きさを確かめて、そんなに手で抱えきれないほどの木を歯だけでガジガジやってるんだねって言ったら、「すごいビーバー!」とか「そんな歯だけでできんのかな。」と声が出ました。イメージしてたのかな。
もぐりの秘密のところも、5分間とか15分間とか、みんなどう?って聞いたら「すごい!」「だから水の中でもあんなに仕事ができるんだ。」と、みんな納得したようでした。出てきた数字とかダムの長さとか、想像できにくそうなところは取り上げてやりました。
*具体的にしてあげると、子どもはイメージをしやすいと感じ取っていることが見えます。当たり前のようですが、子どもの反応を受け止める感覚は何より大事ですよね。
②子どもたちはビーバーについてどれぐらい知ってたのかな?
渡部:それは確認しなかったのですが、授業に入る前にビーバーの動画を見せました。「ビーバーって意外とでかいんだ!」「何してんだろうこれ!」という声を受けて、これからビーバーの秘密を探していこうねってしました。
③「ダムを作る順序」と「すの特徴」にはどれくらいの時間を使いましたか。また、「ビーバーの体のひみつ」4つについては何時間かけましたか。さらに、ほかの動物も調べてみようは、ここの11時間設定の中に含むんですか。
渡部:「ダムを作る順序」と「すの特徴」には2時間、体のひみつ4つを2時間。ほかの動物を調べることは、この11時間には含んでいません。
《どんなことが書かれているのか》
Aさん:ビーバーがダムを作るということは知っていたが、なぜ作るのかは知らなかった。この説明文を読んで、安全な巣をつくるためだったのかと初めて分かった。それは驚きでもあった。子どもたちと読みあうなら、最後の「なぜダムをつくるのか」に向かって、ビーバーの行う一つひとつの仕事とそれができる体の特徴を驚きをもって読み進めたいと思うのですが・・・
Bさん:一昔前の教科書には、「木を切りたおすビーバー」「ダムを作るビーバー」「巣をつくるビーバー」と小見出しがついていた。それは題名にある「ビーバーの大工事」の「大」に重きを置いているからと思われる。どの仕事ぶりをとっても、とんでもなく大変な作業である。それを成し遂げるために「体の秘密がある」と読んでいくのかなあと思った。
また、文の最後に行けば行くほど「体のひみつ」から「知恵の秘密」へと中味が深くなっているようにも思った。
Cさん:昔は「ビーバーの巣作り」という題だったと思う。作者の中川さんは、今この場に行って見てるんだと思う。そして驚きが次々と書かれている。だから、中川さん今どこにいるの、何見てたと聞くと、バリバリバリと木をかじってるビーバーの迫力を目の当たりにし、すごいなあと驚いていることが語られるように思う。そういう生態を次々と巣作りまで探っているという文のつくりなのかと思う。
そうすると、一つひとつの工程といわゆる「秘密」を切り離さずに、中川さんの驚きとともに一緒に読んでいったほうがいいのではないかと思う。
Ⅾさん:渡部先生は、とにかく教科書の手引きにあるように、まずはやってみたというだけでも、子どもたちはよく読んでいると感じた。それは子どもの書いた「ひみつ」を読むと特徴をよく捉えているし、絵もそれをもとにしてよく書けていると思う。
私が450mというダムの長さをやった時には、測ってみた。「学校からローソンのところまでなんだって」と話すと、子どもたちは「ほんとうに大工事だね」ってびっくりしていた。そんな大工事を何のためにするのかなって疑問が湧いたときに、最後の段落にいくと、「子どもたちを安全に守るために大工事をするんだなあ、本当にビーバーって賢いなあ、すごいなあ」っていう思いが共有できたように思う。やっぱり題名に戻ってみるということが大事かなと思う。
《よりイメージを膨らませるためには》
Eさん:たとえば、「歯は、大工さんの使うのみのようです。」のところ。「のみ」は教科書のしたに絵と一緒に説明書きがあるが、それでは足りないと思い、図工室から実物の「のみ」を持ってきて実際に削って見せたりした。子どもたちは、形状や鋭さだけでなく、硬さ、頑丈さも分かり、ビーバーの歯も鉄みたいに堅いんじゃないかと結び付けていった。使えるものがあれば、利用していいのではないか。
Fさん:「上あごの歯を木のみきにあててささえにし、下あごのするどい歯で、ぐいぐいとかじっているのです。」どういう動きになっているのかは、読んだだけでは絶対分からない。うまくはいかなかったが、模型を作って上あごは固定、そうすることによって下あごに力が入ることをやってみた。
渡部:そこは手を使って、こっちは上あごだよ、こっちが下あごというように、ここの動きをやって見せた。
Gさん:ガリガリ、ドシーン、ぐいぐい、ずるずるなどの言葉もビーバーの仕事ぶりを想像するうえで大事な言葉になると思う。また、この説明文全体に、「~のように」という表現が何回か出てくるので、一度扱っておいてもいいのではないか。似ているという意味だが、たくさんある性質の何が似ているのか選び出すことを教えておけば、これからの教材にも使っていけると思う。
Hさん:基本は、本文中に書かれている言葉を手掛かりにして、事実を読み取らせイメージさせるべきなんだが、1年生から上がってきたばかりの2年生にとっては、それを実感として受け止めるには、実物を見せたりだとか体験的に何かをさせることで、納得していくのではないかと思う。
《教科書教材をどれだけ生かせるか》
Iさん:前回の夏の講座でやった「ゆうすげ村」の「しかけさがし」とここは同じだ。最初に「ビーバーのひみつをつたえよう」という目標が書かれているために、教師はそこが最終目標だと思い込んで進めてしまう。「ビーバーの大工事」という題名なら、どんな大工事をするのだろうかと素直に読んでいけばいいと思う。だから、教科書の示す「ひみつをつたえよう」は邪魔だ。ひみつを伝えあうのが大事かな? それよりもビーバーの生きる姿がすごいなあと思えるほうが大事ではないかな。
Jさん:授業が終わった後に、子どもたちが「ビーバー見たいなあ!」と思うような授業になるといいのではないかな。それぞれの生き物が人間とは違うやり方で命をつないでいる、その一つの典型がビーバー。
渡部学級の子どもたちがすごいのは「道具を使わずに、歯だけで太い木を倒せることに驚きました」と書いている。人間は道具を使わないとできない、ビーバーは体すべてが道具なんです。以前やった授業の中で子どもが「簡単に虫歯になれないなあ」と言った。ビーバーの歯は生きるための大事な武器なのです。ひみつの一つひとつに子どもたちがどう感動できるかを大事にし、それをつないでいくと子育てや生きるという生態につながってくる。
始まりの文章のつくりがダイナミックでとても面白い。「ここは、北アメリカ」広大な世界から「大きな森の中の川のほとり」ぐっと焦点が絞られ、さらにビーバーをキャッチしている。木をかじり倒す様子が語られた後、歯はどうなってるんだとさらに近づいて見ようとする。「のみだ!」と思う。この大きな視点からぐうっと「のみ」に向かう文章はすごい。現在形が使われているので臨場感にあふれている。こういうすごさは、ぐいぐいぐいぐい映像化していくことができたらいいのではないか。
子どもの持ってる実感と文章をどれだけ重ねることができるかが授業するときに一番大きいと思う。
《参加者の感想より》
・物語文、説明文、個人で考えると限界があるものを、こうした場で考える機会をいただけると、日々、時間のない中で授業をしていく際に役立ちそうだなと思いました。(Sさん)
・本日、説明文の読み方について、普段聞けないことを聞くことができ、とても充実した時間を過ごすことができました。
ビーバーの大工事に関しては、文章から具体的に想像できるように、教師が実物を見せたり、動画等で提示したりすることが重要だと思いました。それにより、筆者が伝えたい「生き物のすごさ」「物のすごさ」を筆者の文章の工夫に注目しながら読み取らせたいと思いました。
話を聞いていて思ったことは、最後の段落で「みずうみの中にてきにおそわれない安全な巣をつくるため」とあり、ビーバーの敵について調べました。コヨーテやオオカミ、ボブキャットなどの地上に住む動物が出てきたので、ビーバーは自分の体の特徴を生かし、生き延びるためにあえて湖の真ん中に巣を作っているのだと知りました。このような先生の気づきも子どもに知らせることで、子どもたちがさらに生き物のすごさ、筆者の伝えたいことに気付いたり興味を持ったりするのかなと思いました。(Kさん)
※ この日の夜、偶然にもEテレで「ヨーロッパビーバー」の暮らしぶりを追った番組があった。思わず見てしまった。教科書の文だけでは分からないことがいくつか解明した。ダムづくりの巧みさは文通りなのだが、いったいどれぐらいの時間で作り上げるのか疑問だった。番組に登場したビーバーは川幅が10メートルほどのところに4、5日で完成させてしまった。えっ!そんなに早いのか! とびっくりしてしまった。また、15分も水中で作業する肺機能はどうなってるんだと不思議だった。哺乳類だよな。決して両生類じゃないよな。どうもビーバーは水中に入ると、心拍数を極力低くして少ない酸素で活動エネルギーを維持しているようだった。生きるために体を作り変えてきたのか?驚くばかりである。教材文を読むほどに新たな疑問や驚きが増えていくものだと思った。
番組後半では、ダムづくりによる湖の出現によって、それまで見られなかった水中生物、陸上生物が集まり、新たな生態系が作り上げられているという内容だった。教材文には、すごい勢いで木をかじり倒すということから入っていたので全く考えもしなかったが、根っこはちゃんと残っていた。やがて新芽が育ち、再び木へと成長する。今でいう持続可能というやつだ。さらに、森の間伐の役目もし、地面に光が届き低層に生きる植物が育つ。結果、森全体が豊かになる。もちろんビーバーはそこまで考えてはいないのだが、その生き方は自然が成り立つ循環の中にあると思った。生き物の暮らしを知るのは、とても興味深い。そして知るほどに「人間の生き方」を考えてしまう。