mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより133 ノブドウ

  変化に富む葉の形  秋を彩る野原の宝石

 野原や山道の外れなどを歩くと、赤や青、水色や紫などのカラフルで小さい実を見かけるようになりました。これはノブドウの実です。
 ノブドウは漢字で「野葡萄」と書いて、野に生えるブドウという意味です。山に生えるヤマブドウ(山葡萄)と違って食べることはしませんが、その実は野原の宝石ともいわれて、秋の野を彩ります。


               ノブドウの実

 ノブドウブドウ科ノブドウ属のツル性の落葉植物です。巻きひげを出して低木などに絡みついて伸びていきます。古い株になると茎が木質化して何年も生きるので、「多年草」なのか「低木」なのか、図鑑によってもまちまちです。草のような木、あるいは木のような草ということで「半低木」とする図鑑もあって、これが一番近いかもしれません。

 巻きひげは節ごとに葉と対生に出ています。これを見ると、巻きひげは葉が変形したものというのもわかるような気がします。巻きひげは、二又に分かれて、巻きつく先が見つかるとしっかりまきついて伸びていきます。

 
    対生につく葉と巻きひげ       屋根まで伸びたノブドウのツル

 ノブドウの葉はツルに互生についています。その葉は長さ3㎝程度から20㎝ほどのものまで大きさがさまざまですが、その葉の形もさまざまなのです。
 ノブドウの葉を比べてみると、カエデのような葉やハート型の葉、それから3~5裂の切れ込みのある葉、その切れ込み具合も浅いものから深いものまで変化に富んでいることに驚かされます。


     どれもノブドウの葉です。葉の形がこんなにも違っています。

 個体によっては深く切れ込む葉のものを、キレハノブドウとして区別しているようですが、同じ個体であっても、下の写真のように同じ個体とは思えないほどさまざまな形の葉が一緒についているのも見つかります。
 植物の葉は光合成して養分をつくることがその役目。葉の形や大きさはその効率を高めるために最もいい姿に工夫していると考えられるのですが、ノブドウのこの葉の形の多様さは、いったいどんな意味をもつのでしょうか。

 
    並んでつく異なる形の葉        同じ個体なのにどれも葉の形が異なります。   

 ノブドウの花の季節は7月から8月です。夏になると巻きひげと同じように葉と対生して花序を出し、淡緑色で小さな星形の花を咲かせます。地味な小花で、この花に目をとめる人は誰もいません。


      株が充実すると、巻きひげの出るところから花序が出てきます。


      花は一斉には開花せず、結実しつつ徐々に咲いてゆくようです。

 花のつぼみは小さな卵形。花びらは星形にならんで5枚。花びらの内側にお皿のような丸い花盤があって、その中央にめしべが1本、花盤を囲むように5本のおしべがついています。花の形はヤブガラシ季節のたより105に似ています。
 花は両性花で、開花直後の花は、花びらとおしべ、めしべのある花ですが、その後、花びらとおしべはすぐ散って、めしべだけの花になります。

 ノブドウに似ているヤブガラシの花は、自家受粉を避けるために、おしべとめしべの成熟時期をずらし、それぞれの成熟期を花盤の色を鮮やかに変化させて知らせていました。また、おしべの成熟期の花もめしべの成熟期の花も蜜をたっぷり用意しています(季節のたより105 ヤブガラシの花・朝から夕方までの変化)
 ところが、ノブドウの開花直後の花には蜜が用意されていますが、後半のめしべだけの花には蜜がありません。花盤の色も淡緑色のままで目立つことなく、めしべだけの花は、昆虫たちをよびよせる様子が見られません。これで受粉できるのか心配になります。
 栽培種のブドウは、自家受粉する自家結実性があるといいます。ノブドウも開花直後の花の段階で、受粉が行われていれば、めしべだけの花に蜜がなくても困らないことになります。


  花のつぼみ    開花直後の花   蜜が出ています。  めしべだけの花

 咲き始めの花には、蜜があふれているので、アリ、ハナバチ、コガネムシなどの昆虫たちがたくさん集まっていました。ノブドウの花が他家受粉にこだわらなければ、この段階でおしべもめしべも成熟し、昆虫たちの力を借りて受粉してしまうことも可能です。Webサイト上では、ノブドウの花も雄性期と雌性期があるとしている人もいるので、はっきりしたことはよくわかりません。
 ノブドウのような皿状の花盤のある花は、口が短く蜜をなめる昆虫たちに適しています。チョウの仲間もときおり姿を見せるのですが、ストロー状の口では、蜜を吸いにくそうです。ノブドウの花は口の短い昆虫たちにあわせて進化してきた花と考えられます。


    アリの仲間    ハナバチの仲間   コガネムシの仲間    ハチの仲間

 受粉のできた花には、小さな実ができていました。ツルの上には、最初は小さなドングリのような実、それが球形の実へと変化していく様子がわかるように並んでいます。


     先端のツルからノブドウの結実の順序がわかるように並んでいます。

 ノブドウの実は最初は緑色ですが、秋になると緑から赤色や淡い紫色、るり色や水色に変化して、非常に多彩な色合いを見せてくれます。
 このノブドウの色の変化は、図鑑によって説明が異なります。色の変化はノブドウミタマバエやブドウトガリバチの幼虫が寄生し、虫えいを作ることが要因と説明しているものもあれば、色の変化は正常な成熟の過程で起きるノブドウ本来のものと説明しているものもあります。
 変わる色合いも、緑色から白、しだいに紫色になり、成熟して青色になるとしているものもあれば、赤味や青系の色を経て成熟して白になるというのもあって、まだはっきりしたことはわかっていないようです。
 色の変化についての研究や論文を探してみたのですが、見つからず、どちらが正しいかは、今のところよくわかりません。

   
   最初の緑色の実(初秋)   赤味を帯びた実      多様な色の実

   
   青、紫色の実       水色の実        白色の実(晩秋)

 実際に実を調べてみると、大きさや形が不揃いで、表面にでこぼこがあって、明らかに虫こぶで肥大しているものもありますが、赤味を帯びたり、青味がかったりしている実がすべて幼虫が入っているわけでもないようです。
 実の色については、葉やツルが枯れた頃の実に白色が多く見られるので、成熟した実が白色ではないかと考えられます。

 植物生態学者の多田多恵子さんは、この実を採取して観察した様子から次のように書いています。

ノブドウ ー 色とりどりの宝石のような実。実の一部はノブドウタマミバエなどが寄生して虫こぶになる。だが、季節にもよるようで、11月に採取した実はすべて無傷で虫はいなかった。果肉や種子の状態から、濃い青や紫は未熟で白い実が熟果であるようだ。白い実の果肉は半透明で、少々舌に残るがブドウに似た食感でほのかに甘い。ただし青や紫の種子もまけば正常に発芽する。
  (多田多恵子『身近な草木の実とタネハンドブック』文一総合出版
  (※ノブドウタマミバエはノブドウミタマバエという表現が多いようです。)

 自然界は複雑で変化に富んでいます。ノブドウについては まだ謎の部分が多いようです。図鑑などに書かれていることをうのみにするのではなく、事実を丁寧に観察、検証していくことが大事だと思われます。

 ノブドウブドウ科の植物ですが、野生のヤマブドウや栽培されるブドウ(ブドウ属)とは別の属(ノブドウ属)です。花序は房状にならず、実も栽培ブドウのような果肉はほとんどなく数個の種子が大部分を占めています。
 実のなかには種子が1~4個入っていました。秋も深くなるにつれ、ツルについていた実の数も少なくなるので、小鳥たちにはよく食べられ、糞にまじって、種子がまかれているのでしょう。
 野原だけでなく、公園の生垣や、住宅街のフェンス、人手が入らない空き地などでノブドウのツルを見かけるのもそのためと思われます。

 ノブドウは、実ができた後、冬に向かってやがて葉は落葉し、ツルも力を失います。地上部は枯れてしまいますが、土のなかの根や根元の太い部分は残ります。一年のサイクルが終わると越冬して、また次の春にツルが伸び葉が芽吹いていきます

 
      色とりどりの実。野原ではこの時期の実がよく目につきます。

 ノブドウの魅力は何といっても、その実の色合いでしょう。その実はいくつの色を持っているのか。草花あそびで子どもたちとこの実を並べて数えたことがありました。そのときは10色を超えていました。虹の色よりはるかに多い色です。
 宮沢賢治はこのノブドウを地上の虹に見立て、天上の虹と対照させて「めくらぶどうと虹」という童話を残しています。

            野に輝く宝石 ノブドウの実の色

 ノブドウの実はグラデーションも美しい実です。よく切り花として利用されることもありますが、実のついたつるを切り花にしてもすぐに色あせてしまうようです。実の輝きはノブドウのいのちそのものの輝きです。野にあるものは、野にあってこそ、その美しさが際立つようです。(千)

◇昨年10月の「季節のたより」紹介の草花