mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

特別な時間(とき)、特別な日

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 いつからだろう? 月曜と金曜の朝にコンちゃんが来るようになったのは。

 コンちゃんは、すでに就学年齢をとっくに過ぎている。でもコンちゃんは、いろいろな事情から学齢期に学校に行くことができなかった。それで人と関わることや字を書くことなんかがちょっと苦手。月曜と金曜に教育相談センターにきて、相談員の先生に漢字を教えてもらったり悩みを相談したり、いろんなおしゃべりもしているらしい。らしいというのは相談センターに行ってからのコンちゃんを詳しく知らないから。でも毎週欠かさず来るのだから、コンちゃんにとって相談センターは大切な場所なのだろう。

 コンちゃんはとても純粋だ。だから傷つきやすい。その純粋さゆえに、コンちゃんの言動はときにわがままに見えたり奇異に感じられたりもする。コンちゃんにとって、空気を読んで生きなければならない今の社会は生きづらいに違いない。

 コンちゃんにおいらが遭遇したのは、朝の給湯室でのお湯くみのとき。隣のリフレッシュルームからひく~い男の人の声が聞こえてきて、ドアの嵌めガラスの隙間からのぞいてみると大きな体のコンちゃんが、そこにいた。コンちゃんは、相談センターが開く9時までの時間を一人そこで過ごしていたのだ。初めのうちは二人の間に何もなかったけど、段々あいさつするようになって、あるときコンちゃんが「あなたの部屋はどこですか?」と聞くから、「ここだよ、ちょっと来てみる?」と応えて・・・コンちゃんは、大きな体を小さく小さくしておずおずと神妙に入ってきた。それからは月曜と金曜の朝の、相談センターが開くまでの時間をこの研究センターで、おいらと二人過ごすようになった。

 一緒にいるなかでわかったことがある。コンちゃんにはいろいろアドバイスや支援をしてくれる人たちはいるけど、いわゆる友だちと呼ぶような存在はいないようだということ。コンちゃんに、ある時「おいらは、コンちゃんの友だちだろ」と言ったときの、あのきょとんとして面食らったような顔が忘れられない。そんなこともあって、おいらはコンちゃんの友だちになろう、いようと思うことにした。思うことにしたというのは、コンちゃんの方で友だちと思ってくれているかは未だ不明だから。

 最初のうちこそは、相談センターが開くまでの大事な意味ある時間として漢字の復習や予習をしたり相談員の先生に見せる文章を書いたりして過ごしていたけど、さっき言ったようにおいらは友だちだから、最近は至っていわゆるよもやま話に花を咲かせている。今日は暑いとか寒いとかいう気候の話や体調の話にはじまり、何を食べるのが好きだとか、何を見たり聞いたりするのが好きだとか、話はあっちに転がりこっちに転がりする。どんな人が好きだとか、そんな話をするときだってある。そうそう、コンちゃんがおいらの肩を揉んでくれたことも。

 そんなコンちゃんが、先週の金曜日はちょっと違った。いつもは部屋に入ってくると、まっすぐ奥のテーブルに来るのに、この日は部屋のドア近くの机に陣取って入って来ない。そして「国語辞典ありますか」と、本棚からひっぱり出したりしていた。てっきり久々に漢字の練習かな? と思って放っといた。でも、あまりに熱心に書いているから気になって近づき、コンちゃんの手元を見てハッとした。そうか!
 コンちゃんは漢字の練習をしていたのではなかった。この3月に相談センターを退職されるお世話になった相談員の先生に感謝の手紙を一字一字ていねいに、一生懸命書いていた。その手紙の文面はよくわからない。見てはいけないような気がした。おいらに気づき顔を上げたコンちゃんの顔はうっすらと紅潮し、目のあたりが少しうるんでいるようにみえた。そう言えば、少し前に先生の写真も撮ると言っていた。きっと今日がその日なのだ。

 コンちゃんにとって今日のこのときは、自分の思いを大切な人に伝えるためのすてきな手紙を書く、でもちょっと悲しい特別な時間なんだ。( キヨ )

※ 冒頭の写真は、写真を撮るのが好きなコンちゃんがくれた1枚。ちょっかいを出しているのがおいらで、ちょっと困っているのがコンちゃん。まるでおいらたち二人の関係のような写真。