mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより152 オオハンゴンソウ

  北米原産の黄金の花  園芸用が野生化して全国に

 この花を見ると、浮かんでくるのはドラマ『北の国から』(脚本:倉本聰)のあるシーンです。交際相手の子どもを身ごもり、一人で生んで育てるという蛍に、幼馴染の正吉がプロポーズ。刈って贈り続けた花がオオハンゴンソウの花でした(『'98時代』前編)。
 正吉が離れて暮らす母親のスナックで聴いた歌が、『百万本のバラ』。もし100万本のバラを買うとしたら・・4億か、5億か・・・・。
 重機をあつかう仕事中に、ふと丘一面に群れ咲く黄色い花を見つけて目がとまり、これなら自分にも何とかなる、と。
 ひたすら花を刈る丘の夕暮れ。咲き乱れる花に夕陽が照り返り、あたりは黄金の世界。おりしも教会の鐘の音。正吉はその世界に向かって手を合わせ静かに祈りを捧げます。ミレーの「晩鐘」を思わせるシーン(撮影:竹超由幸)です。
 野に咲くオオハンゴンソウをこれほど美しく描いた映像は他にはないでしょう。


           群れ咲くオオハンゴンソウの花

 オオハンゴンソウは、キク科オオハンゴンソウ属の多年草です。原産地は北米で、日本には明治時代にハナガサギクという名で鑑賞用として持ち込まれました。それが逃げ出し、1950年頃から道端、荒れ地、畑地、河川敷や山地などのいたるところで野生化し、現在は外来生物法によって「特定外来生物」に指定され、許可無く栽培・保管・運搬などを行うことが禁止されています。


   野外に逃げ出し、いたるところで群落を形成しているオオハンゴンソウの花

 もともと日本にはハンゴンソウという名の植物が自生していました。ハンゴン(反魂)とは魂を呼び戻す、死者を蘇らせるといった意味です。ハンゴンソウの名の由来は、供花に用いられたためとか、薬に使われたためとか、葉の形が幽霊の手のようだからとか諸説語られていますが、よくわかっていません。
 オオハンゴンソウの名は葉がそのハンゴンソウの葉と似ていて、草丈が大きいことからつけられた名前です。どちらもキク科ですが、ハンゴンソウはキク科ヤコバエア属で、形は似ていても遺伝的な違いがあるようです。

 
 在来種のハンゴンソウ          ハンゴンソウの花

 オオハンゴンソウは種子と地下茎で繁殖します。種子の発芽実験によると、秋に採取して播種されたオオハンゴンソウの種子は、翌春に出芽し、その年には草丈が15㎝までに生長しても開花せず、冬を越して、2年目の7月頃に開花することが確かめられています(2015年「日緑工誌」論文:オオハンゴンソウの播種から開花までの期間および生育に及ぼす刈り取りの影響)。
 葉は茎から互生に生え、上部の葉は切れ込みが無く、下の方の葉は羽状に分裂してギザギザがあるのが特徴です。
 成長すると草丈50cmから最大3mにもなります。1つの個体に平均10ほどのつぼみをつけますが、茎が太く3m前後に成長したものでは最高53個の花がついていた例も報告されています。

 
  外来種オオハンゴンソウ     つぼみから花へ開花していく姿

 オオハンゴンソウの花は、花軸の先に小さな花がたくさん集まった頭状花です。ヒマワリやツワブキの花(季節のたより39)と同じで、頭状花は一枚の花びらを持つ舌状花と筒の形をした筒状花の二つのタイプの花の集まりでできています。
 花のまわりを囲んでいる舌状花は8~14個。花びらはやや細長く、昆虫たちを呼び寄せる装飾花の役割をしています。中央の盛り上がる半球に集まっているのが筒状花です。筒状花は両性花で、半球の下から頂部に向かって開花していきます。


    筒状花のつぼみ      筒状花の雄しべ    葯から黄色い花粉が。

 つぼみが伸びてくると、筒状花の先端の黒いものが目立ってきます。これが、雄しべの葯の集まりです。雄しべは筒状花のなかで数本束になっていて、その真ん中に雌しべがかくれています。
 花は雄しべが先熟です。黒い葯の裏側に黄色い花粉ができていて、外側に少し出ているのが見えます。
 黒い葯から花粉を出し終えると、雄しべの中に隠れていた雌しべが伸びてきて柱頭を2つに開き受粉します。受粉が終わると柱頭は枯れてしまいます。
 筒状花を見ると、半球の下から頂部に向かって形の違う筒状花が、層になって並んでいるのが分かります(下右写真)。一番下には受粉が終わった花、中間に2裂した柱頭が出ている雌しべ(雌性期の花)、その上が黒い葯から花粉が少し出ている雄しべ(雄性期の花)で、頂部にあるのがこれから開花するつぼみです。

 
筒状花の雄しべと雌しべ(柱頭が2裂)   筒状花のそれぞれの時期の姿

 オオハンゴンソウの花が開くと、多くの種類の昆虫たちが花粉や蜜を求めて集まってきます。花の季節は7月から10月頃まで。遅くまで群落を作って咲いているので昆虫たちにとってはありがたい存在です。


 オオハンゴンソウの花が咲くと 蜜を求めて多くの昆虫たちが群がっています。

 昆虫たちだけでなく、養蜂家の方々は花の咲く時期に合わせてミツバチと共に移動しながら、オオハンゴンソウの蜜を採取しています。花の蜜は黄金色、黒糖のような甘さと柑橘類の風味が特徴の希少なハチミツが生産されています。

 オオハンゴンソウは夏から秋にかけて結実します。種子は無融合性生殖といって、花粉を受粉しなくても種子を作ることができ、花粉を出す前から子房が膨らみ種子を作り始めるしくみを持っているとのこと(森昭彦著「帰化&外来植物950種」秀和システム )。そうなら、昆虫を呼び寄せる装飾花も花の蜜もいらないわけですが、まだその働きは残っているので、有性生殖と無性生殖を組み合わせた多様性のある種子を作っているということになるようです。

 そうして大量に生産された種子の発芽率は25℃付近で最も高く、よい発芽環境では一斉に発芽しますが、発芽環境が悪いと休眠し、埋土種子(シードバンク)を形成します。いつでも発芽できる状態で待機しながら無駄なく種子を発芽させるという特別の能力を持っているのです。

 
 晩秋のオオハンゴンソウ      実のなかの種子      種子が飛んだあと

 オオハンゴンソウの地下茎も強い繁殖力を持っています。地上部が何度刈られても強靭で、何事もなかったかのように茎を出し再生します。地下茎が栄養貯蔵器官なので根こそぎにされない限り、切れた根から芽を出し再生していきます。また、セイタカアワダチソウ季節のたより87)と同じように、地下茎から発芽を抑制する物質を分泌し、他の植物を発芽させないアレロパシー作用(他感作用)もあると言われています。

 外国から持ち込まれた植物が何らかの理由で野外に逸出しても、多くは子孫を残せず定着できないのですが、オオハンゴンソウは、爆発的な繁殖力で分布を広げています。今では休耕田、放棄畑地、河川敷だけでなく、国立公園の湿原、渓畔林などの自然度の高い環境にまで押し寄せ群落を形成しています。
 そのため、在来種の育つ環境や高山植物のお花畑などが狭められ姿を消しているということで、環境省では、日本の生態系等に「被害を及ぼす又は及ぼすおそれのある」外来種ということで、「特定外来生物」に指定し規制や防除に乗り出しました。

 
   花はただその場で咲いているだけですが・・・特定外来生物に指定。 

 環境省の方針をうけて、各県が自然観察指導員、ボランティア、子どもたちなどの力をかりて藪に分け入っての除去作業を推進。種子ができる前の刈り取りだけでなく、地下茎でも繁殖するので、根っこが切れないよう丁寧に抜き取り、抜き取った根の部分を切り離して乾燥、完全に枯死させてから焼却処分するなどの手順を踏んだ作業が行われています。                               
 その作業のなかで、必ず出てくるのは、「オオハンゴンソウは悪者なの?」という子どもたちの疑問でしょう。
 オオハンゴンソウには悪気はなく、本来の生息地からただ連れてこられただけなのです。たまたますぐれた生存能力を持っていて、天敵がいなかったので、その場の環境に育ち、きれいな花を咲かせているだけなのです。もし、悪いとすれば、未来のことをよく考えずに持ち込んでしまった人間の方でしょう。

 オオハンゴンソウ日光国立公園内での駆除活動でひとつの異変が報告されています。これまでの駆除活動で駆除できなかった大群落が、ある年突然、すっかり姿を消したというのです。
 それはシカによって食べられたものでした。日光周辺では、今までシカが食べないとされていた植物(キオン、コバイケイソウ)がシカによって食べられ、植生を変えていることが報告されていました。それに加えてオオハンゴンソウも食べるよう、シカが食性を変えていたのです(環境省:アクティブレンジャー日記2024年1月15日)。
 無敵と思われた国内のオオハンゴンソウに天敵が出てきたことになります。自然界のできごとは、予想できない展開がいつでも起きるのです。


    オオハンゴンソウはこれからどんな運命をたどるのでしょうか

 外来の植物が急速に増加したのは、日本では明治時代以降です。それまでは外来種の数も少なく、到着した土地側の自然環境も豊かで、外来種が在来の生態系に入り込む余地がなかったのです。ある種は滅び、ある種は時間をかけてその土地の生態系に馴染んでいきました。                     
 しかし、私たちが化石燃料を手に入れたことで、“人間という生物”としての枠を超えた移動・移送能力を手にし、それと共に、一度に多くの外来種が、簡単に速く持ち込まれるようになりました。入ってこられる側の自然の生態系は適応が追いつかず、また自然破壊で生態系が弱体化していて、急速に外来種の侵入が進行していったと考えられます。

 外来種を入れるのも人間、はびこらせる環境を作っているのも人間です。外来種の問題は、単に種を駆除して終わりということではすまないでしょう。
 かつて人々の暮らしのなかにあった “ 自然 ” に対する畏怖や敬愛の念は、人間も生態系の一部であることを無意識に感じていたところから湧き出たものです。
 オオハンゴンソウの駆除活動が、いつの間にか駆除することが目的になり、子どもたちが「オオハンゴンソウ外来種)=悪者」という人間中心の感覚や考えになってしまうことを恐れます。そのためにも、「オオハンゴウソウは悪者なの?」という子どもの疑問を受け止めて、オオハンゴンソウの花のこと、生態系のしくみ、人間の活動が自然に与えた影響などについての対話を重ねていきたいものです。
 私たち人間は、自然界に生きる生き物が生存できる自然環境を維持し、共存して生きる道を、叡智を集めて探ることが求められています。
 子どもたちは小さな科学者であり哲学者です。自然と人も含めた生きものについて考え合い、考えを深めることができるなら、私たち大人が予想もしない柔軟な発想力や想像力で未知の課題へのとびらを拓いてくれるでしょう。(千)

◇昨年7月の「季節のたより」紹介の草花