mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより87 セイタカアワダチソウ

  黄金色に群れなす花 花粉症の犯人は冤罪

 秋の野草たちが花の終わりを迎えています。この季節に突然のようにあちらこちらで黄金色の花が目につくようになりました。セイタカアワダチソウの花です。北米原産の帰化植物でキク科のアキノキリンソウ属の多年草です。
 日本の秋の風景はススキや萩、コスモスやリンドウなどが彩っていましたが、今はその光景を変えてしまうほど、セイタカアワダチソウの群れが広がっています。

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          晩秋の野に咲くセイタカアワダチソウ

 セイタカアワダチソウが園芸目的のために国内に持ち込まれたのは、明治時代の終わりごろでした。特にその存在が目立つようになったのは、戦後になってからのこと。北九州に進駐した米軍の貨物にまじっていた種子が、戦後の経済活動の発展とともに、人や物に付着して日本各地に移動し急速に広がったといわれています。
 1955年(昭和30年)頃から1965年(昭和40年)代の、いわゆる高度経済成長期には、全国各地に広大な造成地や高速道路建設の工事現場、河川敷や埋立地などに出現しました。これらの人の手により攪乱された自然環境は、アメリカの広大な中部草原に育つセイタカアワダチソウの生態にぴったりハマり、絶好の生育環境となっていきました。

 セイタカアワダチソウが急速に全国に増えていったのには、理由がありました。外来植物には天敵がいなかったということです。原産地で天敵にその数を抑制されていたセイタカアワダチソウは、新天地では限りなく増え続けることができました。また、セイタカアワダチソウは根から化学物質を放出し、周囲の植物の発芽や生育を妨げていました。これはアレロパシーという現象で、ヨモギヒメジョオンなどの植物にも見られますが、セイタカアワダチソウアレロパシー効果はとても強く、周囲の在来植物の発芽や成長をことごとく抑えていったのです。
 さらに加えて、ススキなどの在来植物の生えていた河川敷等には、モグラやネズミが棲息し、地中深くに巣を作っていて、死骸や排泄物などから肥料となる成分が蓄積していました。その養分を、セイタカアワダチソウは地下深くに根を伸ばして取り込み成長し、背丈を高くして光合成を独り占めすることで、周囲の在来植物を駆逐していきました。
 黄金色の花はよく目立ち、誰の目にもその広がりは一目瞭然でした。その爆発的な広がりに一種の恐怖感を感じた人々も多かったようです。
 ちょうど同じ頃に、花粉アレルギーの患者が激増して花粉症が問題となり、セイタカアワダチソウはその犯人として疑われていったのです。

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 黄色い海。セイタカアワダチソウは驚異的な繁殖力で群落をつくっていきました。

 セイタカアワダチソウの花姿は円錐形をしています。中心にある茎の両側に伸びた花房に、多数の頭花が波打つように並んでいます。 

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    円錐形の花姿が特徴ですが、規格どおりにならないのが自然界です。

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       花房に並ぶ頭花。つぼみ(左)と開いた花(右)

 一つの頭花を調べてみると、複数の小花が集まっていました。中心には筒状花、その周りを舌状花がとり囲んで、キク科特有の花の構造をしていました。

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 1個の頭花の姿      総苞を開いてみました。    中心に筒状花    周囲の舌状花

 花の時期には、たくさんの種類の昆虫が集まってきて、花の蜜を吸っていました。セイタカアワダチソウの花粉は、蜜を求めて集まる昆虫の体について運ばれています。セイタカアワダチソウは虫媒花でした。

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 多くの種類の昆虫が集まります。 冬を前に昆虫たちの貴重な蜜源になっています。

 花粉症は、スギやヒノキ、カモガヤなどの風媒花を有する植物が大量に飛散させる花粉によって引き起こされる症状です。虫媒花の花粉は、風媒花より花粉の量は少なく、花粉の粒子も比較的重いので風で遠くまで飛ばされることはありません。

 花粉症の原因となったのは、同時期に急増していたブタクサやオオブタクサでした。ブタクサやオオブタクサは、同じキク科ですが風媒花なので、美しい花びらも香りも蜜の分泌も必要ないので目立ちません。いつのまにか花の目立つセイタカアワダチソウが花粉症の犯人にされていたのでした。

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オオブタクサ。 花は地味で目立ちません。  雄花の花粉を大量に風にのせ飛ばします。

 セイタカアワダチソウが花粉症の犯人と誰が言い出したのかはわかりませんが、急激に分布を広げている怖さが、人々の真実を見る目を曇らせてしまったようです。セイタカアワダチソウにとっては冤罪ですが、いったん犯人らしいと人々の意識に刻み込まれてしまうと、それをぬぐいさることは容易ではありません。
 元々セイタカアワダチソウは、日本へは観賞用の花としてもたらされたもので、偏見なしでながめるなら、美しい花です。でも、あまりにも増えすぎ、しかも在来植物が駆逐されるということで、環境省が「生態系被害防止外来種」に指定し、全国的に駆除する活動も行われていきました。それもあってか、セイタカアワダチソウは、とんでもない悪者の草という印象が、今でも人々の意識のなかに残り続けています。

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黄色い穂波も受け止める感情は様々。     もし希少植物なら、印象が違うものに。

 1980年(昭和55年)代に入った頃でした。これまであれほど勢いの強かったセイタカアワダチソウに陰りが見られるようになったのです。セイタカアワダチソウの群生地に、ススキやオギなどの在来種が再び戻ってきました。何が起きたのでしょうか。
 最初の頃は天敵のいなかったセイタカアワダチソウに、従来の近縁種につく蛾の幼虫の食害やウドンコ病、サビ病などの菌類による病害が見られたのです。遅れてアメリカから天敵のアブラムシもやって来ました。天敵の出現に加えて、自らが出すアレロパシー原因物質が土中に蓄積し、自家中毒で自らの生育が阻害された可能性があるといいます。また、大きく成長しては一年で枯れるということを繰り返すうちに地下深くにあった肥料を使い尽くし、モグラやネズミも駆除されて地下への肥料成分の供給が減少。セイタカアワダチソウの成長が抑えられ、それにともない日本古来のススキ、オギという在来の野草たちが勢力を回復してきたのではないかといわれています。いずれにせよ、セイタカアワダチソウがいつまでも無敵の存在ではなかったのです。自然界がバランスを取り始めたということなのでしょうか。

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   セイタカアワダチソウの群落に 在来種のススキが伸び出しています。

 今でも嫌われ者の印象が強いセイタカアワダチソウですが、大量の花粉と蜜は冬を前にした昆虫たちのいのちをつなぐ蜜源になっています。養蜂家にとっても一年の最後に蜂蜜を採取できる貴重な植物になっていて、その蜂蜜は、特有の匂いのため日本では販売はまれですが、アメリカでは人気があり「ゴールデンロッド・ハニー」として売られています。
 日本ではセイタカアワダチソウを「代萩」という名でも呼んでいます。日本の伝統工芸品である簾(すだれ)の材料には萩や竹、ヨシが使われていました。その萩の代用にセイタカアワダチソウの茎を乾燥させたものが使われています。素材が太く日除けと目隠し効果に優れているのだそうです。(東近江市すだれ屋・タイナカ)
 そのほか、セイタカアワダチソウには薬効があるといわれ、開花直前のつぼみをつんで乾燥させ布袋に入れて薬草風呂に利用している人もいます。
 ミョウバンを使ったアルミ媒染液でセイタカアワダチソウを草木染めに使うと、鮮やかな黄色に染めることができます。(「たくさんのふしぎ」ー草や木のまじゅつ」1985年8月号・福音館書店
 こうしてみると、セイタカアワダチソウは、日本の暮らしのなかでもさまざまに利用されていることがわかります。

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    セイタカアワダチソウの       花後の綿毛は冠毛のついた
     花の終わりの頃。            種子の集まりです。 

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  セイタカアワダチソウは冬の間、    秋になるとぐんぐん伸び出します。
  ロゼットの姿ですごします。

 セイタカアワダチソウと似ている花でよく目にするのが、アキノキリンソウ(高山では変種のミヤマアキノキリンソウ)とオオアワダチソウです。

 アキノキリンソウは古くから日本各地の山地や草原に自生し、開花は8月から11月頃、秋の山道を歩くと目につきます。アキノキリンソウは、花が泡立つように咲くようすから、あるいはその実ができたときも綿毛がふわふわして泡立つようすから、別名を「アワダチソウ(泡立ち草)」といいます。

 オオアワダチソウは北米原産の帰化植物で、アキノキリンソウ(アワダチソウ)より背丈が高いので「オオ」がつきます。さらに背が高く大型なのが、セイタカアワダチソウです。これらの2種の帰化植物はよく似ていて見分けが困難ですが、開花時期が異なります。真夏の8月よりも前に花が咲いていればオオアワダチソウ、晩秋の10月頃から咲き出せばセイタカアワダチソウとみていいでしょう。

 アキノキリンソウ、オオアワダチソウ、セイタカアワダチソウは、キク科アキノキリンソウ属の3姉妹というところでしょうか。

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    アキノキリンソウ         オオアワダチソウ     セイタカアワダチソウ
    (アワダチソウ)

 アキノキリンソウは日本の秋の草原や山地を彩り、山歩きの人を楽しませています。外来種のオオアワダチソウは、今のところセイタカアワダチソウほどの大群落は見られませんが、北海道では優勢を誇っているようです。

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    ススキとセイタカアワダチソウ。共存できる日がくるのでしょうか。

 研究者によると、日本の休耕地で侵入したセイタカアワダチソウはススキによって抑えられる運命にあるそうです。ただ乾燥地ではセイタカアワダチソウがすぐにススキに抑えられても、湿った場所ではセイタカアワダチソウの優先が長く保たれるとのこと。(「図説 日本の植生」沼田眞・岩瀬徹 著・講談社学術文庫
 セイタカアワダチソウとススキや在来種とのせめぎ合いは、これからもしばらく続いていくのでしょう。せめぎあいながらも互いに自らを変化させ、いつかは棲み分けと共存が進んで、日本の秋を彩る風景の一つとなる、そんな日が来るのかもしれません。(千)

◇昨年11月の「季節のたより」紹介の草花