mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

『うさぎ日記』より ~ オレは幸せ者10 ~

 うさぎが、みんなの友達だったころの話

「子どもたちの健やかな成長と個性豊かな発達を願って」を設立趣旨の冒頭に掲げて出発し奮闘しているセンターの貴重なページを、趣旨とはおよそ縁遠いもので埋めるのは申し訳ないが、以下、「オレは幸せ者」の閑話休題編としてお許し願いたい。

 自分に残る時が「秒読み」に入ったことを自覚するようになってから、少しずつ身辺整理をしているつもりだが、未だにその跡が見えない。片付けながら目的を忘れてついつい読んでしまい、昔を思い出すことの繰り返しがつづくからだ。
 先日も「うさぎ日記」と名づくプリントを手にして読んでしまい、読むだけで終わらず、ウサギのその時々のことを自分たちのその時々に合わせていろいろ思い出してしまう。この調子での片づけはいつ終わるかまるっきりわからないことに気づき焦るのだが、また同じことを繰り返してしまう。
 今回の「オレは幸せ者 10」を「閑話休題」とさせていただくのは、その「うさぎ日記」についてである。

 オレの最後の勤務校はK小学校。あるとき、仲間のAさんが、駐車場そばの空き地に、どこかのゴルフ場から、使い古しのネットをもらい、柱にする廃材を集め、ひとりで広い遊び場を作った。だれのため? そこに放されたのはウサギ数匹。入口のドアは鍵なし。子どもたちの出入りは自由。誰言うとなく「ウサギランド」の名称がつく。ウサギは穴を掘り、子を産み、その数はどんどん増えていった。オレの記憶では、最高時には80匹超。それ以上に増えなかったのは広さが数を決めたのだと思う。いつの間にか、餌を全校で考えなければならなくなる。
 その「ウサギランド」も年が経つにつれてあばら家になり、ネコその他がうろうろするようになった。それを見かねた教頭さんと技師さんが時間をつくってはウサギランドの改修を始めたのだ。これが、「うさぎ日記」の書かれた年になる。改修に関する部分を「日記」から拾ってみる。

9月23日 天気 快晴
 昨日、突然積み上げられた立派な材木は、私たちのウサギランド新築のための柱にするものだということを知った。いつも朝、立ち寄ってくれる、あまり豊かには見えない男の先生が驚きの声を上げていたのだ。
 なんでも、4寸角の柱が4~50本、カガさんという方が届けてくれ、その男先生の家の柱より太いので、できたら、家に持って行って取り換えたいとまで言うのだ。
 そう言えば、かつて、日本人の家は「ウサギ小屋だ」と、誰かが言ったとか言わなかったとかを耳にしたことがある。その時は、私たちを粗末に扱っていながら、なんということを言うのだろうと腹を立てたものだった。でも、何十年と働いたに見えるその先生の家の柱より太い柱で、私たちの家をこれから造るという。
 どんな家が建つのだろう。だれが造ってくれるのだろう。
 そんなことを考えるだけでワクワクするなあ。もうウサギ小屋なんて、笑いの材料にはさせないぞ!


10月11日 天気 晴れ
 2時半、ウサギランド上棟式ということで、先生たちと子どもたちが集まった。昨日までに、すべての柱が据え付けられたのは、この式のためだ。柱や土台のそちこちに水がまかれた。サケの匂いがした。旗も立てられた。サカキが何回も振られた。
 そんな様子を見ていると、ウキウキしてくる。どんな棲家がつくられるんだろう。
 集まった子どもたちは,先生たちがつくったつきそこないの餅を喜んで食べていた。
 学校のみんなが、新しくつくられる私たちの家を、こんなに喜んでくれるなんて、本当にうれしくなる。

10月31日 天気 晴れ
 待ちに待った移転の日だ。3時半、突然、たくさんの人たちが集まった。子どもたちや先生たちにつかまれて新しい部屋に移ったが、気分は最高だ。穴もあるんだが、自分で掘らなければ。ただただ食べているだけになるから、穴はやっぱり自分たちで掘らなくちゃ。
 私たちが移り終わった後、古いこれまでの部屋は、あっという間に片付けられてしまった。

 「うさぎ日記」より、「ウサギランド」新築移転に関する部分だけを抜き出したが、そもそも、この「うさぎ日記」は、1995年4月から12月にかけて、オレが、時々、「ウサギランド」でウサギから聞き取りをしたものをまとめたものである。ウサギたちは競って聞き取りに応じてくれた。学校全体に大事にしてもらっているから、話したいことが山ほどあったのだろう。
 せっかくみんなお礼の気持ちでしゃべってくれたものをオレだけのものにしてはいけない。それに、彼らの話には、固有名詞もたくさん登場していたのだから、いつの日か、子どもたちまでは無理としても、同僚には伝えなければと思っていた。
 それを、忘年会場で、当番でもあるオレが、聞き取りをまとめてみんなに伝えようと思いつき、忘年会の日、朝から教室にこもってまとめたのが、この「うさぎ日記」だ。
 ただ、残念なことは、忘年会の日に思いつき始めた作業で時間がまったく足りない。ウサギたちが競ってしゃべったものなのに、聞き取りのほんの一部だけになってしまったことは甚だ残念だ。「オレの話したことが少しも入っていない」などと騒がれてはと、ウサギたちにはこのことを知らせていない。

 オレは翌年の3月退職。風の便りで、「ウサギランド」は解体し、立派な立派な網戸のウサギ小屋が造られ、何匹かのウサギが住んでいると耳にした。しかし、オレにはまったく興味がないので未だ見ていない。
 個人的関心で言えば、まるでしょっちゅう動く「キョウイクカイカク」と同じに思えるのだ。( 春 )