mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

あぁ勘違い ~ 詩人 黒田三郎さんに出会う ~

 先週の水曜日(19日)、クローズアップ現代プラスが、詩人の茨木のり子さんを取り上げた。亡くなられて16年が経つ今も、詩集の重版が相次ぎ、世代や国境を越えて人々を魅了しているという。番組は、創作の原点を語った貴重な肉声が見つかったことから、今を生きる私たちの心に響く茨木のり子さんの言葉に迫った。

 思い出せば、私が詩に出会ったのは大学入学のとき。入寮して案内された部屋はベットとスチール製の勉強机、それから括り付けの本棚と収納棚があるだけの簡素で殺風景なものだった。その収納棚とベットとの隙間に一枚のポスターがそっと貼られてあった。険しい山なみと背景に広がる青空、その青空に黒のマジックで詩が記されていた。

  紙風船   黒田三郎

 落ちてきたら
 今度は
 もっと高く
 もっともっと高く
 何度でも打ち上げよう

 美しい
 願いごとのように

 期待と不安で始まるこれからの大学生活を思いながら、この詩を読んだ。詩的感性など微塵も持ち合わせていなかった私の心に風が吹いた。とても素敵な詩だと思った。と同時に、これは私に送られた詩だと感じた。そのことは間違いなかった。しかし、私は大きな大きな勘違いをした。黒田三郎その人を、この寮の卒業生だと勝手に思い込んだのだ。入学してくる私に向けて、こんな素敵な詩を書き送ってくれる卒業生がいる。どんな卒業生なんだろう?・・・、思いは満ち満ちた。入学当初の不安な夜に、私はこの詩を読んで慰められ、また勇気づけられた。勝手な思い込みというのはすごい力を発揮するものなのだ。

 その勘違いに気づいたのは、入学からしばらく経ってからのことだった。が、それはまた大変あっけないものだった。寮の先輩の部屋で飲んでいたときのことだ。その先輩は読書家で知られ、部屋にはスチール製の本棚が3本4本と林立し、どの本棚も本がいっぱい。2,3歳しか違わないのにこんなに本を読んでいるのかと、それは1年生の私たちを圧倒するものだった。その本棚の一角に見つけてしまったのだ。黒田三郎、その人の名を。あれっ?と思いながら恐る恐る同姓同名のその本を手に取り、ページをめくると確かにそこに「紙風船」はあった。
 なんとも複雑な気持ち。身近に感じていた卒業生としての黒田三郎さんが遠退き、著名な現代詩人の黒田三郎さんが忽然と現れたのだから。

 これが私の詩との出会い、そして詩人黒田三郎さんとの出会いでした。ですから自分で買った初めての詩集は黒田三郎さんのものでした。ちなみに冒頭の、茨木さんの詩集を手にするのはもう少し後のこと。それはまたそのうちに。(キヨ)

(余談)「紙風船」は、黒田三郎さんの書かれたものですが、その詩をポスターに書いて貼ったのは、明らかに421号室というこの部屋にいた寮生に違いありません。その寮生とは誰なのだろう、またポスターにどんな思いでこの詩を書いたのだろうと想像することは、未だに楽しいことです。