mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより90 ウメモドキ

  野鳥たちを待つ  小さな鈴なりの赤い実

 早朝の散歩道、あるお宅の庭先に小さな赤い実をびっしりつけている木がありました。赤い実は朝の光を受けて輝いています。ウメモドキの実でした。
 ウメモドキは、モチノキ科モチノキ属の落葉低木で、葉の形がウメの葉に似ていることからこの名があります。本州、四国、九州地方に分布し、山野の湿地やその周辺に自生していますが、その花や実が美しいので庭木としても好まれ、住宅地の庭にもよく植えられています。

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     見るうちにしだいに紅き梅擬(うめもどき)  山口誓子

 4月、雑木林で自生するウメモドキを見つけました。裸木は灰色の樹肌なのでまわりの木々と同じように見えますが、芽吹きの頃になると、若葉はやや赤みを帯びて開き、しだいに若草色から緑色に変化しながら、先のとがった卵形の葉になって、ウメモドキらしさが出てきます。

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  早春のウメモドキ      葉の芽吹き       若草色から緑色の葉に

ウメモドキは雌雄異株の樹木です。花が咲かないと雌株と雄株の違いが、私には見分けられませんが、植木職人さんは、雌花のつく雌木は幹が優しく、雄花のつく雄木は枝ぶりが暴れるらしく、雌雄の木の姿が見えるそうです。長年、樹木を見続けているとそうした直感が働くようになるのでしょうね。

 初夏の頃に、ウメモドキは淡紫色の3mmほどの小さい花を咲かせました。雄株の雄花でした。雄花は葉のつけ根の葉腋にたくさんついています。
 近くで探すと雌株の雌花も見つかりました。雌花は葉のつけ根に2~4個ずつついていました。花びらはどちらも4枚から5枚。雄花には5本の雄しべがあって黄色い花粉が出ています。雌花の中央には黄緑色の雌しべがあって、そのまわりを退化した白色の雄しべが囲んでいました。

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      雄株に咲いた雄花。数多くつきます。       雄花の雄しべと黄色い花粉

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  雌株に咲いた雌花。葉の腋に2~4個ほど。   雌花の雌しべと退化した雄しべ

 雌花に退化した白い雄しべがあるのはどうしてなのでしょう。
 多くの植物は、一つの花に雄しべと雌しべの両方ある両性花を咲かせます。両性花は自家受粉で容易に多くの種子を残せますが、環境の変化が起きると種全体が全滅してしまうリスクをはらんでいます。植物たちは他家受粉による遺伝的多様性のある種子を残さなければ、環境変化の激しい地球上で生き延びることはできません。
 多くの両性花を持つ植物は、他家受粉を優先させるため、自家受粉しても種子ができないようにしたり、雄しべと雌しべの成熟時期をずらしたりするしくみを備えています。植物たちのあるものは、雄花と雌花を別々に咲かせるように進化してきました。ウメモドキもそのひとつです。ウメモドキの雌花のなかにある雄しべは、花粉を出す必要がなくなって退化したもので、かつては両性花であったというしるしです。雄花にも雌しべがあったと思われますが、雌しべは完全に退化したと考えられます。
 雄花と雌花を別々に咲かせる植物でも、キュウリやクリなどは同じ株に雄花と雌花を咲かせます。イチョウやサンショウなどは、ウメモドキと同じように雄株と雌株に分かれて、それぞれ雄花と雌花を咲かせます。植物たちは自分にあった選択をしながら生存の道を探っているのです。

 9月末、受粉後にできたウメモドキの実は、初めは緑色で葉に隠れて見えませんが、気づかないうちに大きくなって色づき、急に赤くなるので驚きます。緑の葉のなかの赤い実も、黄葉のなかの赤い実も美しく、落葉後はその実が枝々に鈴なりになって一斉に顔を出します。赤い実はあたりを赤く照らし、晩秋から冬おそくまで残ります。

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    葉が緑色のうちに赤く色づきます。       黄葉の頃の赤い実

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      うめもどき燃えたつごとき深紅の実  北河紀美子

 ウメモドキが赤い実をつけるのと同じ頃に、名の似ているツルウメモドキも赤い実をつけます。ツルウメモドキは、ウメモドキに似たツル性の木ということでその名がつけられていますが、ウメモドキはモチノキ科、ツルウメモドキニシキギ科で、同じ仲間ではありません。
 ツルウメモドキは、北海道から沖縄まで分布、主に日当たりのよい山野や林などで、他の樹木にからみついて自生しています。ウメモドキより奔放で野生的という感じがします。
 ツルウメモドキは、春に小さな黄緑色の花を咲かせます。秋になると黄色い殻に包まれていた実が3つに割れて、赤色の仮種皮に包まれた種子が顔を出します。黄色い殻と赤い種子の対比が美しく、庭木や道路わきの植え込み等に植えられていたり、ツルがしなやかで加工しやすいのでリースや生け花にも使われたりしています。

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     実を割りて蔓梅擬(つるうめもどき)華やぎぬ  日隈翠香

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 絡みついて高く伸びるツル         黄色い殻をかぶった赤色の種子

 ウメモドキやツルウメモドキなどの赤い実には、晩秋から冬にかけて、ヒヨドリツグミオナガジョウビタキメジロヒヨドリなどの野鳥たちが集まってきます。
 野鳥たちは春から夏にかけてヒナを育てるために栄養豊富な昆虫を食べますが、昆虫がいなくなる冬場は、植物食に切り替えて生き延びています。
 鳥は赤い色を認識できるため、赤い実を食べる確率があがります。鳥たちに実を食べてもらうと、広い範囲に種子が運ばれ子孫を残すことができます。植物たちの赤い実は、鳥の好みに合わせて共進化してきたものです。
 野鳥たちが食べる赤い実を口に含んでみると、渋かったり、苦かったり、辛かったりで、とても食べられません。歯を持つ哺乳類はかむことで味がわかるので、美味しい果実を求めますが、野鳥たちは小さな実をかまずに丸呑みしています。鳥の味覚は人間の味覚で判断するのは間違いなのでしょう。じつはこの鳥たちの丸呑みが、小さい赤い実たちにとっては都合がいいものなのです。

 ウメモドキやツルウメモドキの実には、その場に落ちただけでは発芽しない発芽抑制物質が含まれています。その実が野鳥たちに丸呑みされて、歯のない鳥がかむ代わりに持っている砂嚢という丈夫な胃(筋胃)を通過するとき、発芽抑制物質が吸収されます。その結果、排出された種子の発芽率が促進されるというのです。ナナカマドやマサキなどの赤い実もその場に落ちたものは発芽せず、鳥の砂嚢を通過したものほど発芽率の高いことが発芽試験で証明されています。(上田啓介著『花・鳥・虫のしがらみ進化論』築地書店)
 植物たちが遠くの地で子孫を残し生き延びるために進化させたしくみなのでしょう。自然界のしくみは知れば知るほど不思議です。

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         里山の出口入口うめもどき  岡井省二

 ところで、「…モドキ」のつく食べ物といえば、おでんや煮物に欠かせない「ガンモドキ」というものがあります。この名はすでに江戸時代に書かれた「豆腐百珍」に尋常品としてとりあげられていますが、その名の由来はというと、ガン(雁)の肉に味を似せて作られた食べ物だからというものです。「ガンモドキ」の「…モドキ」には、ニセモノというニァンスがこめられています。

 植物名で「…モドキ」のつくものを植物図鑑で探してみました。
ウメモドキ オウバイモドキ キクイモモドキ ギンリョウソウモドキ クロウメモドキ クワモドキ サフランモドキ サルオガセモドキ セリモドキ タチバナモドキ ツルウメモドキ ブタクサモドキ ヒシモドキ ヤブレガサモドキ・・・・・くわしく調べると、もっとあるでしょう。

 ここで使われている「・・・モドキ」はニセモノという意味はなく、「ある種に似ているけれども、実は全く異なる種」という意味のようです。なかにはニセモノという意味ではないのに、わざわざ「ニセアカシア」「ニセアゼガヤ」などと「ニセ」の接頭語をつけるという不思議な命名をしているものもあります。

 ウメはバラ科で、ウメモドキはモチノキ科。ウメとウメモドキは形や色が似ていても違う種という意味を「モドキ」で区別しているのでしょうが、最初に発見、命名されたものが主流であとは傍流とされ、「モドキ」とか「ニセ」とかで命名された植物たちはどんな思いでいるのでしょうね。かれらの尊厳(?)につい思いをよせてしまいます。
 それぞれの植物たちはみんな違って独自の生き方をしているわけで、どこか軽々しい命名は、人が自然とどう向き合っているかを示す時代の反映なのかもしれません。

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        梅もどきの洗はれてゐるけさの雪  室生犀星

 人間たちの勝手な命名にかかわりなく、植物たちの生き方は爽やかです。ウメモドキに雪が積もった朝は、犀星の一句がぴったりでした。赤い実は鮮やかさを増し色彩のない冬の風景に華やぎを添えています。(千)

◇昨年12月の「季節のたより」紹介の草花