mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより27 ハナイカダ

   葉の上に花を咲かせる 珍しい植物

 「花筏(はないかだ)」という美しい日本語があります。風に吹かれて散った桜の花びらが、水面に浮かび帯のように連なって流れゆくようすが、筏のように見えることから、その風情を花筏とよんでいます。
 そしてもうひとつ、「ハナイカダ」と呼ばれる植物があることをご存知でしょうか。この植物はとても変わっていて、葉っぱの真ん中あたりに花を咲かせます。それが、まるで筏に花が乗っているように見えることから、ハナイカダと呼ばれているのです。情緒ある名を、誰が名づけたのでしょう。季節の花を人の暮らしと重ねて楽しむ心がこんな発想をうみだすのでしょうか。

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      葉の真ん中で咲くハナイカダの花(雄花)

 最初、植物図鑑で見かけたときは、こんな花があるのかと意外に思ったものです。春の野山を散策していて偶然見つけ、すぐにハナイカダとわかりました。周りの木々の姿と少しも変わりないのですが、爽やかに四方に開いた緑色の若葉の上に、花がちょこんと乗って咲いていました。常識的には考えられない花の姿がそこにありました。

 ハナイカダは、ハナイカダ科の落葉低木で、北海道、本州、四国、九州に分布しています。ハナイカダ科の植物が世界で分布しているのは一属4種、そのうちの1種が日本に自生していて、学名を「Helwingia japonica」といいます。「japonica」と入るように日本原産で、極めて珍しい植物です。宮城県内でも平地や丘陵地の雑木林、湿った谷沿いなどに自生していますが、その場で咲いていても、ひそやかに花を咲かせ実を結び、隠れ里の佳人のような存在なので、気がつく人は少ないかもしれません。

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  ハナイカダの花のつぼみ(雄花)    葉の裏にうつる花の影(雄花)

 ハナイカダは雄株と雌株とに別れています。開花期は5月~6月頃。雄花も雌花も、それぞれ葉の真ん中に花を咲かせます。花といえば、茎から花茎が伸びて花を咲かせるのがほとんどなのに、これはどうしたことなのでしょう。

 植物の進化の歴史でいうと、花のつくりは葉が進化してできたものといわれています。植物の葉と花は必ず茎から出るようになっています。
ハナイカダの花がついている葉(下の写真)を見てみましょう。葉の中心を通る葉脈(主脈)の色や太さが、茎側から花までと、花から葉の先端まででは異なっていることに気づかれるでしょう。研究者によると、これは、進化の過程で、葉のわきから出る花序の軸が、主脈と結合したためと説明されています。
 ハナイカダは、花序の軸と葉の主脈とが結合して一つになっているので、葉の真ん中から花が咲いているように見えるのです。ハナイカダは、茎から花が出るという植物界の基本ルールを破っているわけではないようです。

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  葉の中心の葉脈を見ると、花の右側と左側では、色や太さが違います。

 ハナイカダの花は、淡い緑色の小さな花です。花びらは3~4枚ほど。雄花は3~4本の雄しべを持っていて、葉の上に数個の花が集まってつきます。雌しべを持つ雌花は、ふつう1つだけつきます。まれに2つつくときもあります。

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      ハナイカダの雄花(数個)

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      ハナイカダの雌花(1つ)

 これらの花はなんと小さく地味で目立たない花なのでしょう。
 多くの花は、受粉の仲立ちをしてくれる虫をひきつけようと、花を美しく目立つようにしているのに、こんな地味な花に虫たちがやってくるのでしょうか。
 ところが杞憂でした。写真を撮っている間にも、小さな虫たちが入れ替わりにやってきて吸蜜をしていました。目立たない花でも、その花を必要とする虫たちがいるのです。自然界の生きものどうしの結びつきが多様であることに、あらためて気づかされました。

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    雌花の蜜を吸う虫たち。目立たない花でも集まってきました。 

 それにしても、ハナイカダは雌雄異株なので、雄花に集まった虫が雌花に飛んでいかなければ、受粉できません。近くに雌株はありません。探し回って、やっと2m程離れた雑木林の中に雌株を見つけました。これくらいの距離なら、受粉できる可能性はありますが、確実とはいえません。雄花に集まった虫がそのまま雌花に飛んでいくとは限らないからです。
 雌雄異株でないほうが、受粉には絶対有利だと思うのですが、ハナイカダは、自家受粉を避けてどんな環境にも対応できる丈夫な遺伝子をもつ種子を残そうとしているのでしょう。ハナイカダは多くの仲間を増やさなくても、確実に生き残れる道を選んでいるようです。

 8月にハナイカダの雌株を訪れたら、黒い実ができていました。

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    実をつけたハナイカダの木         熟した黒い実

 実は食べられると図鑑にあったので、口にしてみたらほのかな甘味がありました。中に種子が2~4個入っていました。この実を運ぶのは誰なのでしょう。甘いので鳥たちが食べると思われます。残った実は、強風で巻きあげられた葉にのって、空飛ぶ絨毯のように運ばれていくのでしょうか。
 林の中のハナイカダの木の数は多くはありません。それでも、絶滅危惧種にもならずに、命をつないできているのは、遠くに運ばれた種子たちが芽を出し、確実に子孫を残しているからなのでしょう。

 ハナイカダは、若菜が山菜として食べられていました。茎の中心部の柔らかい部分(髄)は、灯心に使われていました。ヨメノナミダ、イボナ、アズキナ、ママコナと、生活色豊かな方言も残っていて、暮らしの身近な木でもあったようです。今も、季節感を大切にする茶道ではお茶室に飾られます。

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  山地の林下に生えるハナイカダの木。大きいもので3mほどになります。

 ハナイカダは、花の色も形も、実に控え目。数も少なく目立たない花です。多くの植物は花を華やかに進化させているのに、その対極にいるのがハナイカダです。植物界は同質、異質が共存し多様性に富んでいます。存在することに意味があり、みんなつながりあって生きている。植物界のハナイカダの存在は、何か大切なことを私たちに語りかけてはいないでしょうか。(千)

◆昨年5月「季節のたより」紹介の草花

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