mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより4 ハルジオン

  園芸用として、日本へ 

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 2年生の子どもたちと野外散歩に出かけたときです。
「この花、なんというの?」と聞かれて、「名前をつけてごらん」と言ったら、子どもたちは、「メダマヤキバナ」(目玉焼き花)、「カッパノオサラ」(河童のお皿)、「コドモヒマワリ」(こどもひまわり)などと名づけました。うまいものです。キク科の花の頭状花序の特徴をうまくつかんでいます。

 すぐに名前を教えれば、子どもたちはわかったつもりになって花をよく見ることはしなかったでしょう。自分で名づけようとしたので、花と向き合う姿勢が生まれ、特徴をつかんだおもしろい名前を考え出したのです。名前をつけたらぐっと親しみがわいてきて、この花の最初の発見者はなんと名づけたのか、図鑑で調べる期待もふくらむのでした。
 野山で知らない野花に出会ったら、まず自分で命名してみるのはどうでしょう。印象も記憶も深まります。大人の野外観察でもおすすめです。

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                   朝露にぬれたハルジオンの花

 ところで、このハルジオンは、大正時代に園芸用としてアメリカから日本に持ち込まれたもの。当時はピンクの花色のはっきりした花が花屋さんの店先を華やかに飾っていました。今も野に咲くハルジオンの花は当時の美しさや可憐さをそのまま見せてくれます。しかし、花屋さんを訪れるお客は次々と目新しい花を求めるようになり、ハルジオンはいつしか見捨てられてしまいました。

 ハルジオンは、秋に咲くシオン(紫苑)に対して、春に咲く紫苑である「春紫苑」の意味。だから、正式な名は「ハルシオン」と主張する人もいますが、どういうわけか植物図鑑ではハルジオン、ハルジョンという名前で出ています。ちなみに、ハルジオンとよく間違えられるヒメジョンは、「姫女苑」です。このヒメジョンも明治時代にアメリカから導入され、「柳葉姫菊」と呼ばれて珍重された歴史を持っています。ヒメジョンもハルジオンと同じ運命をたどっていたのでした。

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 花屋さんから追い出されたハルジオンは、タンポポと同じように綿毛で種を飛ばし、根をはり根生葉(ロゼット)で越冬もして、自力で分布を広げました。春先に一斉に開花するので、美しい季節の風物詩としてとりあげられました。
 今は農道や畦道、住宅地の庭だけでなく、人の住まない荒れ地や空き家の屋根など、いたるところに見られ、いつしか「貧乏草」と呼ばれようになり、その果てに、害のある雑草として嫌われ除草剤で駆逐されるしまつです。

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                         ハルジオンと栗駒山 

 人間においつめられたハルジオンですが、負けてはいませんでした。除草剤の厳しい攻撃にさらされているうちに、除草剤をかけても生き残るミュータント(突然変異体)を誕生させたのです。
 都合の悪いものは駆逐しようとする人間と、抵抗して生き延びようとするハルジオン、その戦いはこれからも続くでしょう。

 人間の都合で無理やり日本に連れてこられたハルジオンは、見知らぬ土地で見捨てられて懸命に生きる道を探っていただけなのに、今は迫害の身にさらされています。ヒメジョンも同じです。帰化植物の多くが、日本の生態系を壊すという理由から同じ運命をたどっています。彼らに罪はあるのでしょうか。

 ハルジオンの花期は4月から6月頃、ヒメジョンの花期は6月から10月頃です。6月頃は共存して咲いているので、どちらなのか迷うこともあるでしょう。

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 その見分け方はそう難しくありません。ハルジオンのつぼみは恥ずかしそうに下を向いていますが、ヒメジョンは下向きは稀です。ハルジオンの葉は茎を抱いていますが、ヒメジョンは抱いていません。茎を折るとハルジオンはストローのように空洞で、ヒメジョンは詰まっているので区別できます。

 ハルジオンとヒメジョンは、ともに似たような運命をたどった姉妹のような草花です。並んで咲く季節には、どんな思いを語り合っているのでしょう。人間は一度その声に耳を傾ける責任があります。(千)