mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより158 アブラツツジ

  真っ赤に紅葉するツツジ  つぼ形花の雄しべの秘密

 青葉山の散策路を歩いていると、晩秋の西日を受けて、辺りの木々の葉の紅葉が浮かび上がりました。ひときわ鮮やかな赤色は、アブラツツジの紅葉でした。
 赤く紅葉する木といえば、モミジやカエデの仲間、メグスリノキなどが目につきます。アブラツツジは背丈程の大きさで、葉も小さいので、普段はあまり目立ちませんが、秋の紅葉の季節になると、モミジヤカエデに引けをとらないほど赤く紅葉してその存在を際立たせます。
 アブラツツジは本州の中部以北の山地に自生する日本固有種です。宮城県が北限になっていて、県内の丘陵地や山地の斜面の上部、乾燥した林内や林縁を歩くと出会うことができます。


            真っ赤に紅葉したアブラツツジ

 アブラツツジツツジドウダンツツジ属の落葉低木です。庭木や校庭の周りに植樹されているドウダンツツジと同じ仲間です。ドウダンツツジの紅葉を思いうかべてもらえるなら、その見事な赤さを想像してもらえるかと思います。

 アブラツツジの紅葉はそんなに長くなく、やがて赤い葉は茶色になり、ちりちりになって落葉していきます。そのあとに長い柄のついた茶色の実の殻が枝々にぶら下がっています。冬の間はそのままなので、この殻を見つけたら、アブラツツジの冬の姿と判断していいでしょう。

 
       枝にぶら下がる実の殻          アブラツツジの冬芽

 茶色の殻がぶら下がっている枝先には、もう冬芽がついていました。先端がとがったやや細長い卵形。赤味を帯びた皮をかぶり、冬の間はこの姿で寒さから身を守ります。

 春。暖かい風に誘われて冬芽は皮をぬぎ、黄緑色の幼葉が姿を見せます。
 芽吹きが始まると、冬芽の幼葉は葉を広げ、幼葉から若葉へ、若葉から緑の葉へと変身、森は新緑色に染まっていきます。葉の間をのぞいて見ると、小さなつぼみができています。

   
   冬芽が皮を脱ぐ      開いた若葉       葉の間のつぼみ


       アブラツツジの若葉。森は黄緑色に染まっていきます。

 アブラツツジの葉は枝先に集まり輪生状についています。葉の形は楕円形。葉の縁はギザギザしていて、裏の葉がなめらか、油を塗ったような光沢があるので、アブラツツジの名前の由来となっています。
 つぼみはやがて1~2cmほどの花柄をつけて、輪生した葉の間から、ぶら下がるようになります。

 
 葉の間から下がるつぼみ    つぼみがぶら下がると、目立ってきます。  

 アブラツツジの花期は5月~6月。つぼ形の小さな花が枝先に吊り下がって咲きます。緑白色の花がふっくらとふくらみ、花の縁廻りがそり返りフリル飾りのよう。無駄のないシンプルな花姿は、自然が生んだ造形品です。

 
  アブラツツジの花        枝々に連なって咲き出します。

 花の中をのぞくと、何やら複雑な形が見えました。図鑑では、アブラツツジは雌しべが1本、雄しべが10本とあります。真ん中に長く突き出ている雌しべの1本はわかりますが、雄しべの数は。何やら角のようなものがからみあっていて数えられません。

 
    つぼ形の花をのぞいてみると       雄しべがからみあっています。

 アブラツツジと同じつぼ形の花をつけるのが、アセビドウダンツツジです。春先に咲くアセビの花を見ると、やはり花の入り口の縁がそり返り、花のなかの雄しべの角のような突起物がからみあっています。5月に咲くドウダンツツジの花も同じ姿です。
 

   
    アセビの花        下からのぞくと    雄しべがからみあっています。   

 つぼ形の花にはハナバチの仲間が集まってきます。ハナバチは蜜を吸うとき、逆さになるので、つかまりにくい花にはちょっとした足場があればずいぶん楽です。そのことをわかっているかのように、つぼ形の花は入り口の花びらを反り返し、いい足場を準備しているのでした。
 では、雄しべに生えている突起物は、いったい何なのでしょうか。図鑑をあたっていたら、ドウダンツツジを例に この角の役割りを紹介しているものがありました。

 
     ドウダンツツジの花とハナバチ      ドウダンツツジの雄しべと雌しべ

 角はいわば昆虫センサーである。少しでも角に触れると、葯が揺れ、先端の小さな穴から淡黄緑色の花粉がこぼれ落ちるのだ。こうしてハチの口もとについた花粉はやがて花の入り口まで伸びている雌しべの柱頭に運ばれていく。花粉はほかの虫媒花より粘りが少ない。トマト、スミレなども昆虫の振動で花粉が落ちるが、こういう花の花粉はすべてさらさらしている。
                (田中肇『point図鑑「花の顔」』山と渓谷社

 アセビドウダンツツジもアブラツツジも、雌しべが1本、雄しべが10本あって、10本ある雄しべの葯には角が2本ずつ生えていて、狭い花の中で20本の角がひしめきあっているのだそうです(田中肇・同図鑑)。
 つぼ形の花は、ハナバチが蜜を吸おうと口を伸ばせば、必ずこの雄しべの角に触れてしまうしくみを備え、受粉を確実にしていたのです。
 花は少ない蜜の報酬でいかにたくさんの花粉を運んでもらうか、昆虫はいかに楽に花から蜜をたくさん得るのかという、いつも両者は緊張関係にあるのでしょうが
雄しべの葯にある角も、そこから生み出された花の知恵なのでしょう。
 同じ昆虫を花粉の運び屋に選んでいる花は、属するグループが違っても花の形が似ています。花の形だけでなく、雄しべの形まで似ているのには驚きました。

 受粉した花は、長い花柄をつけたまま子房がふくらみ実になります。実は熟しながら紅葉の季節を迎えます。

 
  子房がふくらみ実ができています。     実は熟しながら紅葉を迎えます。

 アブラツツジの実も花と同じように枝からぶら下がります。緑の葉から紅葉に変わる期間も葉の間から見えるので、ちょっと変わった紅葉の風景を楽しめます。


          アブラツツジの紅葉と枝先にぶら下がる実

 紅葉のあと落葉し、実は熟していきます。成熟した実は直径4mmほど。手にとり軽くつまむと中に堅い種子が入っているのがわかります。種子は長さ2mmの長楕円形。なめらかで綿毛も翼もありません。

 熟した実は弾けて種子を飛ばしますが、自力散布です。殻に残った種子も残らず散布されるためには、風で枝がゆすられる期間が長い方がいいのでしょう。花柄のついた実の殻は、春になり冬芽が芽吹いても、まだ枝先に残っています。

   
 紅葉の終わりごろの実      成熟した実      種子と弾けた実の殻

 アブラツツジを園芸栽培するときは、種子をまいても発芽に時間がかかるので、主に挿し木で増やすのだそうです。自然界の多くの木は散布された種子で増えます。小さな種子が幸運にもいい条件の場所で発芽し、無事に育って花を咲かせ、美しい紅葉を見せるまでに、どれだけの試練や困難があったことでしょう。それを思うと、目の前の一本のアブラツツジの存在が尊いものに思えてきます。

 里山を散策していると、アブラツツジアセビドウダンツツジの他にも春先から普段よく目にするツツジの仲間がいます。

     
  トウゴクミツバツツジ   ヤマツツジ     ナツハゼ       ネジキ

 里山で一番最初に咲き出すのはトウゴクミツバツツジ里山を代表し、県内どこでも見られるのがヤマツツジ。葉かげに地味ですが気品ある花を咲かせるのはナツハゼやネジキの花です。

     
   サラサドウダン    レンゲツツジ     バイカツツジ     ホツツジ

 サラサドウダンは下から花をのぞくと、アブラツツジのような雄しべの突起物がよく見えます。レンゲツツジツツジでは一番大きく主にオレンジ色の花を咲かせます。独特の花の姿で目をひくのは、バイカツツジやホツツジの花です。

 これらのツツジの開花は、昆虫たちが蜜を求めて活発に活動する春から夏にかけてです。花の形や色、蜜や香りなどをそれぞれ変えて昆虫たちをひきつける一方で、開花時期を微妙にずらして訪花活動を分散させ、受粉の機会を平等にしています。
 秋は完熟させた種子をどう散布するかがツツジたちの大事な仕事です。種子を軽くしたり、翼をつけたり、実の殻で種子を弾きとばしたり、それぞれ工夫をこらしています。落葉前に見せる紅葉も、並行して準備する冬芽の姿も、春の芽吹きと新緑への変化も、それぞれが独自の美しさを見せて、同じ姿のものはありません。
 春夏秋冬、アブラツツジの一年を見てきたように、他のツツジ科の花の一年も、
季節を変えて見続けるなら、きっと違った魅力に気づかせてくれるでしょう。
 この地上に生きるどの草花も樹木たちも、自然のしくみにそって生きるいのちの美しさを、独自の姿で私たちに見せてくれているのです。(千)

◇昨年10月の「季節のたより」紹介の草花