mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより135 カタバミ

  光を感知し種子を連射  小さな草花の超能力

 立冬がすぎて、木の葉が散り花の姿も見えなくなりましたが、目に入ったのがこの花でした。空き地の土留めに並べられた丸太のすき間にわずかにたまった土に根をはり、茎を伸ばして花を咲かせています。カタバミの花です。


          丸太のすき間で花を咲かせたカタバミ

 カタバミカタバミ科カタバミ属の多年草。日本全土の日当たりの良い場所に生育し、畑、庭、道ばたなどのいたるところで見られます。有史以前に農耕とともに日本にやってきた史前帰化植物といわれています。

 カタバミはふつう、葉は緑で、花は黄色、花の中心部は薄い緑色をしています。ところが、葉や茎が赤紫色で、花の中心部にオレンジ色の模様のある株もよく見られます。濃い赤紫色の葉のものはアカカタバミ、緑色と赤紫色の中間色のような葉のものはウスアカカタバミと呼ばれ、主として葉の色の違いによって品種として区別されていますが、これらは同種で、総称としてカタバミと呼ぶことが多いようです。

   
    カタバミの葉と花     アカカタバミの葉と花    ウスアカカタバミの葉と花

 カタバミの花期は5~10月頃ですが、今年は平均気温が高く、今も直径8mmほどの黄色い花を咲かせ続けています。
 花びらは5枚。雄しべは長いものと短いものが5本ずつ。雌しべは1つで花柱が5本に分かれています。雌しべの柱頭と長い雄しべの葯が同じくらいの高さで並んでいます。

 
    雌しべの柱頭と雄しべ        曇りや雨の日は、花は閉じています。 

 花は太陽の光を受けると朝に開花し、晴れている日は午前中咲き続け、夕方には閉じています。日かげにある花は、太陽の光が回ってくるのを待って咲き出します。
 花が咲き出すと、ミツバチや小型のハナバチ、ハナアブたちが次々とやってきて花粉を運んでいきます。
 曇りや雨の日は一日中閉じたままです。虫たちが活動しないときは花を閉じて、花粉が無駄に流失しないように防いでいるのでしょう。

 
   シジミチョウ(ヤマトシジミ)   ハナバチの仲間    アナアブの仲間

 カタバミの葉は3つの小葉が集まっています。シロツメクサの葉に似ていますが、シロツメクサの小葉は丸みを帯びて、カタバミの小葉はきれいなハート形をしています。
 カタバミシロツメクサの葉には、雨上がり、かわいい水玉ができていて、風にゆれるとコロンとこぼれ落ちます。ハスの葉やサトイモの葉にはもっと大きな水玉ができて流れ落ちます。これらの葉の表面には、水をはじくしくみがあって、葉を水の重さから身を守ったり、光合成の効率を高めたりしているのです。

 
  シロツメクサの葉(左)とカタバミの葉(右)    カタバミの葉の上の水玉

 カタバミは夜には葉を閉じています。日中でも太陽の光が強いと葉を閉じます。カタバミの3つの葉の合わせ目部分には、細胞内の水分量を調節して葉を開閉する組織があって、光の量でオンオフを操作する「自動開閉システム」が働いているのだそうです(多田多恵子著『したたかな植物たち』ちくま文庫)。
 夜間は放射冷却によって熱が奪われないように保温し、昼の強光のときは、水分不足にならないよう蒸散活動を抑えていると考えられています。
 この時の葉のようすが、半分欠けて食べられているように見えることから、「片喰」もしくは「傍喰」が、カタバミの語源になったといわれています。

 
   昼、開いているカタバミの葉     夜、折りたたんでいる葉(午後9時頃撮影)

 カタバミは次々と花を咲かせながら、先に咲いた花から実を結んでいきます。
 カタバミの実はオクラの実を小さくした形をしています。こどもたちがこれを見ると小型ロケットだとよく言います。
 実のなかには小さな種がつめこまれていて、熟した実にちょっとした振動を与えると次々と飛び出してきます。

   かたばみの 種に撃たるる 大暑かな  飯田龍太

 庭や畑で草取りをしたことがあるなら、この句に思い当たることがあるでしょう。こどもたちと花壇や学校農園で草取りをしたときも、まさに撃たるるごとく、小さな種子がピュピュッと顔や手に飛んできて大騒ぎ。一緒に飛び出してくるミニポップコーンのような白いものにも興味津々で、いつの間にか「種飛ばし遊び」になっていました。

 
 カタバミの実。オクラの実やロケットの形をしています。    まだ未熟な白い種子

 カタバミの種子はそれぞれ透明なうす皮の袋につつまれています。最初はうす皮と種子と一緒に成長し大きくなりますが、種子が大きくなるにつれ、うす皮の外側の伸びは止まって、内側の皮だけが細胞分裂を繰り返して伸びていきます。
 そのため「タネ(種子)が熟す頃には内側の細胞層は無理に押し縮められた状態」になって、ついには「タネのまわりの袋が内外の圧力差に耐えきれなくなり、振動をきっかけに瞬間的にやぶれて裏返って」「中のタネは文字どおりの巻き添えを食い、実の裂け目から猛烈な勢いで飛び出してくる」のです(同ちくま文庫)。
 これは、カタバミの種子の一つひとつに、振動感知センサー搭載の発射装置が備えられているようなものです。

 
    熟してきた実  種子は透明の薄皮に包まれています。  反転した薄皮の種子

 カタバミの種子が飛び散るようすは、何しろ超高速なので目が追いつきません。ところが、この種子散布の連射の瞬間を高速度撮影でとらえたものがありました。NHKが提供する教材動画(はじける種 カタバミ」 NHK for School)です。
 これを見ると、カタバミの種子と白くなったうす皮は、実の皮の裂けめから一緒に飛び出していました。驚いたことに、うす皮は斜め下に、種子は斜め上方にと仕分けられて飛び出しています。使用済みのうす皮は地面に落下、種子は高速でできるだけ遠くへということなのでしょう。
 ミニポップコーンのように見えたのはうす皮でした。種子は1mから2mは飛んでいくので、かなり広い範囲に散布されます。また、種子の表面には粘液があって、これが接着剤になり、振動を与えた人の服や靴、動物の毛や足に貼りつき、さらに遠くまで運ばれます。

 
 発射できずに残った種子と薄皮は、実についていました。   地面に落ちた皮と種子

 散布された種子は、地面に落ちるとまもなく発芽します。発芽して地表をはい、茎が地面と接すると、節から発根して地表を覆うように広がります。根は直根で、細長く、土深く伸びて、抜こうとすると途中でちぎれて土中に根が残り、そこからまた生えてきます。こうしてカタバミは、種子と根で春から晩秋まで旺盛に繁殖し、生活圏を広げています。
 小さな草花がこの地上で仲間を増やし、生き抜くための技はみごとです。そして、それは人間が知恵を働かせ、技術を生み出すよりはるか以前に、小さな草花の「いのち」の進化の過程で生み出されたものなのです。

 
   発芽した種子。葉を増やしていきます。     カタバミの茎と根

 カタバミは漢字で酢漿草(さくしょうそう)の字が当てられ、カタバミとも読まれています。酢漿草とは酸っぱい草という意味です。カタバミは体全体に酸の一種であるシュウ酸を大量に含んでいるのでこう当て字されたのでしょう。
 カタバミの葉で金属を磨くと酸の作用でピッカピカになります。こどもの頃、これで10円玉を磨いて新品のようにしたものです。大人は銅製のドアノブや真鍮の仏具などを磨いて新しくしていました。

 
  カタバミの葉をもんで10円玉を磨くと・・・ピッカピカ(下)になります。

 シュウ酸はタデ科のイタドリ、スイバ、ギシギシなどにも含まれています。これらの若芽には酸味があって山菜としても食べられますが、食べすぎると体内のカルシュウムイオンと結合して結石をつくります。
 シュウ酸は多くの生きものたちにとっては毒なので、カタバミを食べる昆虫はいません。ところがそれを逆手にとって、シュウ酸を含むカタバミを食草として食べるように進化してきたのが、ヤマトシジミという小型のチョウの幼虫です。
 ヤマトシジミカタバミの葉に産卵し、幼虫はその葉だけしか食べませんが、他の昆虫と競合しないので、豊富な餌資源を独り占めしています。
 広く分布しているカタバミがあるかぎり、ヤマトシジミの幼虫はその葉を食べ、成虫はその蜜を吸って、この地上で長く生き伸びることができます。


     カタバミの葉を食草にできるのは、ヤマトシジミの幼虫だけです。

 人間とカタバミと関わりを示す古い文献は、清少納言の『枕草子』(1001年頃)です。清少納言は、「草は・・」(第66段)で、「酢漿(かたばみ)、綾の紋にてあるも、異(こと)よりはをかし」(カタバミは綾織物の紋様になっていて、他の草より趣きがあっていいものです)とその葉の形の美しさを讃えています。
 すでに平安中期頃の人々は、均整のとれたカタバミの葉に美しさを感じて、織物の紋柄に取り入れていたのです。

 一方、戦国武将や江戸時代の武家の間では、カタバミの紋様がデザイン化され家紋として使われていました。家紋の種類も多くデザインも多様なことに驚きます。
 戦国武将や武家たちは、カタバミの生命力と繁殖力の強さに感じ入って、この小さな草花に子孫繁栄の願いを託したものと思われ、いかめしくこわもての武将たちと小さな草花の取り合わせに意外性とおもしろさを感じます。

 昔は今よりずっと自然が身近にあって、人々は小さな草花の美しさや強さを感じたり、その性質を知って暮らしのなかに生かしたり楽しんだりしていたようです。
 時代をさかのぼり、ちょうど金属器が使用されるようになった弥生時代に思いを巡らすと、この時代のこどもたちも、畑を耕す親を手伝い草取りしながら、やはりカタバミの「種飛ばし遊び」に興じていたことでしょう。そして、大人たちはカタバミやギシギシ、スイバなどの葉で、銅鏡や銅剣、銅鐸などをぴかぴかに磨いて、祭祀の準備をしていたのではないか。そんな気がしてくるのです。(千)

◇昨年11月の「季節のたより」紹介の草花