mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより113 コセンダングサとひっつき虫

  動けない植物の移動する知恵  いろいろな技

 秋から冬にかけて、野山や川沿いなどを歩いてふと気がつくと、服や靴ひもに草の種子がいっぱいくっついていることがあります。散歩につれていく犬たちの毛にもついています。これらの種子のことを種類を問わずに総称して「ひっつき虫」と呼んでいます。


       コセンダングサの実。トゲのある種子が球状についています。    

 絵本作家の甲斐信枝さんは、ひっつき虫を写生していると、こどもたちを待つ種たちの胸の高鳴りが伝わってくるそうです。「たね」を描いた絵本では、その高鳴りが、種たちの声となって語られています。

 うーんと おおきくしてみると、ぼくたちは とげだらけ。
 こんなに とげとげが いっぱいあるのは、なぜだとおもう?
 ぼくたちは この とげとげで なにかに くっつくんだ。
 そして、どこかへ いくんだよ。
 きた きた、こどもが きた! いぬも いる!
 はやく きて ぼくたちに さわって くれ。
 さわった! いまだ! くっつけ くっつけ。
 かぎを せーたーに ひっかけろ。
 とげを ズボンに さしこもう。
 いぬの けにも くっつくぞ。
 ぼくたちは こどもや いぬに くっついて、のみちを とおり、かわを わたり、ここまでやってきた。そして、つちに おとされて めを だして なかまを ふやす。
      (甲斐信枝『ぼくは たね』 月刊 かがくのとも 1088/10)

 ひっつき虫でもっとも身近に見られるものは、センダングサの仲間の「コセンダングサ」の種子でしょう。
 センダングサは、センダン(栴檀)の木の葉に似ているので名づけられた在来種の一年草です。そのセンダングサより小さいという意味で、コセンダングサ(小栴檀草)と名づけられました。

 コセンダングサはキク科センダングサ属の一年草です。日本にはもともといなかった北アメリカ原産の植物ですが、明治時代になって国内で見つかり、今では全国の道ばたや空き地などに普通に見られる帰化植物です。
 コセンダングサの花は、枝分かれした茎の先端に咲きます。1つの花は、小花が多数集まった頭花です。小花は黄色い筒状の筒状花のみで、花びらのある舌状花は全くないので、花だけを見ると、花びらを散らして坊主になった野菊の花のようです。
 葉は小葉が左右に鳥の羽のように並んだ羽状複葉と呼ばれるものです。一枚一枚の小葉には細かいギザギザが見られます。

   
   コセンダングサ   頭花はすべて筒状花     花びらのある舌状花はありません

 コセンダングサに次いで多く見られるのが、アメリカセンダングサの花です。コセンダングサと同じ北アメリカ原産で、日本に入ってきたのは大正時代です。
 コセンダングサと同じように葉は羽状複葉で、小葉にはギザギザがあって、花も舌状花はなく、両性の黄色い筒状花のみが丸く集まっています。

 コセンダングサとの大きな違いは、総苞片(そうほうへん)と呼ばれる細長い葉が、花のまわりを6~12枚、緑の花びらのようにとり囲んでいることです。総苞片を見れば、コセンダングサとの違いは一目でわかります。
 筒状花のみのアメリカセンダングサに、まれに黄色い舌状花がつくことがあります。舌状花が混じると小さなヒマワリのように見えます。

   
    アメリカセンダングサ    筒状花を囲む総苞編     まれにある舌状花のある花

 コセンダングサの開花期は9月~11月、アメリカセンダングサは9月~10月。ほぼ同じ頃に球体の実をつけます。
 服についた種子を手でとると、ちくちく痛みを感じます。ルーペで拡大してみると、種子の先に長いトゲが見えます。これが動物の毛や人の衣服に突き刺ささって引っつくのです。

 
    コセンダングサの実(種子)     アメリカセンダングサの実(種子)

 驚くのは、トゲがすぐに抜けてしまわないように、小さな「返し」がたくさんついていることです。動物や人が種子に触ると、布や毛が「返し」に引っかかり、そのまま落ちずに遠くまで運んでもらえるというわけです。
 人間が銛や槍、釣り針に仕掛ける「返し」の技を、植物たちがはるか以前から身につけていたのです。

 
  種子の先の「返し」(コセンダングサ)   「返し」(アメリカセンダングサ

 ひっつき虫と言われる種子は、コセンダングサアメリカセンダングサのほかにもたくさん見られます。
 木々の多い公園や空き地、野原の繁みなどに入ると、ズボンやシャツに大量についてくるひっつき虫は、大きさも形もさまざまで、いろんな草花の種子が混じっています。その貼りつき方もそれぞれ違います。
 これまで貼りつかれたひっつき虫を調べてみると、次のような草花たちでした。実や種子ができる前の花の姿も一緒に並べてみます。

     
   オナモミ     ダイコンソウ     オヤブジラミ     キンミズヒキ

 ひっつき虫でよく知られているのは、オナモミの実でしょう。種子は実のなかにあって、その実は殻全体が堅いトゲに覆われています。トゲの先がかぎ状に曲がっていて、強力な「ひっつき力」を発揮します。
 ダイコンソウの実は、「かぎ」のついた長いトゲのある種子が球状に集まったものです。「かぎ」が引っかかると、その先の種子も一緒にはずれて、動物の毛や人の服などについて運ばれます。
 オヤブジラミキンミズヒキの実は、密生した毛のようなものに包まれています。毛のようなものは小さく短いトゲの集まりで、その先端が「かぎ」なのです。その「かぎ」が、毛や布に引っかかり貼りつくようになっています。

     
  ヌスビトハギ     ミズヒキ     イノコヅチ      ハエドクソウ

 ヌスビトハギの実は、肉眼では良く見えませんが、顕微鏡で見ると、実全体に「かぎ」のついた細かい毛のようなものが、いっぱい生えています。これが毛や布だけでなく、人の手のひらにまでマジックテープのように貼りつきます。
 ミズヒキの実の先につく一本のトゲは、雌しべの柱頭が変化したものです。細くてどこか頼りなさそうですが、見かけによらず堅くて丈夫、トゲの先の二又の「かぎ」を毛や布に引っかけ、実のなかの種子を運びます。
 イノコヅチの実は、クリップのように貼りつきます。実の外側につく2枚の細い苞葉がそり返り、毛や布にはさまるようなしかけになっています。
 ハエドクソウは、実の先端にトゲが3本、その先がかすかにそり返って毛や布に付着します。
 ハエドクソウやイノコヅチの貼りつきは、「かぎ」で引っつくより力は弱いのですが、この程度のほうが毛や服から適度に離れて落下し、散布されやすいということもあるようです。

     
   メナモミ     チヂミザサ    ガンクビソウ     ノブキ

 トゲや「かぎ」を使うのでなく、粘液で貼りつくものもいます。
 メナモミの花や実は、ヒトデのような形をしています。花や実を囲む長いものは総苞片で、このまわりの突起から粘液を出します。人や動物が突起に触れると、実のかたまりごと粘液でつき、実のなかの種子が運ばれるしくみです。
 チヂミザサの実は、日に当たるとキラキラ光ります。これは完熟した頃に分泌される粘液がブラシのような毛の先についているからです。実に触ると貼りつき、ネバネバした粘液は、こすれたり、雨にぬれたりしても簡単にはとれません。
 ガンクビソウの実は、細長い種子が集まって丸くついています。種子の先から粘液を出し、触るとベトベトして貼りついてきます。
 ノブキは雌花の付け根がふくらみ、こん棒状の実となります。実の上半部にある腺毛から粘液を出し、動物の毛や人の服に触れるとべっとりとついて離れません。

 これらのすべては、どれも動物や人にくっついて種子を遠くまで運んでもらい、種を残そうとする植物たちの作戦です。自分では動けない植物が、動く生きものたちの能力をうまく借りて移動するために生みだした技なのです。

 これらの植物たちをながめてみると、おもしろいことに気がつきます。ひっつき虫の植物たちは同じ仲間(科)とは限らないのです。オナモミ(キク科)、ダイコンソウ(バラ科)、オヤブジラミ(セリ科)、ヌスビトハギ(マメ科)、ミズヒキ(タデ科)、チヂミザサ(イネ科)などと多くの科にわたっていて、種子散布の方法だけは、同じ「ひっつき」方式を選択しているのです。
 違う進化の道を歩んできた植物たちが、種の存続をめざしてたどりついた結果が最終的に同じだったということなのでしょう。

 これらの植物たちは、けものたちが移動する草地や草原などに多く生えています。草の丈も中くらいのものが多く、ひっつき虫をつける樹木は1つも見あたりません。
 仲間(科)の違う植物であっても、生育環境が同じであったということが、「ひっつき」方式を選択した大きな要因と考えられます。
 それにしても、これらの植物たちは、動物や人の背丈を知っているかのように草丈を調節し、くっついて運ばれやすい位置にその実をつけているわけで、植物たちの進化の知恵は、みごととしか言いようがありません。

 
     秋の野原のコセンダングサ      アメリカセンダングサの草紅葉

 こどもたちはくっつく実が大好きです。オナモミの実は投げるのに適当な大きさで、コセンダングサアメリカセンダングサの実は熟すとバラバラになりますが、未熟なうちはしっかりかたまっていて、投げっこするのにじつにいいのです。
 ひっつき虫だけでなく、落ち葉や木の実、木の枝や石ころなどを拾い集めておくと、こどもたちはそこに集まり、遊びを考えだしたり、好きな絵に組み合わせてみたり、思い思いのものをつくりあげたりすることに夢中になるでしょう。
 市販の遊び道具には、遊び方が決まっていますが、自然を素材とする遊びにはそれがないので、こどもたちは正解のない遊びを自由に楽しんでいます。自分で考える遊びほど、楽しく心地よいものはありません。その満足感がこどもを意欲的にし、こどもの心を自立させていきます。
 自然の素材にはいのちのぬくもりがあり、こどもの五感をたえず刺激するものがあります。こどもは何かを発見して驚いたり、不思議さに心が引き寄せられたりして、自然界への興味や関心を広げていくことでしょう。
「ひっつき虫」をはじめとする諸々の自然の素材は、こどもたちの遊び相手になりながら、こどもの体と心を豊かに育てている。そんな気がするのです。
「自然 このすばらしき教育者」(国分一太郎)なのです。(千)

◇昨年12月の「季節のたより」紹介の草花