mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

『偶然と想像』とポエムの間で

  f:id:mkbkc:20220224193312j:plainf:id:mkbkc:20220224193350j:plain

 2021年は、濱口竜介監督の世界的大躍進の年と言っていいだろう。まず昨年3月に『偶然と想像』が、第71回ベルリン国際映画祭審査員グランプリにあたる銀熊賞を受賞。7月には『ドライブ・マイ・カー』が、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されて脚本賞を受賞し、ニューヨーク映画批評家協会賞や全米映画批評家協会賞、さらにゴールデングローブ賞など、アメリカの重要な映画賞を相次いで受賞した。最近のニュースでは、2022年の第94回アカデミー賞で、作品賞・監督賞・脚色賞・国際長編映画賞(旧外国映画賞)の4部門にノミネートされた。

 そんな濱口監督の『偶然と想像』を、このあいだ観てきた。3つの短編作品(『魔法(よりもっと不確か』『扉は開けたままで』『もう一度』)からなっているが、どれもよかった。映画を観ながら、頭の中には様々なイメージや思いが浮かんでは消え、浮かんでは消え、しばし物思いにふけった。気がつくと、いつの間にか映画は先に進んでしまうというありさま。

 以下、ここに記すのは映画紹介とか映画評などという体裁のものではない。映画を通じて思いめぐらしたことを書き留めるにすぎない。とはいえ、こういう思いが起きることがとても大事で、つまり映画に触発され刺激されながら、自分のなかに渦巻きあふれ出ようとするものがうまれる作品、それこそが作品との出会いと思うから。

 第1話『魔法(よりもっと不確か)』は、若い男女三人の、いわゆる三角関係を描いた作品だ。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 モデルの芽衣子(古川琴音)とヘアメイクのつぐみ(玄理)は親友同士。撮影帰りのタクシーの中で、つぐみは運命的出会いだという気になる男性カズ(中島歩)との惚気話を始める。芽衣子はその話を興味津々に聴くが、つぐみが先にタクシーを下車すると車内に残った芽衣子は運転手に今きた道を引き返すよう告げる。その行き先は、つぐみが運命的出会いだと惚気て話したカズのオフィス。芽衣子はなんとカズが未だに心引きずる元カノ・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 いい雰囲気で語り合い、運命的な出会いかもと惹かれ合うつぐみとカズ。そう思いながらも未だ元カノの芽衣子のことを引きずるカズと、偶然つぐみの口から元カレのカズのことを聞かされた芽衣子。この三角関係で物語は展開していく。男女の三角関係は目新しいものではないが、芽衣子とカズの軽妙なやりとりはとても面白い。そこに恋愛をめぐるパラドキシカルな関係が描かれているように感じた。そこで頭にぱっと浮かんだのは、吉野弘さんの詩『ひとに』。

 詩は、あなたの美しさはあなただけのものではなく、あなたの美しさを愛するすべての人のものだ。つまりあなたという人間の放つ美しさ(魅力)はみんなのものであり、私もそのあなたの美(魅力)を愛する一人だという。しかしその美の源である「心」については、

 到るところの多くのひとに
 分け持たせるというわけにはゆかず
 唯一人をえらばなくてはならぬ
 ということがそれだ
 美については
 たくさんのひとの所有を認め
 美の源である心については
 唯一人の所有しか認めていけないと
 言うとき
 その条理が矛盾していることは
 私の百も承知のことで
 この撞着した言い方に
 条理を与えるものがもしあるとすれば
 それは
 ひとを
 完璧なひとつのまま独占したいという
 無法な感情の条理だけであり
 私が今
 この無法な感情を認めて
 あなたを欲しいというとき
 臆面もなく奇態な条理を弄するのを
 聞き入れてもらいたい
 美しい人よ

 美を愛でる条理と、その条理を認めながらもその条理に背く矛盾した心情をうたったものだが、それは恋愛という営為につきまとう「魔法(よりもっと不確か)」というよりも、魔法よりもっと確かなものなのかも・・・。それゆえに愛は多くのドラマを生むのである。

 映画紹介、映画評にはほど遠いが、映画からこんなインスピレーションを受けて楽しんだ。なお第2話、第3話からも様々なことを連想したが、それはまた機会があればということにしたい。

 ちなみに現在、フォーラム仙台では『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』の上映が行われています。コロナの感染収束にはまだしばらくかかりそうです。観にいくときは十分感染防止に気をつけて下さい。(キヨ)