ボクはクリです。いまとても困っています。主人の機嫌がよくないのです。昨日(10月2日)からです。
主人はめったにないことですが今週は外に出かけることなく家にいたので、ボクは、主人の傍での昼寝が多く、外に出たいとサインを出すと、すぐ出してくれる毎日でした。
でも、今日(3日)はなんとなく傍にいることを避けて、食事を終えるとすぐ、二回のベランダに行きました。昨日よりも主人の様子が悪くなっているように思えたからです。
ベランダに行っても、今日は土曜で、ランドセルの子どもたちが通りませんから、特に楽しみがあるわけではありませんが、主人の傍にいるのが耐えられなかったからです。
11時ごろ、今週は散歩以外に外出のなかった主人が出かけたのです。こんな半端な時間にどこに出かけたのだろうと不思議に思いました。しかも、ベランダのボクの姿を目にしながら声もかけなかったのです。
このままつづくことに耐えられなかったボクは、主人の姿が見えなくなってすぐ、主人の不機嫌なわけを調べようと茶の間に下りて、主人の座っている場所をかきまわしました。この場所には本や新聞、いくつもの封筒などがいつもひどく散らばっています。
これらの中で新しいものと言えば新聞です。前日の新聞だけは片付けるのに、どうしたわけか昨日の朝日新聞があるのです。機嫌の悪くなったのは昨日からだということから、何よりも先にそれを見ました。その一面トップが「東証終日取引停止」でした。これは、主人には全く興味があるはずはありませんから、これで機嫌がわるくなることは考えられません。ところが、その見出しの横に並んで、縦見出しで「首相、学術会議6人任命せず 会議側推薦の会員候補」とありました。ボクは、すぐに(主人の不機嫌の理由はこれだ!)と思いました。
そして、今日の新聞を見ると、一面のトップはなんと「6人除外 首相『法に基づく』 推薦通り任命義務なし 法制局了承」とあり、中見出しに「学術会議は任命要望へ」とあるのです。
主人の不機嫌の理由はまちがいなく、これだったのです。
出かけた主人が1時間ほどで帰ってきました。逃げるわけにもいかず、そこに寝たふりをしていました。
リュックから本を出したので、本屋に行ってきたのでしょう。
茶の間に座るや、主人のブツブツが始まったのです。
「とんでもないことだ。こんなことは聞いたことがない。まるで、戦争前夜じゃないか。」
「国(内閣・総理)の考えに合うか合わないかを考えて研究する人なんているか! そんなものを “ 研究 ” なんて言えるか。恥ずかしくて恥ずかしくて・・・。そういう体制の中で本気で研究に打ち込む人がいるわけはないだろう。」
「学術会議が会の責任において推薦してきた方を任命できないというなら、少なくとも研究者の業績を逐一調べてのうえということになるだろう。しかし、そんなことは首相も官房長官も、そして関係する役人にもできるはずはない。『法に基づいて適切に対応した結果だ』とよくも言える。このときの『法』とは何だ。人を否定する場合は、相手が納得できる理由を付す必要があるはずで、それをしないとすれば、とんでもない人権侵害ではないか。」
「学術会議は、任命してもらえるよう要望するというが、『要望』なんてヌルイ、ヌルイ」
もう、止まらない、止まらない。一言ごとに興奮は増すばかりだ。ボクもなんとなく主人の怒りがわかりそうだが、このまま、ここにいてはいつまでつづくかわからないので、ボクは、台所のサラの傍に移動して夕飯の請求をする。
ボクの動きを目にした主人は、「腹が立つ」「腹が立つ」と言いながら、台所に来て夕食の準備を始めた。
いつもと同じものでありながら、食事はあまりおいしくなかった。主人の不機嫌は容易にもどらないだろうから、明日からもこうなのだろうか。困ったなあ。
( 春 )