mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより30 ホタルブクロ

 ホタルの季節に咲く花、つりがね型の花のひみつ

 自然公園の土手の草むらにホタルブクロがゆれていました。6月の梅雨入りの前後、ホタルが飛び交う季節になると、まるで申し合わせたかのように咲き出すのがホタルブクロです。

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   ホタルの飛び交う季節に咲き出すホタルブクロの花 

 4歳くらいの男の子が、ホタルブクロを見つけてお母さんに話しかけていました。「おかあさん、この花は、にっくんがかぶったおぼうしだね」
 にっくんとは、絵本作家いわむらかずおさんの「14ひきあさごはん」(童心社)に出てくるこねずみの次男坊です。10人のこねずみたちが、朝ごはんの準備で森に野いちごつみに出かけたとき、ホタルブクロを見つけて帽子にしたのがにっくんです。にっくんは、お家に帰ってからもホタルブクロをかぶったまま。男の子はその姿がすっかり気に入っているのでしょう。

 いわむらさんの「14ひきシリーズ」といわれる12冊の絵本は、14ひきのねずみの大家族が、四季の自然の中で、それぞれ役割をもって協力しながら暮らす日々の出来事を描いています。小さなこどもたちはこの絵本をとおして、豊かな自然との出会いを楽しんでいるようです。

 古田足日さんの童話「大きい1年生と小さな2年生」(中山正美・え.偕成社)にもホタルブクロが登場します。体は大きいのに泣き虫の1年生のまさとと、体が小さいけれどしっかりものの2年生のあきよ。ホタルブクロをめぐって2人の心の交流と成長を描いた物語。この本について、ある研究会で、ひとりのお母さんが話してくれたことがありました。
 小学1年生のとき、「大きい1年生と小さな2年生」を読んで、ホタルブクロを見たくなり探しても見つからず、憧れの花となったとのこと。大人になってから偶然ホタルブクロに見つけたそのときに、ホタルブクロの野原に大きな虹がかかる最後の場面が浮かんできて胸がいっぱいになったというのです。わが子が1年生なので、今一緒に読んでいるとも話してくれました。
 図書館でこの本の奥付を見たら、初版が1970年で、2014年には213刷になっていました。今も低学年のこどもたちに読みつがれて、ホタルブクロへの憧れを育てているのでしょうか。

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  地下茎を伸ばして増え、草むらで群落をつくって咲いているのも見られます。

 ホタルブクロの名前の由来について、「こどもたちがホタルを花の中に入れて遊んだので蛍袋という」と多くの図鑑で説明されています。
 こどもの頃、田舎で育った私は、ホタルをつかまえると、ホタルには災難だったと思うのですが、ホタルブクロではなく長ネギの葉の筒の中にいれて遊んでいました。ホタルブクロは日当りのよい山の斜面に自生する花で、ホタルの飛び交うような水辺には咲いていなかったからです。何人かに聞いてみたのですが、ホタルブクロで遊んだという人はいませんでした。花とホタルと結び付けた名前の由来には幻想的な美しさへの願望を感じるのです。
 ホタルブクロは花の形から釣鐘草、風鈴草、そして提灯花とも言われています。提灯のことを、昔は「火を垂れ提げる」袋、つまり「火垂袋」といっていたようです。その「火垂袋」が「蛍袋」になったという説もあり、由来としては、こちらの方がいいのではと私は思っています。

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 赤紫色の花のホタルブクロ。最近は、園芸種や交配種の種類も多く見られます。

 ホタルブクロはキキョウ科の多年草です。花の色は白色から濃い赤紫色まで変化に富んでいます。ホタルブクロの変種にヤマホタルブクロというのがあって、互いによく似ていますが、下の写真のように花を吊り下げているガクを見ると、区別できるようです。ホタルブクロは人家周辺に多く、ヤマホタルブクロは山よりに分布していますが、ふつうは、広い意味でどちらもホタルブクロとよんでいるようです。

    ホタルブクロ             ヤマホタルブクロ 
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 ガクとガクの間に小さなガク片があり、 ガクとガクの間に小さなガク片がなく、
 そり返っています。          怒り肩のようにふくらんでいます。

 ホタルブクロの花の中はどうなっているのでしょう。のぞいてみると、中心に長い綿棒のように伸びているのが雌しべです。雌しべの奥のまわりにくるまったリボンのように見えるものが雄しべです。
 最初に雄しべが成熟して花粉を出します。その雄しべが枯れてから、雌しべが成熟して花粉を受けます。ホタルブクロは、一つの花の中で雄しべと雌しべの成熟をずらすことによって、自家受粉を避けて、他の花の遺伝子を取り込もうとしています。環境が多様に変化しても、生き延びられる子孫を残そうとするホタルブクロの周到な知恵といっていいでしょう。

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 中心にあるのが雌しべ、成熟すると先が3つに分かれます。 

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 下向きのつりがね型の花は、風雨に耐える強さがあります。

 ホタルブクロの花はつりがね型で下向きに咲いています。これだと梅雨時の風雨にさらされても大丈夫です。でも、花が逆さまでは虫たちが蜜を探すのに困らないのでしょうか。
 ホタルブクロを訪れる虫は、主にハナバチの仲間です。ハナバチは下向きの花にもぐりこみ、強い脚で花につかまり、逆さになって花の奥にある蜜を長い舌でなめることができます。同時に花粉を運んでくれます。他の虫たちがやってきてもハナバチのようにはできません。
 いろんな虫が他の花の花粉をどんなに運んできても、ホタルブクロの受粉には役に立ちません。ホタルブクロはホタルブクロの花粉だけを確実に運んでくれるほうがいいのです。それでハナバチだけを選んでいるのです。
 ホタルブクロは、進化の過程で、花粉を運んでくれる虫たちを選び、それにあわせて花の形を変えてきたと考えられます。自然界で長くいのちをつないでいくためのホタルブクロの知恵がここにも見られます。

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   朝夕の光を浴びると、幻想的な雰囲気を漂わせます。

 ホタルブクロの花期は、6月から7月です。ヤマホタルブクロは、6月から8月頃まで見られます。梅雨のさなかに咲いていることが多く、雨のしずくにぬれた花の色は、鮮やかで美しく見えます。花を支える細い茎が、しなやかにゆれる姿にも心魅かれます。傍らの草むらをのぞくと、ツユクサ、ミズヒキ、野菊などの草花たちがひそかに次の準備をしていました。
 季節がめぐると花開き実をむすぶ草花たちが、それぞれがの進化の歴史の中でたくわえてきた生きる力は、はかりしれないものがあります。あらためて命の不思議さについて思うのです。(千)

◆昨年6月「季節のたより」紹介の草花