mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより14 ゲンノショウコ

すぐれた薬草のミコシグサ(神輿草)

 ゲンノショウコの花を散歩道で見かけたのは8月初めでした。花の期間は長く、10月中頃まで、じっくりと花を咲かせていました。

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   ゲンノショウコの花。ルーペでのぞくと、色合いが豊かです。

 ゲンノショウコは開けた日あたりの良い土地で、ちょっと半ひかげになる所が好みのようです。以前は、年に何回か草刈りが行われる田畑の土手や野原に数多く見られました。都市化された公園や緑地帯では見られないのは、暑さや乾燥が激しく、そうした環境には耐えられないのでしょう。数はしだいに少なくなっているようです。

 私が出会ったゲンノショウコは、日あたりがよく、程よく湿り気のある場所に小さな群落を作っていました。群落の中に背丈の高い草が生え日かげにならないよう、すきまなく密集し自分の陣地を必死に守っているようです。花の先にある茎をたぐり寄せてみると、草丈は30cmから1mほど、意外に長く驚きました。茎は横になって地面を這いよく分枝しています。分岐して立ち上がった先端にかわいい花を咲かせています。

 ゲンノショウコの花は、白花と赤花が見られます。図鑑では白色は東日本、赤色は西日本に多いと記載されていますが、私の散歩道(仙台市太白山付近)ではどちらも咲いています。地域によっては、花色も必ずしも赤と白でなく、淡紅色、紅紫色と変化に富んでいるようです。

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  白い花。花びらに紅い筋が美しい。     赤い花。花びらの紅色が鮮やか。

 花を良く見ると、花びらは5枚、雌しべ1本、花柱がきれいに5つに分かれています。雄しべは10本あるのですが、雄しべは雌しべよりも先に成熟して、雌しべが成熟する頃には雄しべが落ちてしまいます。これは自家受粉のマイナス面を避けるための知恵なのでしょう。
 花びらには紅い筋がありどこかお洒落で気品を感じさせる花ですが、なんといっても興味深いのはその実と種子です。
 花が受粉の役目を終わると、中央のめしべがそのまま伸びて果実になります。果実の形は小さな灯台のようです。

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   花のあとの果実。緑色から黄緑色に変化、種子が熟すと黒くなります。

 実の根元には黒い種子ができています。これが熟すと果皮が5つに裂けて、種子をくるりと巻き上げ、ピッチングマシーンのごとく、放射状に弾き飛ばします。種子は5個、できるだけ違う方向に遠くまでとばそうとしています。自然はなんと巧妙なしくみを考えだすものでしょう。
 多くの種子はそのまま飛んでいきますが、中には未成熟なのか、乾燥が不十分なのか、果皮の先に残るものもあります。その種子はその地にこぼれ落ちますが、親が成育している場所は、もっとも生育の環境に適した土地ですから、その地で育つ可能性は十分あります。弱い子は親元に残し、元気な種子は遠くへ跳ばし新たな生育環境に挑戦させようとしている。どこか人間の親にも似ていますね。

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  果実の根もとの種子   はね上がる果皮     飛ばずに残った種子

 種子を跳ばしたあとの姿もユニークで、西洋の宮廷を飾るシャンデリアのよう。日本では祭りに担ぐ神輿の飾り屋根を連想させました。秋から冬の野は色彩が消える季節、花のがくの赤い縁取りに乗った神輿飾りはとても映えます。それでゲンノショウコは「ミコシグサ」(神輿草)という名でも親しまれてきました。

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  ミコシグサと呼ばれるゲンノショウコ。種子を飛ばした後の姿は華やかです。

 ミコシグサという呼び名もぴったりですが、それにもまして、ふるっているのはその本名でしょう。
「さあさ、お立会い、煎じて飲めば、あら不思議。下痢に、便秘に、食あたり、たちまち効能、あらたかなり」と、ガマの油売りもどきの能書きを、そのまま名づけて、ゲンノショウコ(現の証拠)なのですから。
 この名前、比較的新しいのではと思ったら、江戸後期の草本研究書「本草綱目啓蒙」に、「根苗ともに粉末にして一味用いて痢疾(りしつ)を療するに効あり、故にゲンノショウコと言う」と記載があり、古くからドクダミ、センブリとともに民間の3大民間薬草として庶民にたよりにされてきたのでした。

 ゲンノショウコの薬効の主な成分はタンニン。タンニンはお茶や渋柿の苦味成分としても知られています。この成分はそれぞれの植物が虫の食害から身を守るためにつくりだしたものです。
 タンニンといえば、苦味より「渋い」というイメージが一般に定着、薬効があるとか健康にいいとかいっても相手にされません。そこで食品メーカーが一計を案じて考え出したのが、カテキンとかポリフェノールという言葉の言い換えでした。この名称なら健康に不安な現代人に効果的と考えたわけです。
 うまく当たって、今では健康効果に美容効果も加えられ、食品業界をにぎわしています。

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    これからの季節、野原を歩くと、神輿の風景が多く多く見られます。

 かつて朝日新聞で連載の「花おりおり」(湯浅浩史・文)で、ゲンノショウコの花にふれて紹介されていた一句。

 げんのしょうこ 二十株ばかり 植ゑたらば 吾が一年は 飲みたりぬべし
                              土屋文明

 昔のように薬草を煎じて飲む暮らしはもうなくなりました。忙しい日々の暮らしで健康も食生活もすべて薬品や食品メーカーにあずけてしまいがち、でも、自分の体と対話しながら食の知識、健康の知識を身につけて自立した暮らしだけは失わないようにしたいものです。(千)