mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

バトンゾーン ~ ❝できない❞ 子どもの辛さに思いを寄せる ~

 2月の地震で私の部屋の本棚等が倒れ、先日片づけをしました。古いビデオなどを処分しようとしたとき、カセットテープが出てきました。私が担任した博紀君のために録音したものです。

 5年生を担任したとき、博紀くんという子が家庭の事情で母親の実家に転校してきました。
 家庭訪問でおばあちゃんが言いました。「おらいの博紀、勉強、全く駄目だから、先生頼むない。」
 博紀くんは、「掛け算九九」をまだ覚えていません。3年4年生のとき、どんな思いで算数の時間を過ごしてきたのでしょうか。5年生の少数の掛け算・割り算には、全くついていけないでしょう。私は2年生の先生から九九のカードと表をもらい、「お助け九九」と呼んでそれを渡しました。本人と相談し、給食の準備の時間に九九を一緒に練習。グループ会議で事情を話し、それぞれの段の担当者を募りました。そして掃除後の時間に練習時間をとりました。帰りの会で担当者と共に覚えた九九を発表。みんな拍手! 笑顔の博紀くん。

 博紀くんは、笛も全くできませんでした。当時、その学校では運動会で鼓笛隊パレードがありました。親や地域の人が見ているとき、適当に指を動かし吹いているふりをして地域の人たちの前を歩く。こんな辛いことはないでしょう。私は時間を見つけて一緒に一音一音練習しました。笛の練習は一人ではできません。班の子どもに呼び掛けて教えてくれる子どもを募りました。家での練習は期待できません。それで私は、家でも練習できるように学校で練習するときと同じように「いいかい、博紀君、始めるよ、・・・」私の声をテープに吹き込みました。小型のテープレコーダーも貸しました。そして、とうとう一曲吹けるようになり、運動会でもにこにこ顔でパレードしました。運動会後、おばあちゃんは「先生、ありがとうない」と涙を見せました。

 「できない」子どものつらい気持ちにどれだけ思いが及ぶか、それが教師にとって最も大切なことだと私は思います。そこから、教師としての学びが始まり、教師としての専門性が育っていくのだと思います。そうした教師の姿・思いが他の子どもに伝わり、教え合い学び合うクラスを創っていくのだと思うのです。

《「できない子」に関わる5つのポイント》
① まず、教師が関わる。子どもの話に耳を傾け相談し、本人との合意とやる気を
 引き出す。
② 次に「できない子」への援助・関わり方をグループの子どもたちと相談し、子
 ども同士の援助を引き出していく。
③ 教え合うグループはいいことだ、みんなで伸びていこう!というトーンをつく
 りだしていく。
④ 学習の伸びは、他人や他のグループと比べるのではなく、「昨日の自分」「昨
 日のグループ」と比べ、評価する。
⑤ 「できた!」「のびた!」という事実を創り出し、やればできるという自信を
 もたせていく。(高橋達郎)