mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより11 オオバコ

 踏まれて生きる ふしぎな植物

 オオバコは北海道から沖縄まで日本のどこにでも見られる植物です。その暮らしぶりは変わっていて、人に踏まれることで分布を広げるというふしぎな生き方をしています。

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 蔵王連峰屏風岳の尾根道で見たオオバコ(右)。こんなところにも生えていま
   す。
白い花(左) は高山植物のミヤマトウキ。

 オオバコの大きな葉はやわらかですが、葉のなかに丈夫な5本の筋がとおっていて、人や車に踏まれても破けないようにできています。花をつける花茎は外の皮はかたく、なかはやわらかいので、しなって簡単には折れません。また、斜めに伸びているので踏まれても衝撃をかわすことができます。
 その性質をうまく利用して、子どもたちは昔からオオバコを格好の遊びの材料にしてきました。
 花茎をひっこぬき、二つ折りにして互いに引っ張りあい切れたほうが負けになる「オオバコ相撲」。葉の葉柄をちぎって下から白いひげのような筋が何本残るかを競う「ひげ比べ」。葉をよくもんで葉柄の元から息を吹き込みカエルの形をつくる「げろっぱづくり」。どれも楽しい遊びです。

 葉をちぎられたり、花茎をひっこぬかれては、さぞオオバコも迷惑なことでしょう。
 ところが、オオバコの茎は短くて土のなかにもぐったままなので、踏まれても他の植物のように茎が折れるということはありません。根も硬い地中に深く枝分かれし伸びていて、ぬこうとしても葉だけちぎれてしまい、根はそのまま残ります。だから、一週間もすると茎から小さな葉が生えてきて成長していきます。オオバコは次々と新しい葉を再生させることができるのです。

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   何度でも葉を再生させるオオバコ        オオバコの花

 オオバコにとって子どもたちの遊びは、想定内のこと。実は歓迎する相手なのです。
 オオバコの花が咲きだすのは9月。やがて小さな実ができます。実はカプセル状になっていて、この中に小さな種がたくさん入っています。その種は水にぬれるとゼリー状の粘液を出す性質をもっていて、地面に落ちて露や雨にぬれると子どもたちの靴にぴったりはりつきます。種はそのまま遠くまで運ばれ、乾くと地面に落ちるようになっています。
 オオバコは、昔から子どもたちの遊び相手になりながら、ひそかに種の運び屋になってもらい、分布を広げていたのでした。

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   花を訪れるハナアブ    カプセル状の実    実のなかのオオバコの種

 種の運搬は子どもたちに限りません。田舎道や山道のわだちの真ん中や両側に生えるオオバコは、車のタイヤが運んだものです。蔵王連峰などの高山の山頂に見られるオオバコは、登山者の靴が運んだ種が育ったものです。オオバコは乾燥にも低温にも強いので、高山から海辺まで、つまり人や車が訪れたところなら、日本全国いたるところでオオバコは見られるということなのです。

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       山林の車道、真ん中はすべてオオバコです。

 オオバコの弱みはなんでしょう。それは、人に踏まれなくなることです。
 踏みつけがなくなるとオオバコ以外の植物は茎を上に伸ばしてぐんぐん大きくなります。草むらのオオバコも葉を大きくしますが、茎を伸ばして上に伸びることはできません。やがて、他の植物の葉におおわれ光が届かなくなり枯死してしまいます。適度な人の踏みつけのある場所が、オオバコの生存できる絶対条件なのです。
 オオバコが生きていくための大切な協力者は子どもたちでした。今は野原や草原で遊ぶ子が少なくなっています。オオバコにとっては最初の危機でしょう。もし人類が消滅し人の踏みつけが消えたとき、オオバコもまたともに消える運命にあるのですから。

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    草むらに育つオオバコ        踏まれないと大きくなるが、他の植物の
                           葉かげになり、消える運命に。

 かがくのとも138号 「おおばこ」(菅原久夫著、 福音館書店)は、オオバコの生き方をやさしく紹介している絵本です。この絵本を元に、草花の生き方を考える授業にとりくんだことがあります。(授業報告・「オオバコのひみつ」(教育文化・472・473号)
 子どもたちは、踏まれながら生きるオオバコの生き方にとても興味を持ち、みんなで手分けして学区内のオオバコ分布地図を作ってみました。オオバコは通学路や遊び場など、人が適度に踏みつける場所にみごとに分布していました。
 オオバコが自然界でどう生きているかを知るということは、人とちがう生き方をしている植物の生き方にふれるということです。それは、人も植物もこの地上でともに生きているという〈いのち〉への共感のまなざしを育てることになるでしょう。
 〈自然〉を人の都合にあわせて利用するのではなく、〈自然〉が見える子に育ってほしい。これからの教育への願いです。(千)