mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより89 オオウバユリ

  開花は一生に一度だけ  強風を待って飛ぶ種子

 冬枯れの林のなかのできごとでした。突風が枯れた小枝を落とし茶色の果実にぶつかりました。その衝撃で茶色い種子がいっせいに舞い上がり、風に乗って飛び散りました。めったに出会うことのできないオオウバユリの子ども(種子)の旅立ちの瞬間でした。

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  オオウバユリの果実と飛び出す種子。     強風を待って一斉に飛び立ちます。

 晩秋から初冬の雑木林や草原を歩くと、スッと立ち上がった茎に茶色の袋状の果実をいくつかつけて、立ち枯れしたような植物を見ることがあります。これはオオウバユリが一生を終えた姿です。

 オオウバユリはユリ科ウバユリ族の多年草です。ウバユリよりも背丈が高く花の数も多くつけるので、オオウバユリと呼ばれています。
 ウバユリは関東地方以西から四国・九州に分布、オオウバユリは主に本州の中部以北や北海道に分布していて、分布の重なる関東地方から中部地方では、太平洋側にウバユリが、日本海側にはオオウバユリが多く見られるといわれています。
 両種はとても似ていますが、葉の大きさ、草丈、花数がウバユリよりはるかに上回って迫力があるのが、オオウバユリです。
   
 オオウバユリの春先の芽吹きもダイナミックです。大柄なつやのある葉、濃い緑に赤味を帯びた葉脈。まわりの草花よりも少し毒々しげに見えて目立ちます。芽吹いた葉はぐんぐん葉を広げ、成長するにつれて葉脈の赤味が消えて、輪生状に広がる葉の中心から花茎が伸びてきます。

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 赤い葉脈が少し毒々しく見える芽吹き。  葉脈の赤味が消えて、中心から花茎が
 (毒はありません。)           伸びてきます。

 オオウバユリがつぼみをつけ花を咲かせるのは、一生に一度だけです。多くの生物は一生の間に何度も繁殖できますが、サケやカゲロウのように生涯に一度だけ繁殖を行い死んでいく生物がいて、これを「一回繁殖型生物」とよんでいます。
 植物では1年草や2年草がすべてその性質を持っていますが、多年草の植物では珍しく、ササやタケ類、そして、ウバユリやオオウバユリがこれにあたります。

 オオウバユリが春先に種子から芽を出したときは、最初は1枚の葉です。その葉で栄養分をたくわえ、2年目、3年目と葉を増やしていきます。ちょうどカタクリ季節のたより2)が7、8年かけて1枚葉から2枚葉となり花を咲かせるように、オオウバユリも6~8年かけて花を咲かせます。カタクリは開花したあと翌年からも花を咲かせますが、オオウバユリは開花して実を結ぶとすべてが枯れてその一生を終えるのです。上の写真はその花を咲かせる年が来た芽吹きのオオウバユリの姿です。

 花茎がぐんぐん伸びて、その先につぼみをつけたのは6月でした。ふっくらとした大きなつぼみ。まっすぐに天を指して伸びています。

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  輪生状の葉から伸び出す花茎       花茎の先でふくらむつぼみ

 大きなつぼみは1つの花のつぼみのように見えたのですが、そのつぼみから次々とたくさんのつぼみが姿を現してきました。どのつぼみも最初は上向きで天を指していますが、しだいに横向きになり、下のつぼみの方から開花していきました。8月上旬でした。

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  1つから多数のつぼみが       つぼみは横向きになり、下方から開花していきます。

 1つの花はテッポウユリのような筒状の花です。その花がいくつも花茎に対してほぼ直角に、下から上へ相互に並んでついています。
 花の数は15個ありました。別の場所で見つけたオオウバユリは、20個を超える花を咲かせていました。

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  20個を超える花。総状花序と   上から見た花の姿。ぶつからないように上下、
  いう花のつき方をしています。  左右の空間をうまく利用しています。 

 1つの花の長さは、10cm〜20cmほど。緑白色の花びらが全部で6枚。やや幅広い内側の3枚と幅の狭い外側の3枚で筒状の花の形がつくられ、そのなかに雄しべが6本、長い雌しべが1本あります。典型的なユリ科の特徴を備えた花です。
 蜜腺は花の奥にあって、その蜜を求めてマルハナバチなどいろんな昆虫がやってきますが、花びらは大きく開かず、半開のまま。その方が昆虫たちに潜り込ませてその体に花粉をつけるのに都合がいいのでしょう。夕方や朝のある時間帯だけ花の香りが強くなるのは、花の開花や蜜の出す時期を昆虫たちに知らせて、受粉の確立を高めているのでしょうか。

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  正面から花を見ると、その     花はわずかに開く程度。昆虫たちに潜り込ま
  構造が良くわかります。      せるのが作戦なのでしょう。

 オオウバユリの花が咲く頃には、すでに葉が枯れているものがありました。「新分類牧野日本植物図鑑」(北隆館)には、「花の咲く時はたいてい葉は枯れているので花の時、歯(葉)がもうないことを、歯の抜けたうばになるのにたとえてこの名ができたという。」とその名の由来を述べています。
 でも、実際には葉が枯れずに残っているものもたくさん見られるのです。「花おりおり」(文・湯浅浩史 朝日新聞社)には、歯抜けのうば説は俗説で、「直立して幅広の大きな葉が展開するので、大きいという意味でウバが冠せられた。ウバザメと同様の命名。」とありました。

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 花の頃には枯れている葉   受粉を終えて萎れる花  大きくなる果実(最初は緑色)

 オオウバユリの花のいのちは5日間ほどです。大きな花をたくさんつけて咲かせ続けるエネルギーは相当なものです。これまで蓄えてきた養分を、花の期間に一気に注ぎ込み受粉をめざしているのでしょう。
 しおれてきた花のなかには果実ができていました。果実は最初は緑色、熟すにつれて茶色に変わります。横向きに咲いていた花が果実になると、どういうわけか、また上向きに向きを変えます。

 オオウバユリの果実は、蒴果(さくか)といって、乾燥すると上部が3つに裂けて種子が飛び出します。3つの部屋には、それぞれに風に乗る翼をもつ種子が150個ほど平積みになって入っています。
 種子は足元にこぼれないように、果実の裂け目が太い糸状のネットで保護されていますが、強風を受けたときだけ、ネットのすき間から入った風が、種子を上部の裂けた入口へ舞い上げるしくみになっています。舞い上がった種子は、風に乗り翼でグライダーのように飛んでいきます。種子がすぐ親の近くに落ちないで、風に乗り遠くへ運ばれる仕掛けがうまく働くように、果実は横向きでなく上向きになる必要があったのです。
 ひとつの果実に入っている種子は400個から500個ほど。冬の北風は飛び立つ絶好のチャンスとなります。

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きれいに平積みされた種子。   翼のついた種子(円形) 。1つの果実に400個から
ネットで保護されています。   500個ほど。強い風を待ち期待しています。

 受粉してできた種子は、多様な遺伝子を持っているので現在の生育場所と違った環境でも子孫を残せます。オオウバユリの親はできるだけ花茎を高くして、親元から離れた新天地へと種子を旅立たせようとしています。
 オオウバユリは、種子のほかに根の鱗茎から新しい鱗茎を誕生させ、いわゆる栄養繁殖という方法でも子孫を残せます。鱗茎から育つ子どもは、種子より数は少ないものの、親と同じ遺伝子を持つので同じ環境でなら確実に生育できます。種子で育つよりも成長が早く3年ほどで花を咲かせます。

 一回繁殖型植物は、何度も種子を残せる植物に比べて、環境の変動の影響を受けやすく絶滅しやすいと考えられます。オオウバユリは、現在の環境で生育できない事態の発生に備えて新たな生育地へ種子を飛ばしながら、親元の環境では鱗茎から分身を育て種子よりも素早く子孫を残し、生存の危機をのり越えようとしているのです。

 オオウバユリの鱗茎には良質のデンプンが含まれています。オオウバユリの自生が多い北海道では、その昔、アイヌの人たちは鱗茎からデンプンをとりだし保存し大切な食料や医用に利用していました。
 鱗茎を掘り出すときは、「花を付けているものを雄、花がないものを雌と呼び、花を付けてない雌の根を春から夏にかけて採集」していたといいます。つまり、今年花が咲きいのちを終えるものを残していたのです。(札幌市HP/〈turep〉)
 アイヌの人たちは大自然の豊かな恵みを「カムイ(神)が姿を変え舞い降りてくれたもの」と感謝し、採集で得たものは余すことなく使い、自然の資源は絶やさないよう細心の注意を払うという暮らし方をしていました。
 人は自然とどう向き合い生きていくのか、その暮らし方から私たちが学ぶべきことは多いのです。

 ところで、オオウバユリより小さいウバユリについてですが、関東以西に分布と図鑑にあったので、宮城県内でウバユリは見られないと思っていました。
 山を歩いていてオオウバユリにしてはずいぶん小さいものに何度か出会うので気になり、「宮城県植物誌」(宮城植物の会・2017)を開いてみたら、すでに県内各地でウバユリの自生は確認されていたのでした。秋田県でもウバユリが自生しているという記録がありました。(ブログ・花好きじじいの山野草談義 2009.2.11) 

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 ウバユリ。背丈は1m程度。花  オオウバユリ。背丈1mから2mほどになり
 は1つの花茎に2~5個と少な  ます。花は1本の花茎に5~30個ほど、幅
 い数です。           がありますが多くつきます。

 オオウバユリとウバユリの分布が重なるのが関東地方から中部地方というのは、以前はそうだったのでしょうが、温暖化の影響もあってか、今は東北地方まで進んで来ているようです。あたりまえのことですが、自然は絶えず変化し続けているわけで、図鑑や教科書の記載を読むだけでは自然の姿は見えてきません。
 自らの感覚を働かせて、まず目の前の事物と向き合うことが、動いている自然を知る始まりになることを忘れてはいけないと思ったのでした。(千)

◇昨年12月の「季節のたより」紹介の草花