先に、淮陰生の「一月一言」から引いたことがあるが、今日も同書から別の話を紹介する。
この話は「武器なき平和の島沖縄という一事が、晩年のナポレオンを驚倒させたいう話がある。」と始まる。
1817年8月というから、場所は、ナポレオンの最後の地セント・ヘレナになる。朝鮮半島西岸・琉球諸島への調査航海の帰途だったイギリス軍艦が寄港し、物好きな艦長がナポレオンに会見を求めたらしい。ナポレオンも暇だったろうからすぐ実現したのだろう。
著者淮陰生は、その会談での沖縄についての話をおおよそ次のように書く。
まず艦長が、沖縄という島には武器というものが一切ないということを話すと、これにはナポレオンが、まったく理解に苦しんだ。そこで、ふたりのやりとり。
「武器といっても、それは大砲のことだろうね。小銃ぐらいはあるだろうが」
「いや、それもありません」
「じゃ、投槍といったようなものは?」
「それもありません」
「じゃ、弓矢はどうだね。まさか小刀くらいはあるだろう」
「いや、それもありません」
すると、ナポレオンはワナワナと拳をふるわせながら、大声で叫んだ。
「武器がなくて、いったい何で戦争をするのだ?」
「いえ、戦争というものをまったく知らないのです。内外ともに憂患というよう
なものは、ほとんどみられませんでした」
とたんにナポレオンは、さも冷笑するかのように眉をひそめた。そして、「太陽の下、そんな戦争をやらぬ民族などというものがあるはずがない」と答えたという。
ナポレオンと艦長のやりとりはいろいろなことを考えさせてくれそうに思ったが、「私はこんなことを考えた」などとつまらないことを付けないことにする。ただ、沖縄は、武器なき島だったことをいつまでも忘れないようにしようと思う。
淮陰生は、「それにしても、500年に及ぶ武器なき平和の島だったのである。それが沖縄戦以来、大軍事基地群の島、そしてまた自衛隊の島になるとは、変わったといえば変わった。ずいぶんひどい話ではある。」と結んでいる。
これが書かれたのは1972年7月。2か月前が「沖縄本土復帰」になる。( 春 )