mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

学びは刺激に満ちている、学びビンバ!

 明日27日(土)は、午後2時~ 増山均さんの講演がありますが、午前中も10時から、フォレスト仙台2F 第9会議室で、先生たちの学習会が予定されてます。近々のお知らせとなりますが紹介します。
 これからの1年、子どもたちとどんなクラスをつくっていくか、授業に取り組むか。ともに学び合い語り合ってみませんか。詳細は、下のチラシをご覧ください。

 

   学びは人をつれてくる
   学びは誰かを求めてる
   ともに生きることをめざして

   学びはかけがえのない出会い
   学びは希望を呼び起こす
   どんじゃかどんと呼び起こす

   学びは、あなたと私がともに拓く世界
   あなたは誰? ここはどこ?
   それはともに変わる世界、分かち持つ現実
   ともにある自由と不自由

   学びびん場! 学びはひとりか? 学びはおもしろいか?
   学びはどこだ? 学びはここだ!
   学びびん場!

はて? みんなのNHKになるために・・・

 春さんが紹介した『戦争語彙集』、本棚の上に積読状態になって眠ている。しばらく前に、それこそ春さんから話を聞いて、読んでみようと買ったのに。他の読んでない本を読んでいるうち、そのままに。

 「語彙集」という言葉から「辞書編集」という言葉が浮かんで、思い出したのが先日終わったNHKBSでやっていたドラマ『舟を編む』。映画の『舟を編む』を見た後だったか前だったか忘れたけれど、三浦しをんさんの原作本も読んだ。原作本もいいけど映画もいい、さらに今回のドラマもよかった。どれから見ても読んでもいい、そんな感想を持った。

 そんないいドラマだっただけに、NHKの朝ドラ『虎に翼』にかこつけると、NHKの番組編成に「はて?」なことが・・・。
 今では、BSもみられるようになったけど、しばらく前までは地デジしか見られなかった。その時分から「はて?」だったのが、地デジで何でBSの番組を宣伝するのだろう?ということ。BSを見られる方々にとっては何の違和感もないだろうし、とてもありがたいことかもしれないが、地デジしか見られない身からすると、何でBSの宣伝をするんだよ???と思ってしまう。とてもいい番組だ、おもしろい番組だと宣伝されても、おいらは見られません!というのに。受信料返せ!なんて、ちょっと言いたくなったりしたもんだ。そんな私も、一応いまでは見られるようになって、個人的な不満は解消したけれど・・・。いい番組なら、みんなが見られる地デジで放送したらいいじゃないという思いは、依然としてモヤモヤしたまま残留した。

 そしたら今度はBS4Kが登場し、それに伴ってBS1とBSプレミアムが統合?された。これまで楽しく見ていたBS1のドキュメンタリー番組は減った。さらに今回の『舟を編む』では、再放送はBS4Kでしか見られないときた。以前のBSプレミアムなら、あの時間枠のドラマは必ず次の週に再放送をしていたのに。なんとアコギなNHK!。NHKからすれば視聴者をBSから、さらに4Kへという誘い水としての番組編成なのだろうけど。BSにしろ4Kにしろチューナーやアンテナ、4K対応テレビなどなど、それなりに設備を整えないと見られない。そうを考えるとNHKの番組編成は、やはり誰でもが見られる地デジの総合をメインにしてほしい。
 そして、ぜひともBSで『舟を編む』の再放送を、さらにみんなが見られる地デジの総合で『舟を編む』の放送をしてほしいと願っている。それでこそ「みんなのNHK」になるのではないか・・・。NHKに文句を言っているのではありませんからね、応援しているんですよ。よろしく!NHKさん

 春さんの「戦争語彙集」に関わって書こうと思っていたのに、前置きが長くなって本題になってしまいました。では、また(キヨ)

『戦争語彙集』、戦火のなかで変わる言葉

 つけっぱなしにしていたテレビから聴こえてきた「戦争語彙集」という言葉、耳にも目にもしたことがないので、テレビに目をやる。そこで語られていたことは、私にある “戦争語彙” とは全く違う。私の描いた「戦争語彙」は、今でいえば、毎日のニュースの中で使われるウクライナや中東の戦争に関する言葉、いや日本でも、(これが平和憲法をもっている国?)と耳を背けたくなる、いわゆる “戦争用語集” 。私の思っていたイメージとはまったく違う。なんとなく気になって、書店にすぐ注文した。

  

 届いた『戦争語彙集』は、「オスタップ・スリビンスキー作・ロバート キャンベル訳著」とあり、オビには「ウクライナの詩人が人びとの体験に耳を傾け編んだ、77の単語と物語。ロバート キャンべルが言葉の深淵に臨んだ、ウクライナへの旅の記録(以下略)」とある。

 詩人オスタップに取り上げられている単語が目次になり、それは、「バス」「スモモの木」「おばあちゃん」「痛み」・・・と日常の単語がつづき、それぞれの目次を産んだ短いウクライナの市井の人の短い語りが付く。文中後半のキャンベルの文のタイトルは「戦争のなかの言葉への旅」で、「列車からプラットフォームに降り立つーー行き交う人々の言葉」から始まる。
 そう、オスタップによる77のもくじの単語が、キャンベルの「行き交う人々と言葉」によって “戦争語彙” であることが明かされていく。

 訳者のキャンベルは、ウクライナの詩人のもとを尋ね、詩人と同様に、市民の話を聞きとることもする。また、ウクライナの大学では日本文学史についての講義をもち、受講学生には、『戦争語彙集』をあらかじめ読んでおいてもらうことを課し、講義の後で、語彙集の感想を述べてもらっている。
 『戦争語彙集』とは何か、以下の「林檎」は目次の一例であり、それに続く文は、「林檎」を読んだ学生の感想の発言である。

        林檎               アンナ  キーウ在住
 その夜私は、戦争が始まって以来最も大きな爆発音を繰り返し耳にしながら、毛布やら枕やらをめいっぱい放り込んだ浴槽の中で眠りにつこうとしていました。
 その昔、わたしは燃えるような恋をしました。初めてカルパテイア山脈にある山小屋に二人で出かけていくと、秋はもう深まっています。浴槽と大して変わらないほど寝心地の悪い屋根裏部屋のベッドの上で二人一緒にうとうとしながら、わたしは耳を傾けていました。庭中の林檎の木から、果実が一個また一個。地面に落ちてきます。熟みきった大きな林檎が夜通し、測ったような間隔で、とすっ、とすっ、と落ちてきます。わたしは幸せでした。
 そして現在、わたしは爆発の音を聞きながら眠りにつこうとして、林檎の音を聞いたのです。庭の林檎の実だけがわたしたち皆のもとに落ちてくれればいいのに、と心から思います。

   「林檎」について感想
 彼女は、自分の身を守るために、タオルや枕、毛布などを持って毎晩バスタブで過ごしました。そして、とても狭くて不快なバスタブで夜を過ごす中で、一緒にカルパテイブ山脈へ行き、おそらくとても美しい秋の夜を過ごした恋人のことを思い出します。彼女は一晩中、熟したリンゴが地面に落ちる音を聞いていました。彼女は、その時とても幸せだったと言います。そして、現在に戻り、周囲のミサイル音がリンゴの落ちる音だったら良いのにと思います。彼女は、人生の甘くて美しい時間の記憶と、恐ろしい状況とを組み合わせています。わたくしが読んだ最初の物語の一つで、感動しました。そして、この文章にもっと近づきたいと思いました。そこから翻訳を始めて、「戦争語彙集」により深く関わっていくようになったのです。共有してくれてありがとう。

 「林檎」は、市井の何気ない話をオスタップにすくい上げられて。戦時下でありながらそこで読む人の心をも強く揺さぶっている。戦争が一日も早く止むことを願っていることも伝わってくる。
 話は飛躍するが、「教育語彙集」として同様のことをやってみたらどうだろうと浮かぶ・・・。それ以上のことは言うまい。( 春 )

宮城の会主催:増山均さん教育講演会のお知らせ

   

 毎年、この時期に開催される「民主教育をすすめる宮城の会」の教育講演会の紹介です。今回は、日本子どもを守る会会長の増山均さんを講師に「こども」の未来と子どもの権利 ~「こども・子ども・子供」の子ども観に着目して~ と題して講演していただきます。ぜひご参加ください。

【教育講演会】
 「子ども」の未来と子どもの権利
  ~「こども・子ども・子供」の子ども観に注目して~

   ◆日 時:2024年4月27日(土・祝)14:00~
   ◆場 所:フォレスト仙台2F 第7会議室

   ◆講師:増山 均さん      (参加費500円)

 今年は日本が子どもの権利条約を批准・発行してから30年目を迎えます。不登校や引きこもり、小中高校生の自殺者数の増加など、生きづらさを抱える子ども・青年に向けた社会のまなざしはどうでしょうか。
 一昨年、政府が定めた「こども大綱」や「こども基本法」は、どのような子ども観に立っているのでしょうか。
 子どもの育ちをめぐって、人権・教育・福祉や文化と広い視野から研究・発言され続けてきた増山均さんから学び、話し合います。
                     (チラシ参加呼びかけ文から)

いいんです! 国体で村井知事と意見が一致

 全国知事会会長の村井宮城県知事が国体の廃止に言及したことには驚きました。意外にも意見が一致したからです。
 昨今、各種競技団体による大会が世界でも国内でも数多く行われている現状を考えれば、開催県による人的・財政的負担の大きさから当然の提言と思われます。

  「戦後の荒廃と混乱の中、スポーツで国民に勇気と希望を与えよう」と始まった国体が、全国を2巡するなかで各県の競技団体の活動が活性化されたり、競技施設が整備されたり、競技人口が増えたりなどスポーツの発展に大きく貢献してきた点は評価できます。

 一方、誰が考えても運営の仕方に無理があるのでは?と思えることもありました。例えば「38大会も連続で開催県が優勝するって不自然過ぎないか?」「毎年、開催県を転々とする『優勝請負人』選手が存在するのはおかしくないか?」「開催地代表だけが予選なしで全競技に出場できる仕組みってあり?」「開催県が地元以外の有力選手を県職員や学校教員などとして採用し、『地元代表』として出場させるって、何の意味があるの?」など、疑問は尽きません。

  スポーツは本来、一部のエリートだけのものではありません。障害の有無に関わらず、いつでも、誰でも、どこでも関われる環境をつくりあげることが理想です。全国知事会には、地域のスポーツ振興や健康増進のために、すべての国民を視野に入れたスポーツ政策を提言してほしいと思います。(エンドウ)

落合恵子さん来仙! ストップ女川原発再稼働

 4月21日(日)の企画という差し迫った紹介ですが、「子どもたちを放射能汚染から守り 原発から自然エネルギーへの転換をめざす女性ネットワークみやぎ」さん主催の講演会です。講演会の講師は、落合恵子さんです。

  止めよう!女川原発再稼働
    落合恵子さん講演会

  
   ※ ZOOMからの参加は ココ から。
    ミーティング ID:831 8667 2022
    パスコード:335296

 元旦の能登半島地震で、「能登志賀原発は大丈夫か」と、大きな不安を抱いた方も多いでしょう。その後も、全国各地の地震報道が頻繁にあり、日本が地震列島であることを思い知らせています。
 私たちは13年前の福島原発事故を忘れることはできません。いまだに、事故原因も解明されず、故郷に戻れない住民は3万人以上います。
 女川原発は、巨大地震震源地近くにあり、大きな地震に何度も遭ってきた「被災原発」です。13年以上も止まっていたこの原発を、東北電力は「今年9月に稼働させる」と、発表しました。能登自身の状況を知れば、「避難計画」は少しも役に立たず、原子力災害対策が無力であることは明らかです。
 「原発は、女川にも日本のどこにもいらない」と、大きな声と運動をご一緒に広げていきましょう。(チラシ呼びかけ文から)

 

 

季節のたより145 コチャルメルソウ

  奇妙な花びら  昆虫に合わせて進化した固有種

 春の山地に咲いていながらあまり気づかれることもない小さな花。もし見つけてその変わった花びらを見たら、これは何?と驚かれるでしょうね。

 水辺に咲く花は 孤独でした。
 小魚の骨のような 花のすがたを 悲しんで
 きれいな花びらが ほしいと
 小さな花は つぶやくのでした。
     (Fotopus:写真絵本「コチャルメルソウ」)


          水しぶきのなかに咲くコチャルメルソウの花

 名前も花の形も変わっているコチャルメルソウ。咲いていたのは、山地の小さな渓流沿いで、水しぶきをあげて流れる水際から少し離れた湿地でした。


       谷川や滝の近く、水しぶきのかかる環境に生息していました。

 最初、何かの実かと思いました。それにしても、4月の上旬に実ができるのは早すぎます。近づいて見れば見るほど奇妙な形です。

 
    コチャルメルソウの全体の姿        コチャルメルソウの花

 中心にあるのは雌しべと雄しべ。するとまわりにある小魚の骨のようなものは、花びらでしょうか。初めて見た草花です。図鑑を開くと「コチャルメルソウ」とありました。

 コチャルメルソウはユキノシタ科チャルメルソウ属の仲間。チャルメルはチャルメラともいい、ラッパのような形をした中国の楽器のことをいいます。
 昔、この楽器の音色を夜の町に響き渡らせて、ラーメンの屋台を引くおじさんがいたものでした。今はなつかしい昭和の風景はもう姿を消していますが、チャルメルソウの名は、花の後にできる実の形がこの楽器に似ているからだそうです。コチャルメルソウはチャルメルソウより小型という意味なのでしょう。

 あらためて独特の花の形をルーペで拡大して見ると、花は5角形に近いお皿のような形。お皿の底にあたる花盤の縁から奇妙な形の花びらが5つ出ています。その根元近くに雄しべが5つ。淡黄色の雄しべの葯が割れて、ここから花粉が出るのでしょう。雄しべに囲まれた真ん中に雌しべがあって、雌しべの花柱が2つに分かれていました。

  
   横から見た花の形     正面から見た花の形    中央に雄しべと雌しべ

 この奇妙な形の花について調べていたら、チャルメルソウ属について長年研究してこられた奥山雄大さん(国立科学博物館植物研究部多様性解析・保全グループ/筑波実験植物園研究員)が、HP「おくやまの研究ページ」でこれまでの研究成果を公開していました。

 チャルメルソウ属は世界に20種あり、日本には12種が自生、うちの11種が日本の固有種とのことです。日本のチャルメルソウの仲間は、日本列島の温暖湿潤な環境で多様な進化を遂げた属のひとつで、山地の小川や渓流、滝のすぐそばなどの水しぶきのかかる場所に好んで生育し、多くの種が限られた地域に生育するなかで、例外的に広範囲に分布しているのがコチャルメルソウなのだそうです。
 東北地方でも多くの場所でコチャルメルソウが自生しているのが見られ、奥羽山脈の東西に沿って局所的に分布しているのがエゾノチャルメルソウという種で、宮城県での分布を調べてみると、この2種の分布が確認されていました(『宮城県野生植物目録2022』宮城植物の会)。

 奥山さんのHPにはチャルメルソウ属のうちの8種の写真が掲載されていました。写真、画像等の使用は商用利用でない限り、可ということなのでお借りして紹介します。

左上から、ミカワチャルメルソウ、コチャルメルソウ、エゾノチャルメルソウ、シコクチャルメルソウ、タイワンチャルメルソウ、オオチャルメルソウ、ツクシチャルメルソウ、マルバチャルメルソウの花

       出典:「おくやまの研究ページ 」(奥山雄大氏:筑波実験植物園)

 こうしてみると、どのチャルメルソウの花も変わった形をしています。花びらが細長く枝分かれしているのが、チャルメルソウ属の特徴のようです。       
 植物にとって、花は色や形を魅力的にして昆虫や鳥などを引き寄せるのが役目ですが、この花に引き寄せられる昆虫はいるのでしょうか。           
 チャルメルソウには雌花をつける株と両性花をつける株があって群れのなかでは一緒に花を咲かせています。奥山さんによると、このチャルメルソウの花には、キノコバエという昆虫の仲間がやって来るというのです。

 チャルメルソウの花には昼間、あるいは夜もほとんど何の昆虫も訪れませんが、夕方になるとふわふわと頼りなげに小さな昆虫が飛んで来るのに気づきます。これがチャルメルソウ専属のパートナー、ミカドシギキノコバエです(下左写真)。ミカドシギキノコバエキノコバエ科に属する昆虫で、ハエといっても、すらりと足が長く、どちらかといえばカに似た姿をしています。長い足の先が必ずあの細長い花弁にかけられていることから、どうやら花弁の奇妙な形には、キノコバエの長い足でも上手くつかまれる足場としての役割がありそうです。ミカドシギキノコバエキノコバエの仲間としては特異な、長い口を持っており、それでしきりにチャルメルソウの花蜜を吸っています。花から花へ飛びうつるミカドシギキノコバエをつかまえると、その口にはぎっしりと花粉がついているので、確かにこの昆虫が受粉を助けていることが分かります。試しに、チャルメルソウの雌花を咲きはじめから網で覆ってしまうと、全く果実をつけないことからもミカドシギキノコバエの働きは一目瞭然です。 
  (奥山雄大「チャルメルソウの仲間とその花粉を運ぶキノコバエの共生系」)

 
 チャルメルソウの花を訪れ、吸蜜する  コチャルメルソウの花を訪れ、吸蜜す
 ミカドシギキノコバエのメス      るクロコエダキノコバエのメス

 チャルメルソウの花の形は、昆虫を引き寄せるためではなく、やって来たキノコバエが長い足で上手くつかまる足場ではないかと奥山さんは推測しています。なるほど、これなら小魚の骨のような花びらであることも納得です。

 日本のチャルメルソウの仲間は生育する地域が限られていても、チャルメルソウとコチャルメルソウのように2種が隣り合って咲く地域があります。チャルメルソウとコチャルメルソウはお互いに近縁で、人工的に交配を行うと簡単に雑種ができてしまうのに、自然界では不思議なことに2種の雑種を見かけることはほとんどないそうです。

 チャルメルソウの花を見ると、開花してもガク片が完全には開かず、花の形はやや釣鐘型。一方、コチャルメルソウの花は、ガク片がそり返り、花びらは平らに開いて、蜜を出す花盤が広く、皿型です。
 奥山さんが、日本に自生するチャルメルソウ属のほとんどの種で調査すると、釣鐘型の花の種には長い口が特徴のミカドシギキノコバエがやって来て花粉を運び、皿型の花の種には主に口の短いキノコバエ類がやって来て花粉を運んでいる(上右写真)ことが明らかになりました。つまり、隣り合って咲くチャルメルソウの仲間の種と種の間では、花粉を運ぶ昆虫の種類が異なっていて、お互いの間で花粉のやり取りが起きないようになっていたのです。

 では、チャルメルソウの仲間は、どうやって昆虫を引き寄せるのでしょうか。
 奥山さんは、チャルメルソウの花から出される奇妙な匂いに注目。実際にチャルメルソウの花の匂い成分を与えて反応を調べる実験をしたところ、その匂い成分が一方のチャルメルソウの種の花粉を運ぶキノコバエには好まれ、もう一方のチャルメルソウの種の花粉を運ぶキノコバエには反対に嫌われる性質があることを発見しました。
 チャルメルソウの仲間は夕方になると、種ごとに花からそれぞれ少しずつ異なった香りを漂わせ、キノコバエの仲間を呼び寄せているそうです。つまり、それぞれの花が、それぞれ異なる送粉者(ポリネーター)を選択し共生していたのです。

 奥山さんは、さらに研究を進め、日本のチャルメルソウの仲間のDNA配列を調べることで、花の香り成分が進化して変わり、それに伴い花粉を運ぶ昆虫が変わることが、日本列島では繰り返し起きていて、チャルメルソウの新しい種の誕生につながっていることを明らかにしました。
 日本でのチャルメルソウの仲間の独自の種分化には、花の香り成分が重要な役割を果たしていたということなのです。
 今後はどのような環境要因が引き金となって花の匂いの進化が起きたのか。その謎を解き明かす研究が進められています(「おくやまのページ」論文紹介(Okamoto, Okuyama, et al. 2015) 花の香りが変わると新種誕生!)。

 
  チャルメラにそっくりな     チャルメルソウ類は、小川や渓流沿いに生育し、
  チャルメルソウ類の果実     その環境を生かして仲間を増やしています。

 花の後、チャルメルソウの仲間に実ができます。花の時は横向きに咲いていますが、実になると上向きに向きを変えています。種子の散布には都合よくできています。雨が降って雨粒が「チャルメラ」のような口に上から落ちると、なかに詰まっている種子ははじき飛ばされ、あたりにばらまかれます。時には沢の水に流されて遥か遠くにも運ばれることもあるでしょう。フデリンドウ季節のたより97)の種子散布のしくみにそっくりですが、チャルメルソウは雨粒だけでなく、滝や小川の水しぶきも巧みに利用しているようです。
 コチャルメルソウを見つけたときは、渓流ぞいの湿地に群落をつくっていました。チャルメルソウの仲間は、種子での繁殖だけでなく、地中を横に這う根茎があって、ランナー(走出枝)を出し仲間を増やしているようです。

 さて、冒頭の写真絵本の物語ですが、じつは初めてコチャルメルソウに出合い、その奇妙な花を撮影しながら、ふと心に浮かんだお話を写真に組んで、写真サイトに投稿したものです。続きは次のように展開しました。

 海から さかのぼってきた 鮭が 教えてくれました。
 おまえさんと そっくりの花が 海の中に 咲いていたよ
 珊瑚といってね きれいな仲間が たくさんいるんだよ
 小さな花は 心が あたたかくなりました。
 青い海の 仲間たちを 想うと 水辺に咲く花は もう 孤独では ありませ
 んでした。                      (Fotopus:同)

 
  小さな花は心があたたかくなりました。   花はもう  孤独では  ありませんでした。

 地上の花たちのなかでは異質で孤独なコチャルメルソウの花は、海のなかに自分と似た形の珊瑚というきれいな仲間がたくさんいると教えられ、心があたたかくなり、安らぎを得たということにしたのですが・・・。

 奇妙な花の姿は、花の香りで昆虫を引き寄せ、花びらには昆虫の足場の役割りをさせるというコチャルメルソウの独自の花の進化の結果でした。姿、形の異なる生きものたちが、互いにつながりあって生きものの世界を豊かにしているわけで、このコチャルメルソウのお話は、これでおしまいにしてはいけないと思ったのです。
 続きは、コチャルメルソウの花の形をした仲間が、海だけでなくこの地上にもいて、その変わった花を何よりも頼りに生きている昆虫の仲間がいるというお話です。そのためには、コチャルメルソウにやって来るキノコバエの仲間をまず撮影しようとねらっているのですが、これが難しいのです。(千)

◇昨年4月の「季節のたより」紹介の草花