mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

労働者諸君! 今日も一日ご苦労様でした

 タイトルから「ははぁ、これは寅さんのセリフだ」とピンとくる方は、まさに寅さんファン。《ところで寅さん、あなたは労働者?》と尋ねたら何と答えるだろう。「労働者諸君と一緒にされちゃあ困るなあ。オレかい? 俺は自由業よ。自由気ままに仕事してるのよ」なんて言うだろうか。そういう自由人としての寅さんが、日々あくせく働く私たちにとっては魅力的だったりするんですよね。

 ところで、どれだけの人が自分は「労働者」だと意識しているだろう。街角のインタビューで、お仕事は?と尋ねたら「会社員です」とか、「サラリーマンです」との返事は聞くが、「労働者です」とは聞いたことがない・・・。かく言う私も、日ごろは自分が労働者なんて意識していない。「労働者」という言葉は、いまや死語に近いのでしょう。

 でも、そんな「労働者」という言葉が、いまだに生きているところがあるんですよね。労働組合です。
 これまで私は、仕事の関係で教職員組合のみなさんには大変お世話になってきましたが、私事となるとずっと縁のないまま来ました。設立時から長いこと研究センターは任意団体で、しかも所長と二人だけの職場。組合どころの話ではなかったのです。ところが2011年のあの震災後に、宮城県教育会館の公益事業部門に再編され、こんな私も組合に入ることになったのでした。

 そんなこんなで、実は先日、組合の大会に参加しました。大会には生活協同組合、病院・福祉、水道、運輸・運搬、印刷、法務、量販店など多岐にわたる業種の方々が参加しており、各支部の取り組みや現状が活発に話されていました。私も組合の委員長に促され、現在教育会館で起きている問題や課題について話をしてきました。

 熱心な参加者のやり取りを聞きながら、私は以前に読んだ本の内容を思い出していました。
 それは、清眞人さんが書いた「命名」というタイトルのものです。清さんが浪人時代に地域の若者たち(病院の事務員や看護士、印刷工、クリーニング屋の店員、電気工)の集まりに参加して経験した出来事が記されています。

 今も鮮やかに思い出せる。その時の自己紹介のことを。最初に口を切ったのは一番年長の印刷工だった。型どおり名前をいい職業を述べた。ぼくは印刷工です、と。次に商業高校を前の年に出た病院の女事務員の番であった。その彼女がある熱意をこめて、そしてぼくにはなにか最初の男に抗議するような調子さえ感じられたのだが、こう言ったのだ。「私は労働者です」と。そういってから彼女は自分が病院に勤めていることを述べた。(中略)彼女はまるでこういいたがっていたようなのだ。私たちは、印刷屋であり、事務員であり、店員である前にまず労働者なのだ、と。彼女は私を語る前に我々について語りたかったのだ。

 そして、清さんは、こうも言う。「ぼくはその時はじめて労働者が自分のことを労働者というのを聞いたような気がした」と。
 私は、組合の大会のなかで様々な職場からの発言を聞きながら、ここには職種を超えて「労働者」という言葉によって象徴され、現出される一つの世界があり、その言葉によって結ばれる人と人との世界があるのだと。心打たれたのは「労働者」という言葉が本来持つ言葉の力なのだ。そして、これまで教職員組合の人たちと仕事をしながらも、いつもよそ者と感じてきていた自分が、いま「労働者」という言葉によって結ばれた人と人とのなかに私もいるという、そのことに対する不思議な感慨なのだ。

 ところでアウトローの寅さんも、実は私と同じような感慨をもちたいと思っていたのかもしれません。寅さんシリーズ第5作「男はつらいよ 望郷篇」には、寅さんがタコ社長の工場で印刷工として働くことになり、意気揚々と出かける次のような場面があります

 じゃあ、これから労働に行ってくるからな。 あっこれ(服)な、ひろしに借りてな、似合うか? (似合うよ、とおばちゃん)そうか、真面目にやってくるからな。
 あっおばちゃん、俺な、帰ってきたらすぐ風呂に入るから、風呂沸かしておいてくれ。(あいよ)何しろ労働してくるからな。じゃあ行ってくる。
 あっそれからね、風呂上がったら冷えたビール飲むからな、ビール冷やしておいてくれよ。何しろ労働してくるからな。(わかったよ)じゃあ行ってくる。
 あっそれからもう1つ、できたら按摩呼んでおいてくれるか。ちょっと労働してきて筋肉もみほぐすからな。じゃあ行ってくる。(あいよ、と少々呆れて)
 おいちゃん、地道な暮らしっていうのはいいな。これか(ポーズ)。(タコ社長の工場に向いながら)立て万国の労働者~。おはよう、労働者諸君。今日から俺は君たちの仲間だぞ。ともに闘い、ともに働こう。ははははあー

(この場面、なんとYouTubeにアップされていました。よかったら、そちらもご覧ください。男はつらいよ名場面 第5作 寅さんの労働 - YouTube

 ここには、寅さんの一つの労働者像が垣間見えます。地道に働いて、風呂に入りビールを飲み、疲れをほぐして、また翌日の労働に出る。自分にはそういう生活はできないけれど、だからこそ一つの憧れとしての思いが。そうできないゆえの悲しさ、切なさが。そういうところが、おかしくも深みを持った人間の姿として寅を魅力的にしているのではないでしょうか。(キヨ)