mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより64 ハキダメギク

「掃きだめ」を拠点に  異国に新天地をひらいた小花

 里の紅葉も終わり、枯葉が舞う季節になりました。それなのに、ハキダメギクは落ち葉をおしのけて、花を咲かせています。

    ハキダメギクに思う
                                                     山本 凛

 ハキダメギクとは つれない名前を つけたものです
 野花だから どんな名でも よかったのでしょうか
 たまたま、虫のいどころが 悪かったのでしょうか
 見つけた場所への こだわりが あったのでしょうか
 もしも、ほんの、ほんの少しだけ、
 野花によせる 愛があったなら、それでも この名に なったでしょうか
 野原や 畑や 畦道で、 花壇や 公園 道端で・・・・、
 白と黄色の 小さい花は、今日も こぼれるように 咲いています

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       落ち葉をおしのけ  花を咲かせているハキダメギク

 ハキダメギクはもともと日本にあった草花ではなく、熱帯アメリカを原産とする帰化植物です。大正時代、東京・世田谷の経堂にあった掃きだめで、牧野富太郎博士は見慣れない小さな花を採集し、新種だったので「ハキダメギク(掃きだめ菊)」と名づけました。
 それ以来、ハキダメギクは、ヘクソカズラ、ノボロギクなどと並んで、気の毒な名前をもつ植物の代表的なものとして、よく取り上げられます。

 ハキダメギクは、その名でわかるとおり、キク科のコゴメギク属の一年草です。東京で発見されたあと、主に本州以西に分布していましたが、その後急速に全国に広がって、畑や空き地、荒れ地や道端などに普通に見られるようになりました。特に都会周辺に多いようです。
 ハキダメギクの種子は、3月下旬頃から芽生え始めます。小さな白い花が一斉に咲いているのが目につくようになるのは6月頃からです。

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  白と黄の小さい花     6月の頃、こぼれるように咲いています。

 キク科の花の特徴は、小花がたくさん集まってひとつの花(頭状花)を作っていることです。小花には、一枚の花びらをもつ舌状花と、花びらを持たない細い筒のような筒状花(管状花ともいう)があります。ヒマワリは中央が筒状花で、そのまわりを舌状花がとり囲んでいます。アザミは筒状花だけの花で、タンポポは逆に舌状花だけの花です。花によって小花の集まり方が個性的なのです。(NO39・ツワブキで、それぞれの写真があります。)

 ハキダメギクの花は、遠くからでは小さくてよく分かりませんが、近寄ってよく見ると、中央に黄色い複数の筒状花が集まり、そのまわりを白い花びらを持つ5つの舌状花がとり囲んでいます。小さな花ですが、花の構造はヒマワリの花と同じです。
 5枚の舌状花の花びらの先端が、3つに割れているのがおしゃれで、5枚が隣と距離を置き並んでいるのもいい感じです。小さな花が大きな葉の上にちょこんと載っていて、愛嬌があります。でも、振り向いてくれる人はあまりいません。

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3つに割れる。花びらの先端。   日の光を受け、微笑んでいるかのよう。

 他国で育った植物の種が、ある日、とつぜん日本にやってきて、そのまま分布を広げるということはまず無理でしょう。しばらくはどこか生存できる場所を見つけ、日本の生育環境で生きられるかどうか試されます。でも、ほとんどのものは、日本の風土や気候になじめずに、最初の段階で死滅していきます。
 「見知らぬ異国で成功するのは、簡単ではないのだ。今や道端などでふつうに見られるオランダミミナグサも最初に発見されたときには、横浜港でひっそり咲いていた。花粉症の原因として猛威を振るうオオブタクサも、大豆に混じって最初に侵入した場所は豆腐屋の店先だった。活躍している帰化雑草も、みんな下積みの時代を経ているのである。」(「身近な雑草の愉快な生き方」・稲垣栄洋著)

 ハキダメギクがどんな経過で日本にやってきたのかはわかりませんが、ひそかに住処を見つけて、そこを拠点に体力を蓄え、花を咲かせ、実を結んで、各地に種子を飛ばしていったと思われます。新天地をめざした種子は、着地してその地で発芽できても簡単に生きられるわけではなかったでしょう。

 田んぼや畑に着地した種子は、芽生えても地面は耕され、見つかれば雑草としてぬきとられます。空き地に降りたとしても、たくさんの競争相手にすでに陣地を確保されています。地下には多くの植物の根がはりめぐらされ、次の発芽を待っています。新参者の潜り込む余地はありません。それでも隙間を見つけてやっと芽生えても、夏には大きな植物の葉かげになり枯れてしまいます。
 結局、生存できた場所は、競争相手の少ない都会地の道の脇、路側帯、街路樹の下や花壇などでした。ここでも見つかれば、抜き取られたり、除草剤をまかれたりします。かろうじて、生き延びたものがいて、次の世代へいのちをつなぐことができたのです。

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      試練をのりこえ、いのちをつないできたハキダメギクの花

 ハキダメギクが、異国で生きのび、分布を広げることができたのは、競争相手の少ない都会の片隅や造成地などであれば、他の植物と対等に勝負できる有利な点をいくつか備えていたからでした。
 ハキダメギクの種子は、成長が早く、日当たりのいい場所だと、ほぼ一か月で、開花から結実までが可能です。春に発芽し、初冬の降霜期まで花を咲かせ続けていますが、同じ個体が長く生きているわけではありません。最初の世代が種子をつけると、休眠しないですぐ発芽して、1年のうちに、3~4世代まで世代交代が可能なのです。
 種子ができても休眠し、寒さにあわないと発芽しない植物もあります。多くの植物は自分にあった季節に発芽し、1年、または2年で世代交代をしているわけですから、ハキダメギクにはかないません。

 ハキダメギクの花の季節が長いのは、昆虫たちにはありがたいことです。人間には相手にされないハキダメギクも、小さな昆虫たちには人気があって、いろんな昆虫が絶え間なく集まってきます。特に、冬間近になって、花が少なくなる季節にも咲き続いているので、昆虫たちの貴重な蜜源になります。もちろん、昆虫たちは蜜をもらう代わりに、ハキダメギクの受粉を熱心に手助けしているわけです。

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  花は、小さな昆虫たちには貴重な蜜源、いろんな昆虫が集まってきます。

 ハキダメギクは、全体的に短い毛で覆われています。学名は「Galinsoga ciliata」で、種名の「ciliata」(ヒュミラ)は「縁毛のある」を意味しますが、葉にも茎にも目立った毛が生えています。
 植物の毛は、害虫から身を守ったり、暑さ、寒さからの乾燥をふせいだり、寒さから身を守ったりする役割をしています。熱帯原産なので、さすがに凍結には耐えられませんが、早春から初冬まで変化のある環境でも花はつけられるのです。

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     茎をおおう毛           葉も毛に覆われています。

 ハキダメギクの枝の別れ方にもおもしろい特徴があります。茎の部分が、くりかえし二又に分かれて、その枝から伸びた小枝の先に花をつけます。根元近くの茎以外は、中心の茎がわからなくなるほど枝を増やします。ちょうどハコベの増え方に似ています。草丈は15cmから50cmほどにもなり、栄養がよいと、小枝につく花の数は限りなく増えていきます。

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   対生に着く細長い葉      茎はくりかえし二又に枝分かれしていきます。

 ハキダメギクの小枝には、どれほど、小さな花がつくのでしょうか。これについて、約40年ほど前に、その数を調べた人がいました。
 当時、農林省蚕糸試験場におられた宇佐美洋三さんは、東京都の日野市にあった蚕糸試験場において、ハキダメギクは、5月から10月にかけて発生し、メヒシバと共に夏季の優占雑草となるので困っていました。そこで、作物に害の少ないハキダメギクは、雑草として排除するのではなく、緑肥作物として畑作物に組み込めないかと考え、ハキダメギクの個生態についての実験調査を行ったのです。
 その結果、「ハキダメギクの開花順序は集散花序に属し、1株の1世代における開花数は13, 400個前後、1つの花の種子数は30粒前後,、後者を前者に乗ずれば約40万粒となり、雑草のなかで種子の生産量の多い草種であることが明らかとなった。」と論文で報告しています。(「桑園雑草の生態に関する研究 II. ハキダメキクの個生態」 農林省蚕糸試験場 宇佐美洋三・1976・3)

 1株で約40万粒ですから、すべてのハキダメギクがつける種子の数は、気の遠くなるような数です。その種子が、綿毛をつけて、風にのって各地に飛んでいくことを想像すると、あたりが全部ハキダメギクで埋め尽くされてしまう気がするのですが、そうならないのが、自然のしくみということなのでしょう。

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  まわりの花から種子が  種子には幅の広い綿毛が  綿毛は約2㎜、種子は
  でき始めています。   ついています。      1㎜ほど。

 異国から日本に上陸した小さな花が、たまたま咲いていたところが、「掃きだめ」でした。掃きだめは、ごみ置き場のようなところで窒素肥料が豊富です。他の場所でも咲いていたのに、最初に見つかった場所が、まずかったといえば、まずかったのです。発見場所にちなんで、ハキダメギクと名づけた牧野博士も、後世の人から、こんなに不評をかい、命名のセンスが問われるとは思いもかけなかったでしょう。
 それはともあれ、当のハキダメギクは、どんな名前で呼ばれようとも知ったことか、それは人間さまの都合だからと、持ち前のタフな力で、新天地を開拓しながら生き抜いていくに違いありません。

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       きれいな花なのに、見つかった場所が不運でした。

 「花の名も時代を反映する。かつて身近に「掃きだめ」があった。生活のゴミを掃き捨てる場所として機能していたのである。」(「花おりおり」・湯浅浩史)
 当時は普通に「掃きだめ」が見られた住宅地は、時代とともにきれいに舗装、ごみ置き場も設置されて、見違えるように生まれ変わっていきました。
 ハキダメギクの花の名が、大正という時代の人々の生活風習を伝え、かつハキダメギク帰化の歴史を伝えるものとして残っていくとしたら、それはそれとして、おもしろいことではないでしょうか。(千)

◇昨年11月の「季節のたより」紹介の草花