mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

清眞人さんの新刊書紹介 ~『高橋和巳論』~

  毎回、読み応えのある文章をdiaryに寄せてくれる清さん。ときに歯が立たず何回も読みなおすこともある。専門の哲学はもちろん、文学に関わっての著書も出されている。2010年に思潮社から『三島由紀夫におけるニーチェ』を、2016年には藤原書店から『ドストエフスキーキリスト教』を、そして、この3月末には『高橋和巳論 宗教と文学の格闘的契り』を出版した。

 恥ずかしながら、清さんが今回論じた高橋和巳は名前を知る程度。なお「高橋和巳」をdiaryの検索欄で引くと、清さんの「西からの風」の(1)(9)(13)(18)で、また春さんの「師の目にも涙、に想う」でも登場する。

 5月2日の毎日新聞「今週の本棚」で、元外務省主任分析官で作家の佐藤優さんが書評を寄せているので、紹介することにした。本書は、500ページを超える大著であるが、ステイ・ホームの今を活かし、思い切って読んでみてはいかがだろうか。(キヨ)

  f:id:mkbkc:20200516134704p:plainf:id:mkbkc:20200516132915p:plain 

 全共闘運動が盛んだった時期に大学生や高校生は高橋和巳の小説を熱中して読んだ。また、高橋はバリケードでキャンパスを封鎖した学生側に与(くみ)して、京都大学文学部助教授を辞した。高橋の小説では、思想と行動を一致させようとする人物が破滅していく姿が描かれていた。著者自身も破滅型の人生を歩んだ。清(きよし)眞人氏は、テキストを徹底的に分析することを通じて、高橋を突き動かしていた力が「捨子性」にあることを見いだした。〈『邪宗門』でいえば、《捨子性》とは、その人間が「宗教的感情の基礎」となる二大柱の一方、「自らに生命を与え、外気に触れながらもただ泣きわめくことしか知らぬ自分を育ててくれた者」、すなわち《母》に対する「感情」を欠落するということにほかならない(なおもう一方は、「死霊への恐怖」とされる)〉という指摘が事柄の本質を突いている。

 新型コロナウイルス禍に 直面したわれわれは日々「死霊への恐怖」に怯えている。このような状況で必要なのは母子の間に見られる愛のリアリティーを回復することだ。そのためにも高橋の観念小説を読み直すことが必要と思う。
     (5月2日「毎日新聞」 佐藤優・作家、元外務省主任分析官)