mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより50 ホトケノザ

 魅惑の唇花のしくみ  畑の土のバロメータ

 暖かくなったので我が家の小さな菜園に野菜のタネをまこうとしたら、見慣れない草花がピンクの花を咲かせていました。よく見ると、ホトケノザでした。
 台座のような葉から花をそっと引き抜き、根元をちょっと吸うと、かすかに甘い蜜が舌の先につきました。こどもの頃、田舎の畑や原っぱでよくやっていた遊びです。

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 陽光をあびて  ホトケノザの小さいピンクの花がおしゃべりをしているようです。

 ちなみに、春の七草のひとつの「ほとけのざ」は、このシソ科のホトケノザではなく、図鑑ではキク科の「コオニタビラコ」というまったく別の植物のことをいいます。コオニタビラコは、地面に広げる放射状の葉が仏さまの台座のようなので、もともとは「ほとけのざ」と呼ばれていました。ところが、このシソ科のホトケノザも、やはり花を包む葉の形が仏さまの台座に似ているので、いつのまにかこちらの方が「ホトケノザ」と呼ばれるようになり一般化してしまったようです。

 春先に咲く草花で、ホトケノザと似ているのがあって、時々間違えられてしまうのが「ヒメオドリコソウ」です。どちらもシソ科なので似ているのです。
 日本にも在来種のオドリコソウが見られますが、よく目につくのは、外来種ヒメオドリコソウです。道端で淡いピンク色の花が鮮やかに群生しています。
 植物の茎はすべて丸いと思い込んでいる人が多いのですが、シソ科の植物は茎の形が円でなく四角形で、断面は多くが正方形です。実際に触って確かめてみるとおもしろいです。シソ科特有の香気も感じられるでしょう。花の形も似ていて、唇型花(しんけいか)という唇の形をしているのが特徴です。

 ホトケノザと近い時期に咲きだして、仲間だと思われがちなのがケシ科の「ムラサキケマン」です。ムラサキケマンの花は、ラッパのような筒状の形をしています。ホトケノザの花と見比べてみると違いがわかってくるでしょう。ムラサキケマンには毒がありますので、間違っても口に入れたり、ホトケノザと間違えて蜜を吸ったりしないように気をつけてください。

 

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      ホトケノザ           ヒメオドリコソウ       
   葉が段々になっていて、花は葉の  花が葉の間から顔をのぞかせます。
   上に乗っているように見えます。  (咲き始めの頃)

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      ヒメオドリコソウ          ムラサキケマン
   花がしだいに葉の上にとび出して  ラッパのような花の形が特徴です。
   きます。

 春の陽を浴びて一面に咲いているホトケノザは、花の唇でおしゃべりを楽しんでいるかのようです。でもこの魅惑の唇はハチたちを呼び寄せるためのものです。
 空中を飛ぶハチは、花の下の唇の美しい模様に魅かれて近寄ってきます。下の唇は少し広くなっていて着地に好都合のヘリポートです。上の唇には花の奥へと蜜のありかを知らせる線がひかれています。細長い花は中に入るほど細くなっていて、それでもハチが突き進むと、上の唇の下に隠れていた雄しべが下がってきて、ハチの背中にペタンと花粉をつけるのです。ハチは背中まで脚がとどかないので、自分ではその花粉をとることはできません。花粉を背負って次の花へと運んでくれるのです。ホトケノザの花は、花粉を無駄にしないしくみになっているのです。

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  ハチたちをさそう唇形の花姿     下の唇花は、ハチたちのヘリポート

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 上の花びらの下に蕊がかくれています。      ハチがもぐりこむと背中につきます。

 夏になると、ハチは春先のように花にやってこなくなります。魅惑の唇も働きがいがないと思ったのか、ホトケノザは花の口を固く閉ざしてしまいます。それから、葉のつけ根に目立たない閉鎖花をつけて、つぼみのまま自分の花粉で受粉して実を結んでしまいます。ホトケノザは、季節を変えて花の咲く開放花と花の咲かない閉鎖花の両方で種子を作っているのです。

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 葉の上に閉鎖花がみえます。       枯れた葉から種子がこぼれました。

 ホトケノザは子孫を残すために、種子をどのように散布しているのでしょうか。
 枯れた台座のような葉をとってふってみると、ぱらぱらとその場に落ちました。
 多くはその場に散布されるようですが、種子の中にはエライオソームという物質が付着しているものがあります。このエライオソームは、脂肪酸や糖、アミノ酸などが成分でアリが大好きなのです。これでアリを呼び寄せ、種子を巣まで持ち帰らせながら広範囲にばらまいてもらおうとしているのです。

 ところで、ホトケノザは、このエライオソームの量や質を調節して、閉鎖花にできた種子よりも開放花にできた種子を、アリに積極的に持ち運ばせているようだというのです(website「畑は小さな大自然」vol.61)。
 ある研究では、アリを排除して栽培したホトケノザの種子を育てると、閉鎖花だけになり、アリ存在区で育てたホトケノザは開放花をつけて種子の数も圧倒的に多かったことが報告されています。(第52回日本生態学会報告)
 ホトケノザは、閉鎖花にできた親と同じ遺伝子を持つ種子を親元近くに散布し、開放花にできた多様な遺伝子を持つ種子を、できるだけ遠くに散布しようとしていると考えられます。命を絶やすことなくこの自然界を生き抜こうとするホトケノザの知恵でしょうか。

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   上から見ると万華鏡の花模様。小さな赤いものがつぼみです。

 ホトケノザは、ふつう秋に種子が発芽して冬を越し、春に花を咲かせて実を結ぶという生活史をもっています。秋に発芽するのは、大型の植物が枯れて地面も日差しも独り占めできるからです。葉は小さな毛でおおわれていて冬の寒さに耐えられます。冬の間も成長を続け、春にほかの植物が芽を出し始める頃には、もう花を咲かせる準備ができています。寒さの季節をうまく利用するという、背丈の小さい草花が身につけてきた生き方なのです。ホトケノザには、気のはやいものや変わりものも多いのか、季節にかかわりなく花を咲かせてもいるようです。

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秋に発芽、幼い葉の頃。     立ち上がり四方に広がる。  年中、花を咲かせるものも。

 畑に生えてくる草花はたいてい雑草といって嫌われますが、自然栽培をしている農家の人によれば、雑草はその畑の土の状態を知らせるバロメーターだというのです。土が硬く痩せているときにはヨモギ、スギナなどの限られた種類の草が目立ちますが、土が良くなるにつれて、スベリヒユカラスノエンドウツユクサなどの種類が生えてきて、ハコベオオイヌノフグリホトケノザなどが見られるようになると、少しの肥料でたいていの野菜が育つ土になったと考えていいのだそうです。
 ホトケノザは畑の土がよくなってきたことを教えてくれていたのです。

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ホトケノザが生える土は㏗値7~(弱アルカリ性)で、作物が育ちやすい土地とのことです。

 土は砂や粘土や鉱物などに死んだ動植物が混ざったものです。土のなかで植物が育つ養分となるのは砂や粘土ではなく、植物が枯れたものや、落ち葉、虫の死骸などです。これらの動植物の遺骸が微生物やミミズなどの働きで分解されて、植物の根からふたたび吸収される養分になります。自然界の豊かな土は、多くの生きもののいのちの積み重ねでできています。
 自然界の土が1センチになるまでには、100年という気の遠くなるような長い年月がかかるそうです。人は自然が残してくれた土に、落ち葉やたい肥、生ごみなどを加えて、ミミズや微生物の働きも活発化させながら、畑の土づくりをしています。作物を育てるために、自然のしくみに従って、土を豊かにしているのです。

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  人間の都合で “ 雑草 ” と呼ばれる草花も、大地を豊かにする役割をもっています。

 菜園に生えてきたホトケノザがピンクの花を咲かせていますが、さて、野菜の種をまくためには土を耕さなければなりません。耕すところに咲いた花は、「ゴメン」と言って抜きとり乾燥させて、土にもどすことにしました。
 ホトケノザは背があまり高くならないので、野菜と共生できるといいます。残しておくと、土の表面の乾燥を防いだり、ほかの草が生えるのを抑えたりしてくれるそうです。根が通っていた穴は空洞として残るので、土の中の通気性や排水性を良くして土を耕すような効果もあるというのです。

 畑の土は育てる野菜に養分がとられるため、堆肥や肥料を入れてたえず栄養分を補給しなければなりません。自然界ではその役目をしているのが “ 雑草 ” といわれる多様な植物たちです。実際に草におおわれている大地は、枯れた草や根がつもってミミズや微生物も多く土の色も黒々としています。
 畑に生えてくる雑草といわれる植物たちも、畑の土を豊かにしてくれる本来の役割をもっているはず。その植物たちの特徴や生活史がよくわかると、邪魔者あつかいにしないで、うまくつきあい大地へ還していくことができそうです。
 さりげなく菜園にやってきたホトケノザは、かわいい花を咲かせながら、どんな草花も自然の生態系の中に位置づき咲いていることを教えてくれているような気がしました。(千)

◆昨年4月「季節のたより」紹介の草花

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