mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより42 ナナカマド

  白い花、羽状の葉、紅葉、赤い実が楽しめる樹木

 ナナカマドの赤い実が似合うのは、雪の綿帽子をかぶった街路樹。特に北海道ではこのナナカマドを市町村の木と指定しているところが多く、美しい街路樹の街並みが見られます。
 旭川に生まれた作家井上靖は、市制百周年の年、86歳で故郷を訪れ、ナナカマドへの想いを詩文にし、それが文学碑に刻まれて市民に親しまれていました。

  私は十七歳のこの町で生れ / いま、百歳の、この町を歩く。
  すべては大きく変わったが、/ ただ一つ、変わらぬものありとすれば
  それは、雪をかぶったナナカマドの、/ あの赤い実の洋燈(ランプ)。
  一歩、一歩、その汚れなき光に、/ 足許を照らされて行く。(略)

f:id:mkbkc:20191223171914j:plain
      冬の空に、鮮やかなナナカマドの実

 ナナカマドは、バラ科ナナカマド属の落葉高木で、寒冷地の山林に育つ樹木です。北海道から九州の山地や深山に分布しています。秋には紅葉し、赤い実も美しいので、北海道だけでなく、東北でも街路樹や庭木として植栽されることが多く、北国の人にとっては身近な樹木になっています。

 ナナカマドは、漢字では「七竃」と書きます。その名の由来は、木材が燃えにくく、かまど(竈)に七度入れてもまだ焼け残るからと、広く言われていますが、これは、「牧野新日本植物図鑑」の記述がもとになっているようです。でも、実際にはナナカマドはよく燃えるようで、越後の山荘で薪をたいて暖をとったことのある中村浩氏は、「この木の材はよく燃えて決して燃え残る事は無い」といい、この名は炭焼きと関連した名で、「ナナカマドを原木として極上品の堅炭を得るには、その行程に七日間を要し、7日間かまどで蒸し焼きにする。」それで、「七日竃すなわちナナカマドと呼ばれるようになったのだと思う。」(『植物名の由来』・東京書籍)と述べています。自らの体験と炭焼き現場の取材による説で、こちらの方が説得力があります。実際にナナカマドで焼いた炭は、火力が強く、火持ちも良いので、江戸の頃は鰻の蒲焼き用に珍重されてもいたようです。(同著)。

 ナナカマドは、山地では高さ10mにもなりますが、県内の公園や街路樹、学校の校庭などの木は、3~5m前後です。4月初めに仙台・治山の森の遊歩道で見つけたナナカマドは3m程で、固い鱗片に包まれた冬芽が金色に光っていました。
 5月、暖かな日が続いて、木々の芽吹きが一斉に始まると、ナナカマドの冬芽もほころんで、若葉が次々と開いていきました。

 f:id:mkbkc:20191223172008j:plain  f:id:mkbkc:20191223172035j:plain
   ナナカマドの冬芽            若葉がひらくナナカマド

 新緑の葉っぱの間から、花のつぼみがのぞいていました。冬芽の中で、花芽は、さらにしっかり葉の芽に包まれ、守り育てられていたのです。
 ナナカマドの葉が開くと、11~17の小さな葉が集まり鳥の羽のような形をしています。その葉の数が奇数なので奇数羽状複葉(きすううじょうふくよう)とよばれていますが、その葉は陽射しを透すと、緑が美しく輝きます。一枚の小さな葉の先端がとがり、縁にはぎざぎざの鋭い鋸歯が規則的に並んでいます。自然が作り出す造形は細部までみごとで、春に芽吹く葉や花のつぼみのすべてが、あの小さな冬芽の中に準備されていたと思うと、何とも不思議な気持ちになります。

 f:id:mkbkc:20191223172135j:plain  f:id:mkbkc:20191223172159j:plain
  若葉に包まれているつぼみ        ひらいたナナカマドの葉   

 ナナカマドは、5月の半ば頃から、白い花が咲き出します。羽状に広がる細長い葉の上に咲いた花は、遠くから見ると、白い雲がふんわりと重なっているようです。白い花と緑の葉の組み合わせも美しく、遠くからでもよく目立ちます。

f:id:mkbkc:20191223172319j:plain
      小さな白い花が集まる ナナカマドの花

 f:id:mkbkc:20191223172346j:plain  f:id:mkbkc:20191223172401j:plain
  梅の花に似ている花(拡大)        上向きにつく実(初期の頃) 

 ナナカマドの花はバラ科にしては地味な花ですが、花びらは5枚、雄しべは20個、花柱は3~4個のバラ科特有の花をしています。雄しべが長くつき出ている様子はウメの花にそっくり。その小さな白い花がびっしり集まって咲いて、昆虫たちを引き寄せます。密集している花は止まりやすい土台にもなって、昆虫たちの働きを助けています。

f:id:mkbkc:20191223172501j:plain
      初秋の頃 緑の葉の中に浮かぶ 赤い実 

 花の時期が終わると、房なりの実ができます。初めは葉と同じ緑色ですが、やがて、黄色に変わり、9月末には色づきます。ナナカマドは、まだ葉が緑なのに、実は真っ赤になるので、紅葉よりも一足先に秋の訪れを感じさせてくれます。

f:id:mkbkc:20191223172531j:plain
      色づき始めた 高山のナナカマド

 秋の深まりとともに緑だったナナカマドの葉も赤く色づいていきます。ナナカマドは、カエデやヤマウルシとともに、秋の紅葉では赤色が最も美しい樹木です。
 でも、県内の街路樹や公園のナナカマドは、真っ赤で美しく紅葉した姿をあまり見ることはありません。気候が影響しているのでしょうか。寒暖の差の激しい高山や北海道のような土地の方が鮮やかに色づくようです。

 県内で紅葉が美しく見られるのは、秋の栗駒山です。9月下旬、山肌は織りあげられた絨毯のように彩られます。

f:id:mkbkc:20191223172607j:plain
      樹木がよりそい、色なす、栗駒山の紅葉

 赤の色も違いがあって、ナナカマドは濃く深い赤色、真っ赤なのがサラサドウダン。黄色がミネカエデやダケカンバ、緑が常緑のハイマツ。樹木がよりそい、色なす紅葉は、高山の樹木たちが見せてくれるいのちの輝きの姿です。

 紅葉が終わり、ナナカマドが葉を落とすと、これまで、紅葉した葉に紛れて見えなかった赤い実が、急にその存在をあらわします。房になった赤い実はよく目立ち、不思議なことにその艶やかさを失うことなくかなり長く枝についています。研究者によると、ナナカマドの実の果汁には腐食をおさえる「ソルビン酸」が含まれていることが分かってきました。
 真冬になっても、ナナカマドの実はまだ残るので、虫も消え木の実も不足する冬の野鳥たちにとっては貴重な食料になります。ツグミムクドリ、レンジャク類、カワラヒワ、ウソ、ヒヨドリ、スズメ、カラスなど、場所によって、いろんな種類の鳥たちが集まってきます。

 f:id:mkbkc:20191223172703j:plain  f:id:mkbkc:20191223172742p:plain
    落葉すると、目立つ房なりの実       冬日に光るナナカマドの実

 鳥に食べられたナナカマドの実の中の種子は、新天地に運ばれます。おもしろいことに、ナナカマドの種子は、そのまま蒔いたのでは全く発芽しないのだそうです。種子の果肉には発芽阻害物質が含まれており、鳥の砂嚢を通過することで吸収されるので、鳥から排出された種子ほど発芽率が高いということ。ナナカマドの実は鳥たちに食べられることで、種子が発芽できるようになっているのです。
 ナナカマドの種子は、山地の山火事や伐採地の跡、針葉林帯での倒木の跡などに運ばれると、日当たりの良い土壌で芽を出し、ダケカンバ、ネコシデ、ミネカエデなどとともに、森林を回復する先駆者としての役割を果たしていきます。

f:id:mkbkc:20191223172938p:plain
   蔵王連峰、刈田岳のナナカマド。赤い実とお釜の色の対比が美しい。

 冬期の道路閉鎖前、蔵王連峰の刈田岳付近のナナカマドは横に這うように生えていました。低木化してねじれた樹形は、風雨と積雪に耐えて生きているあかし。その姿に圧倒されます。一方、街路樹や公園に植えられたナナカマドは、優しい葉に、枝はしなやか、楕円や円錐形の整った樹形をしていて、自然の造形の美しさを感じさせます。白い花、羽状の葉、紅葉、赤い実と、四季を通じて変化のある姿を楽しませてくれるナナカマドは、育つ環境によって「動」と「静」のまったく違った魅力を見せてくれる樹木でもあるようです。(千)

◆昨年12月「季節のたより」紹介の草花

mkbkc.hatenablog.com