mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

正さんのお遍路紀行(四国・愛媛編)その8・最終回

 菩提の道場 ~8日間で愛媛を歩く~

【8日目】 3月22日(金)  ~香川「涅槃の道場」最初の札所を歩く~

JR伊予西条(7:20)⇒ JR観音寺(8:24)⇒ バス ⇒ 谷上バス停(9:38)⇒ 3.8km ロープウェイ脇 ⇒ 4.2km 66雲辺寺 ⇒ 9.4km 67大興寺 ⇒ 8km JR本山発(17:40)⇒  JR坂出発(21:44)⇒寝台特急東京着 7:08 ⇒ 仙台着(10:00)

 昨日で愛媛を終えていたので、この日は歩くつもりは全くなかった。ロープウェイがあるというので観光がてら雲辺寺に行き、早々に観音寺駅に戻る予定だった。でも、ロープウェイ乗り場までの坂道をふうふう登っていったら、いつの間にか歩きモードに入ってしまい、山上にある雲辺寺へのへんろ道を歩いていた。
 およそ2時間の軽登山で雲辺寺に着いたが、空気が冷たく、ほてった体がどんどん冷えていった。四国霊場で一番高いところにあるという情報と、この凛とした空気の具合から「雲辺寺」の名前に納得した。

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       66番 雲辺寺

 同じ道を下るのは面白くないので、次の札所までの9kmを選択。ただしこのような日程になることは考えていなかったので何も調べてはいなかった。でも、へんろ道標が連れて行ってくれるはずなので、山道をどんどん下った。なぜ “どんどん” なのかというと、67番大興寺からJRの駅までどれぐらいあるのかが見当つかないので、その分の時間を稼いでおかないといかんと思いハイペースで下っていった。少し膝が痛くなった。

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《台湾のショウさんと出会う》
 下りきって平地になり、やれやれと思いながら歩いていると、前方にかなり疲れた足取りのおへんろさんがいた。荷物もかなり大きく、山を数日間縦走できる装備のように見えた。すぐに追いついてしまい、黙って追い越すのも何だなあと思い、「おつかれさんで~す!」と声をかけた。すると、私の歩いている方に近づいてきて「ワタシ、タイワンカラキマシタ」と返事が返ってきた。どこから見ても日本人だと思ったので、「Oh! really!」と言ってしまった。

 おへんろは一応修行なので、道連れはよくないのだろうが、次の札所まで一緒に行くことにした。日本語のへたなショウさんと英語のへたな私、言葉を探しながらおしゃべりをした。漫才のようなやりとりの中で分かったことは、ショウさんは、台湾帝国大学を出てプログラマーとして働いている。住宅の中古物件をネットで売買している会社だそうだ。働き盛りの40代。よくぞ休暇が取れたものだ。「なぜ、へんろなの?」と尋ねると、「日本のお寺はとても静かです」と言っていた。確かに、台湾のお寺とはずいぶん違うと思う。いわゆる観光地ではない “おへんろ” を目指してくるからには、もっと思想的な部分もあるのだろうが、いかんせん、私の英語力ではそこまで踏み込んだ話はできなかった。
 4,50分の道のりをショウさんと話せてとても楽しかった。彼も膝が痛くて嫌になりかけていたので、うれしかったようだ。大興寺で握手して別れた。「また、会おうぜ!」

 さて、問題はここから。へんろ道標は次の68番神恵院を教えてくれるが、JRには70番の本山寺の方が近いと判断し、へんろ道から外れて歩くことにした。スマホはあるのだが、地図の距離感がつかめず、何度も人に聞いて歩くことになった。かなり疲れていたので、ここの歩きはほんとに辛かった。

《地元の仙人につかまる》
 2時間ほど歩いて、駅まであと10分ぐらいの町中に入った。17:35の坂出直通に乗ろうとラストスパートをかけていた。すると、向こうから、髪が異様に長い仙人のようなご老人が近づいてきた。まさしく、おへんろ姿の私を目がけてきたのだ。「通しで歩いてきたのかい? どこから来なさった? あんたの家の宗派はなんだね?」などなど矢継ぎ早に話しかけられた。いつもなら、ありがたく会話を進めるのだが、時間がない。隙を狙って、電車の時間がもうすぐなことを告げてみる。「本山駅に行くなら、本山寺がすぐだから。そこのお寺は・・・・・」
 説明が始まる。とってもいい人なんだと思う。申し訳ないがこの時ばかりは、「すいません。電車が」と言って、歩き出してしまった。後ろから「あそこの信号右曲がれば近いぞ」と声が聞こえた。心の中で、すいません、ごめんなさいと謝った。

 やっと着いた。でも、17:43だった。しばし呆然。はあ~、あそこの5分が命取りだったか。まあ、これも修行だと思えば何のその。あきらめて、一服しようとライターを取り出した途端、電車が来たのです。えっ!別の電車? ちょっと迷ったが、遮断機が上がると同時に走り込んだ。どうも遅れが出たらしい。ふうと一息ついた。仙人のおじいさんを恨まずにすんでよかった。それにしても、この日が一番長く歩いたような気がした。

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    寝台特急は極楽じゃ!

《何か見つかったのか?》
 だいぶ乗り物に頼ってしまったが、それでも今回はよく歩いたなと思う。その点の充実感はある。山の中を歩いているときは特に楽しかった。ただ、これまでと少し違ったのは、久しく忘れていたことが妙に浮かんできたことだ。いいことよりも、そうじゃないことの方が多かったように思う。まさか懺悔を求められたのではあるまいか。いやいや、そうじゃないだろう。どんな人間だって、解決し得ない、あるいは消化できなかったことの1つや2つ抱えて生きているに違いない。何も考えずにただ歩き続けているうちに、普段は沈んでいたその類いのことが、揺られてぽっかり浮かんできたのだろうと思う。自分の未熟さを改めて突きつけられる感じだった。

 愛媛を終えて思うのは、スタート地点にいるような気分。向かう当てのないスタート気分。それってひょっとして、ただの気分転換かもしれない。笑える。次回の香川は何としても、一筆書きで歩きたい。どんな出会いがあるだろうか。体を鍛えねば。