mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより25 スミレの仲間

  仲間をふやす スミレのひみつ

 春の野原で草花たちが一斉に花を咲かせ始めました。小さなかわいい花を咲かせているのがスミレの仲間です。
 スミレの仲間(スミレ属)は、世界で約450種、日本だけでも60種ほどあるといわれています。ふつう「スミレ」というときは、これらの多くのスミレの仲間の総称として使われていますが、一種類だけ「スミレ」の名をそのままもらっているのが、学名ビオラマンジュリカ(viola mandshurica)というスミレです。スミレは濃い紫色の花を咲かせます。日当りのよい路傍や草地、林縁などに生えていて、日本中に分布しています。

f:id:mkbkc:20190405171239j:plain
   タンポポオオイヌノフグリと一緒に春の野に咲くスミレ

 小さなこどもたちと野原で春の草花をつんでいたときでした。ある男の子がスミレの花を見つけて、タンポポオオイヌノフグリと花の形が違うのに気がついたのでしょう。「スミレは、かわいいお尻のある花だね」と言ったので、みんなで「大発見!」と大喜びしたことがありました。
 スミレの花を横から見ると、花を長くして後ろへ突き出ています。男の子が「かわいいお尻」」と表現したこの部分は、「距」(きょ)といって、蜜の入れ物になっているところです。ひとめでスミレの花の仲間とわかるのは、この距があるからです。スミレの花の特徴を一瞬のうちに感じとったこどもの感性はすごいものです。

   f:id:mkbkc:20190405173607j:plain
   ヒメスミレ後ろに突き出た距。花茎が花のバランスを取っている。

   f:id:mkbkc:20190405173636j:plain
   アリアケスミレ花びらのすじ模様がハチを蜜へと導く。

 スミレの花びらは5枚で、花の中央には1本の雌しべがあり、そのまわりを5本の雄しべが取り囲んでいます。蜜は花の奥にある距の中に隠されているので、舌を長く伸ばすことのできるハチでなければ蜜をもらえません。舌が長いのはハナバチの仲間です。花にもぐりこんだハナバチは、奥にある距に長い舌をさしこみ蜜を吸います。夢中になっているうちに花粉まみれになって、その姿で次の花へと移動するので、スミレの受粉が行われるのです。
 花に集まる虫には蜜だけを盗もうとする虫もいます。スミレは、蜜が盗まれず確実に花粉を運んでくれる特別のパートナーとしてハナバチの仲間を選んでいるのです。

f:id:mkbkc:20190405173742j:plain
タチツボスミレの群落。人家から山地までどこでも見られるスミレ。「山路来て何やらゆかしすみれ草」(芭蕉)は、このスミレと確かめた植物写真家がいる。

 スミレは春早くから花を咲かせています。まわりの草花が花を咲かせる前に、ハナバチたちに花粉を運んでもらい受粉しています。この時期は、違う花どうしで花粉を交換し、受粉できるので、どんな環境でも生きられる多様な遺伝子を持つ種子をつくることができます。
 晩春になると、ハナバチたちはもうやってきません。他の大きな草花におおわれて、スミレの花は目立たなくなるからです。それでもスミレは枯れることなく、秋ごろまでつぼみをつけて種子を実らせます。
 スミレが花を咲かせるのは春だけです。夏や秋には、閉鎖花(へいさか)というつぼみのままの花で自家受粉し種子をつくります。自家受粉でできた種子は親の性質に似ていて、同じ環境で育つのに適していますが、違った環境には対応できず、全滅する危険性もはらんでいます。
 他の草花と比べて競争力の弱いスミレは、異なる二つの受粉の方法で、とにかくたくさんの種子をつくって、そのいのちをつなごうとしているのです。

  f:id:mkbkc:20190405173819j:plain
  エイザンスミレ。葉が細かく切れ込むので、一目でわかる。

     f:id:mkbkc:20190405173915j:plain
     ヒナスミレ。落葉樹の林下に見られる。きれいな淡紅紫色スミレ

  f:id:mkbkc:20190405174000j:plain
  ノジスミレ。田畑、路傍など人の手の加わった場所に多い。

 スミレの種子の散布の仕方にも独特の工夫があります。果実が出来ると、花軸の部分が伸びて果実を高い位置に掲げるようにします。果実が熟すと三つに割れて種子を周囲にはじき飛ばすのです。出来るだけ遠くへ種子を飛ばそうとしています。飛ばされた種子には、ゼリー状のエライオソームという甘い物質が付着していて、これを甘いものが大好きなアリが運んでいく仕組みになっています。
 アリは甘い物質を食べ終わると、その辺に種子を捨ててしまいます。もし種子が地中深く運ばれたとしても、甘い物質を食べ終わった種子はゴミなので巣の外に運ばれ捨てられます。街の中で野の花であるスミレが、住宅の石垣や歩道の隙間に生えているのをよく見かけますが、石垣やアスファルトの隙間はアリの巣の出入り口なので、そこに捨てられた種子が発芽したものです。
 スミレの種子はアリによっていろんな場所に運ばれ、新天地で芽を出し、スミレの仲間をふやしているのです。

 このスミレとアリの関係を謎を解くようなストーリーでこどもたちに伝えようと願って描かれた絵本が、かがくのとも傑作集「すみれとあり」 (矢間佳子・さく 森田竜義・監修/福音館書店)です。吟味された絵と文がこどもの心をつかみます。大人がよんでも自然界の不思議さに目を開かせてくれる絵本です。

  f:id:mkbkc:20190405174205j:plain
  ナガハシスミレ。距が天狗のような花のよう。
  別名テングスミレともいう。

     f:id:mkbkc:20190405174338j:plain
     ニョイスミレ。湿ったところを好む。花は白く小さい。
     ツボスミレともいう。

  f:id:mkbkc:20190405174418j:plain
  オオバキスミレ。初夏に高山に見られる。花は黄色。

 スミレの仲間たちをいろいろ見くらべてみると、細く伸びた茎に花や葉がついている種類と、葉も花も地表から束になって出て、茎がないように見える種類があることに気づくでしょう。この違いはスミレの種類を見分けるのに、大きな手がかりになります。花の色も紫からピンク、白や黄色の系統があります。葉は、多くの種類が切れ込みのない葉ですが、エイザンスミレのように細かく切れ込んだ葉を持つスミレもあります。葉のつけ根には一対の托葉(たくよう)があって、この托葉の形やつき方も、スミレを見分けるときのよい手がかりになります。スミレだけの図鑑も出ていますので手元におくと、スミレの世界への興味が広がっていくことでしょう。

f:id:mkbkc:20190405175253j:plain
山地の尾根道に咲くマキノスミレ牧野富太郎博士を記念して名づけられた。
右下に咲いているのはタチツボスミレ

 スミレの花が咲くのは春です。桜の花が咲き誇り、みんなが頭上の桜に見とれているときに、こどもの目は地面に近いので、足元でひっそりと花を咲かせているスミレの仲間に目を向けているかもしれません。こどもは小さな科学者なので、自然が見せる不思議さにいつも心を奪われています。そんなこどものまなざしと感受性を受け止めることができるなら、私たち大人の自然を見る目も豊かになっていくような気がします。(千)

◆昨年4月「季節のたより」紹介の草花

mkbkc.hatenablog.com