mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより12 ヒガンバナ

 畦道や土手、お墓に多い謎の花

 収穫の時期をむかえた田んぼの土手に ヒガンバナが咲いていました。
日本のなつかしい秋の農村風景が広がっていました。

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                畦道に咲くヒガンバナ栗原市一迫町で)

 ヒガンバナといえば、新美南吉の童話「ごんぎつね」の授業で思い出すことがあります。

「兵十のうちのだれが死んだんだろう。」
お昼がすぎると、ごんは、村の墓地へ行って、六じぞうさんのかげにかくれていました。いいお天気で、遠く向こうには、おしろの屋根がわらが光っています。墓地には、ひがんばなが、赤いきれのように、さき続いていました。

 4年生の国語の授業で、この場面を朗読したときです。「ああ、きれい」と思わずつぶやく女の子の声を耳にしたのです。その子は一瞬のうちにヒガンバナの咲き続く風景を心に浮かべたのでしょう。
 ハルカさんという物静かな女の子でした。あとで聞いてみると、小さい頃に田舎のおばあちゃんと畦道を散歩しながら、ヒガンバナの花を教えてもらったとのことでした。クラスの多くの子はヒガンバナの花を図鑑で知っていても、咲いている風景を見ている子は少数でした。
 幼児期の何気ない自然とのかかわりが、子どもの感性を育て想像力を育くむ土台になっているのではと、そのとき思ったのです。

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  お彼岸の頃、咲き出すヒガンバナ     咲き出す頃は、実りの季節

  ヒガンバナはお彼岸の頃にいっせいに咲き出すので、彼岸花とよばれています。別名は曼珠沙華マンジュシャゲ)。 これは、サンスクリット語で天界に咲く花という意味。 おめでたい事が起きる兆しに天から花が降ってくるという仏教の経典から来ていますが、日本では幸せをよぶめでたい花というイメージはあまりないようです。

 強烈な赤の色彩と散開花序とよばれる花の華やかな姿が目を引きます。 一つの花は、くるりとまいたリボンのような6枚の花びらと、長くのびた5本のおしべと1本のめしべでできています。その花が、花茎の先端に5個から7個ほど集まっていて、横から見ても上から見ても、みごとな造形美をつくりだしています。

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    横から見た花の姿           上から見た花の姿

 ヒガンバナは、花が終わると実らしきのものができるのですが、いくら探しても種が見つかりません。調べて見ると、ヒガンバナは、中国から有史以前に日本に伝来し、わずかの株から広がったもので、その株は3倍体という特殊な染色体を持っていて種子はつけず、球根だけで増えるということでした。

 ヒガンバナは全国津々浦々ふつうに見られる花ですが、種をつけず球根だけで、そんなに広がるものなのでしょうか。 それに、生えている場所が田んぼの畦道や土手、墓地などに限られるのも不思議です。

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花が終わってから葉が芽を     葉は冬の間に光合成し春に   花芽がのびだすのは9月上旬、
出します。10月頃。        枯れてしまいます。      葉はありません。

 実はヒガンバナは人の手によって、全国に植えられていたのでした。しかも田んぼの畦道や土手、墓地をわざわざ選んでいたのです。
 ヒガンバナの根は球根を地中にもぐりこませようと縮むので畦道や土手の土崩れを防ぐ役目をしました。また球根には毒性があって、雑草の生育を押さえたり、野ねずみが土手に穴をあけるのを防ぐ効果があったようです。墓地に多いのは、お供えの花として植えられたり、球根が毒があるため遺体を守る意図もあったと想像されます。
 でも、私たちの先祖がこぞってヒガンバナを植えた理由は別にありました。それは飢饉のとき救荒植物として利用していたのではないかというのです。

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       黄金色の稲穂と深紅の花

 昔から農民たちは重い年貢で苦しめられ、何度も自然災害や飢饉に見舞われ多くの餓死者を出していました。食べられるものなら何でも食べて、いざというときの食料としてガンバナを土手や墓地に植えて自然繁殖させ、子孫に残していたと考えられるのです。
 墓地に植えられ、シビトバナ(死人花)、ユウレイバナ(幽霊花)などという不吉な別名でよんで、人を遠ざけていたのもそれなりの理由があったわけです。
 毒があるから食べてはいけないと言い伝えられきたヒガンバナは、水にさらし毒抜きの方法をとれば、良質なデンプンとして十分に食べられました。古文書にはその方法が残されていますし、実際に島根県のある地方ではヒガンバナのデンプンを使って餅を作る風習も残っているそうです。

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    稲の天日干しとヒガンバナの風景     道路ぞいに咲くヒガンバナ

 種のつけない美しく妖艶な花が全国各地に広がる歴史には、祖先たちの悲しく厳しい暮らしと子孫たちへの深い思いがあったのでした。

 ときおり道路わきや造成地の片隅にヒガンバナを見ることがあります。そこはかつて祖先たちが土地を耕し子孫を思って球根を植えた跡なのかもしれません。(千)