mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

映画『歩いても 歩いても』に寄せて、親子を想う

 3月に行われた第41回日本アカデミー賞では、是枝裕和監督の「三度目の殺人」が6部門で最優秀賞に輝きました。今や日本を代表する映画監督の一人です。その是枝さんに来ていただいたのは2008年、今思うととても贅沢なことだったなと思います。映画「誰も知らない」の上映とお話のセットでした。その合間には、すでに撮影は終了し編集作業に入っていた「歩いても 歩いても」の映像も一部見せていただいたことを記憶しています。

 先日、久しぶりに「歩いても 歩いても」を鑑賞しました。海で溺れた子を助けて命を落とした兄の命日に、久しぶりに家族みんなが集まります。しかし次男の良多(阿部寛)は、失業中のうえ日頃から父とは折り合いが悪く、なんとも気が重い。食卓には母の作った手料理が並び、姉家族ともども思い出話に花が咲きます。そんな家族のなかでの何気ない会話に、それぞれが抱えた事情や思いが見え隠れします。夏のある一日を静かに描いた作品です。

 2008年の上映時には、監督のお母さんが亡くなられたことがこの作品をつくるきっかけとして語られたこともあり、樹木希林さん演じる母親を中心に観てしまうところがありました。今回そういういきさつを脇に置いて改めて見ると、父と息子(町医師として働き家族を養ってきたことにプライドを持つ父・原田芳雄と、父や亡き兄にコンプレックスを感じている息子・阿部寛)の物語世界としてもおもしろく見られました。相手に対するやさしさや労りの気持ちは持ちつつも、それぞれのプライドや小さなわだかまりやしこりで、素直な言動にはなかなか結びつきません。そのことが映像や、言葉のやり取りとして描かれています。親子のつながりの妙をとても上手く描いています。

 一番好きな場面は、終わりの方に描かれている海へ散歩に行くシーンです。父と息子、その子ども(孫)三世代の男たちが、砂浜で海を眺めます。兄であり息子のいのちを奪っていった海、いのちをはぐくむ海。その海を前に、それぞれの胸に去来しているのは何なのでしょうか。砂浜でかわす父子の会話はたわいのないものなのですが、愛おしくもあり切なくもあり、とても印象的です。

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     どうでもいいことが どうでもよくなくて
     どうでもよくないことが どうでもいいことのように
     誰もふれず、ひっそりさけている

     水平線を見つめる
     そのまなざしの向こうに
     青く争う静けさが
     沈黙の言葉としてゆれている 

 ちなみに今回、小説『歩いても 歩いても』も読みました。小説の方では、映画では語られない挿話(例えば、父や母の亡くなるまでのことなど)や思いなども記されており、映像と言葉の表現の違いによる面白さなども含め『歩いても 歩いても』の世界がより深く味わえます。ぜひ、みなさんも読んでから見るか、見てから読むか。楽しんでみてはいかがですか。(キヨ)