mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより79 モウセンゴケ

  貧栄養の湿地に生きる  特殊な進化をした食虫植物

 モウセンゴケは、もっとも身近に見られる食虫植物です。モウセン(毛氈)とは、羊毛などのけものの毛を原料に織物風に仕上げた敷物のこと。湿地に生えて赤く色づき群生する様子が、ひな壇などに敷きつめられる赤い毛氈のように見えることからモウセンゴケ(毛氈苔)と名づけられました。
 山歩きをしていると、日当たりのいいミズゴケの生えている湿地でよくモウセンゴケの群生に出会います。私は、最初、その名のとおりこれはコケの仲間と思っていました。ある時、モウセンゴケの上に伸びている渦巻状のものを見つけ、その先端のふくらみが、もしかすると花のつぼみなのかもと思ったのです。

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    湿地のミズゴケの上に生えるモウセンゴケ        これ何?

 数週間後に再度その湿地を尋ねてみました。渦巻き状のものは直立に伸びていて、その先に数個のつぼみがついていました。小さなつぼみはふくらみ、その一つが花を咲かせていたのです。5枚の花びらを持つ小さな純白の花でした。
 モウセンゴケは胞子で増えるコケの仲間ではなく、立派に花を咲かせて種子を作る種子植物でした。
 調べてみると、モウセンゴケの花期は、県内では6月から8月。平地では早く咲き、高山では遅く、場所によってかなりの幅があるようです。

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    直立する花茎       ふくらむつぼみと花    モウセンゴケの花の姿  

 植物の和名には、コケでないのにコケの名がついたり、ランの花でないのにランの名がついたりと紛らわしいのが多くあります。これまでの命名が外見の姿や形など見た目重視の方法でなされ、科レベル、目レベルがまったく違うものも、 同じ仲間のように " 分類 " されていたからでしょう。現在では DNA などを利用した分類が主流になり、それまで同じ仲間だと思われてきた植物が別のグループに属していることがわかっています。でも、いったん命名された名はそのままなので、コケやランののついたものも、紛らわしさは残ったままです。同じ仲間かどうかは、図鑑を見て確かめるようにしたいものです。

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  モウセンゴケの葉は、ご飯をすくうシャモジのよう。表面には腺毛が密生。

 モウセンゴケの特徴は、なんといってもその葉の表面にびっしりと赤い色の腺毛が生えていることでしょう。この毛の先端は球状になっていて、光が当たると美しく輝きます。輝いて見えるのは先端から粘液が出ているからで、じつはこの粘液は虫たちを捕まえるための罠でもあるのです。
 モウセンゴケの虫を捕まえる仕組みは繊細でありながら、かつダイナミックです。白い花や粘液の輝きにおびき寄せられた虫や、たまたまそこを休み場としていた虫が、葉の表面の腺毛にふれると、触れた刺激によって、腺毛が動き出して、虫の体を押さえ込むように巻きつきます。チョウやハチ、ハエ、ガガンボなど、昆虫ならなんでも捕まえるようです。モウセンゴケの群生地で、アキアカネが捕まっている姿を見たときは、敏捷なはずのトンボも捕まるのかと驚いたものです。

 捕まった虫たちが逃げようともがくと、モウセンゴケの腺毛は、その先から消化液を出します。消化液は酸性で、タンパク質を分解する消化酵素などが含まれていて、虫の体に浸透し溶かしてしまうということ。虫を溶かして、その腺毛から分解物を吸収し、自身の栄養にするのだそうです。

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   アキアカネが捕まっています。(よく見ると、2匹捕まっています。)

 モウセンゴケの学名はDrosera rotundifolia L.です。属名のDrosera(ドロセラ)は、ギリシア語のdrososが語源で「露」を意味するのだそうです。

 動植物の学名は「属名+種小名」の2語のラテン語で表します。これまでばらばらだった生物の名称を二名法で書くことを提唱したのが、18世紀のスウェーデンの植物学者、カール・フォン・リンネでした。この業績によって、リンネは「生物分類学の父」と呼ばれています。
 動植物の命名者は、「種小名」の後に記されますが、たった一文字の略称が使用できるのはリンネのL.のみです。学名の最後尾にL.とあれば、リンネが命名したもの。モウセンゴケ(Drosera rotundifolia L.)の命名はリンネであることがわかります。

 ところで、このリンネですが、食虫植物といわれる植物が昆虫を食べるという考え方を一切受け入れませんでした。モウセンゴケと同じ食虫植物であるハエトリグサに関しては、「神が決めた自然の秩序に反する」とし、捕虫は単なる偶然で、虫がもがくのをやめれば、葉を開いて虫を逃がしてやるはずだと結論づけたといいます。(「ナショナル ジオグラフィック」マガジン2010年3月号・ 特集:食虫植物 魔性のわな )

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       日当たりのいい場所で、白い花が次々と咲き出しています。

 一方、「種の起源」を著し、「進化論の父」と呼ばれるチャールズ・ダーウィンは、“ 肉食 ” の植物に強い興味を抱きました。彼の有名な著書「食虫植物」をまとめるきっかけになったのがモウセンゴケ(Drosera)との出会いでした。
 ダーウィンは、自伝でその時の様子を次のように語っています。

 1860年の夏に、私はハートフィールドの近くを散歩して休息していた。そのあたりには、二種のモウセンゴケDroseraがおびただしく生えていた。私は、たくさんの昆虫がその葉に捕えられているのに気がついた。私は何本か家にもって帰り、昆虫を与えながら触毛の運動を見た。そうしたところ、私には昆虫が何か特殊な目的のためにとらえられていることがほんとうらしく思われてきた。幸いにも私は決定的なテストを思いついた。それは、非常に多数の葉を同じ濃度のいろいろな窒素を含む液体、および窒素を含まない液体に入れておくことだった。前者だけが強力な運動をおこさせることが見られたので、すぐ、ここに研究のためのすばらしい新領域のあることが明らかになった。
 つづく何年か、暇のあるときはいつでも、私は実験をつづけた。
チャールズ・ダーウィン著・八杉龍一・江上生子訳「ダーウィン自伝」第8章・ちくま学芸文庫p.164)

 同年の11月、ダーウィンは、知人のライエルへあてた手紙に「この世のすべての種の起源よりもモウセンゴケが気がかりです。」とその思いを書き送っています。
 ダーウィンは何カ月もかけて、モウセンゴケを使って実験を続けました。
「ハエを葉に落とし、粘液の付いた毛が獲物をゆっくり包んでいくのを観察した。生肉や髪の毛ほどの重さで刺激を与えるだけでも葉が反応する一方、水滴の場合は、いくら高い場所から落としてもまったく反応しないことも突き止めた。雨粒にいちいち反応するのは、モウセンゴケにとって『大きな害』」になる、とダーウィンは考えた。この反応は偶然ではない。適応なのだ、と。」(「ナショナル ジオグラフィック」マガジン・同)
 その後、ダーウィンは長い年月をかけて、モウセンゴケの研究を他の食虫植物の種まで広げ、その成果を1875年に著書「食虫植物」にまとめあげたのでした。

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  下向きのつぼみ    上向きに咲く花      花のあとの実    種子は実のなかに 

 モウセンゴケは、葉緑素を持っていて光合成を行い、花を咲かせて種で増える種子植物です。自ら栄養を作り出せる力をもちながら、どうして虫を捕らえる必要があるのでしょうか。
 モウセンゴケは、他の植物との競争相手の少ない生息地を求め、湿地や沼地を選択しました。けれどもそこは、土壌の酸性度が高く、植物の生育に必要な栄養素の不足する「不毛の地」でした。普通の植物にはとても厳しく生きのびられない環境にあって、モウセンゴケは、本来植物に必要な窒素やリン酸などの栄養を、虫から取り込もうとしたのです。モウセンゴケ光合成を行っている葉を、さらに高い捕虫能力を持つ葉に進化をさせて、生きのびてきたのでした。
 その進化の謎を解明しようと、今も多くの研究者が取り組んでいます。

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    葉はロゼット状に広がります。    葉を立ち上げて、虫たちを誘います。

 モウセンゴケは日本全国に自生していますが、個体数が年々激減、多数の都道府県ではレッドリストの絶滅危惧類に指定されています。
 食虫植物ということもあって、湿地からの大量盗掘も多いといいます。湿地という特殊な生態系に適応しているモウセンゴケは、極端に酸性な土壌を好むほかにも、混じりけのない水しか受けつけず、純水、蒸留水、または雨水以外の水を与えると弱ってしまうそうです。もとの環境をそっくりそのまま再現して育てるのは難しく、自生地から持ち去っても枯らしてしまうことになるでしょう。

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  モウセンゴケは日かげが苦手。日当たりのいい地ほどよく育ち、赤く染まります。

 モウセンゴケの育つ湿地の環境も大きく変化しています。農地からの排水や、家庭や工場、発電所などからの汚染水が湿地に流れこみ、大量の窒素を供給しています。窒素の多い湿地になれば、他の低木や草が繁茂しモウセンゴケを覆うようになるでしょう。日光が当たりにくくなり、競争力の高い植物には対抗できなくなります。窒素の乏しい特殊な環境に適応して繁栄してきたモウセンゴケは、その特殊さゆえに環境の変化の影響をもろに受けてしまうのです。

 個体数減少の大きな要因として、湿地や沼地の開発があげられます。湿地は多様な動植物にとっては生育・生息の場となり、水質源を貯えたり、水質を浄化したりするなど人間の暮らしを支えています。でも、人はしばしば湿地を不用の地とみなし、水を抜いたり、埋め立てたり、何か別の用途に使ったりすべき場所と考えてしまうようです。湿地がこのまま減少を続ければ、湿地に特化して生きてきたモウセンゴケは、いのちをつなぐことができないでしょう。

 ダーウィンを魅了したモウセンゴケは、これから育つ子どもたちの興味や関心をひきおこし、いのちの持つ不思議さを感じさせてくれるはずです。不思議な進化をとげてきた、モウセンゴケという食虫植物が、かつてこの地上に存在していたということにはならないようにと願うばかりです。(千)

◇昨年7月の「季節のたより」紹介の草花 

門真さんを追いかけつづけ(2)

 門真さんは、1年間(1981年度)だけ仙台市職員組合執行委員長に就いたことがある。非専従だったから、木町通小勤務のままであった。サークルもそのままつづいた。
 門真さん自身からサークル・その他の場で「執行委員長になった」と聞いた記憶はない。私たちの方から問いかけた記憶もない。私は他から耳にした時、(この時期、仙教組には門真さんしかいないんだろうなあ)と思ったことは今も残っている。そして、組織を憂いた門真さんは断り切れなかったんだろうと思ったことも・・・。   
 たとえ、門真さんに受けたわけを聞いても答えることをためらい、「それはいいから、サークルやろう」と言われることは予測できた。それが門真さんなのだ。1年で解かれることができたので私はホッとしたが、もちろん、門真さんだって同じだったろう。

 教科研国語部会の研究者たちは、50年代以降、奥田靖雄さんを中心に、私たちの前に次々とその仕事の成果をつきつけた。『国語教育の理論』『文法教育 その内容と方法』『語彙教育 その内容と方法』などである。  
 私(たち)は、それを読むことなくこれからの仕事はできないと思い、繰り返し読んだものだった。
 研究者の仕事は止まることなく国語教育関係書が出しつづけられた。それと並行して、1965年5月には、季刊雑誌『教育国語』第1号が発刊。その原稿の充実した内容は目次を見ただけで、その内容の濃さに圧倒され、無知な私も、なんとかページをめくることをつづけた。
 その創刊号の目次をいくつかあげてみる。「文學と真実」(阿部知二)、「文学作品の登場人物について」(奥田靖雄)、「読み方指導における授業過程」(宮崎典男)、「形象の読みということ」(篠崎五六)、「かな文字指導の方法」(上村幸雄)、「語い指導の授業記録」(鈴木康之)などなどだった。

 この『教育国語』誌96号(1989年3月)の巻頭に門真さんの文が初めて掲載された。宮城の原稿は常連の宮崎先生をのぞいて初めてである。創刊から24年経っていたが、私はとても誇らかに思った。
 次はその原稿の最初の部分になる。
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文学作品の読みと文法
  ――論文に学んで――     門真 隆
                       
 私は最近、「文」に関する六つの論文に出会った。
 「手ぶくろを買いに」をやる中で、『条件づけを表現するつきそい・あわせ文--その体系性をめぐってーー』と『接続詞』、
 「ヒロシマのうた」を考えるとき、『モダリティ のだ、のである、のです』と『使役構造の文』、
 「ごんぎつね」「井戸」を検討する中で、『たずねる文』と『やりもらい構造の文』、
である。

 前の二つは、論文がむこうからやってきて、読みにおける文法の大切さと論文のすばらしさに目を開かせてくれたという感じである。後の四つは、そんな私が論文をさがし、その力をかりながら、それまで私がかかえていた読みの問題をつきあわせてみたものである。
 「論文、論文・・」といいながら、関係ありそうなところをかじったにすぎないし、自分の力に見合ってしかわからないと言われるように、かじったところさえ正しいかどうか、わからない。でも、その中でたくさんのことをわからせてもらって、何か " 感動した “ としか言いようのない思いでいる。以下はその記録である。

一、条件づけを表現するつきそい・あわせ文
   契機的なつきそい・あわせ文ー-「すると」

(1)『手ぶくろを買いに』の中には、条件づけのあわせ文がおおい
 新しく教科書に入るということで、この作品をサークルでとりあげたときのことである。一つのセンテンスが長いとか、複雑なあわせ文がおおいとか、話題になりだした。わたしたちの目が、おくればせながら、形態論から文論の方にも広がったということだったのだろうが、「するので」という形のあわせ文が多いということが指摘された。たしかに多い。

 ・その雪の上からお日様がきらきらとてらしていたので、雪はまぶしいほど反し
  ゃしていたのです。
 ・雪を知らなかった子どものきつねは、あまり強い反しゃを受けたので、目に何
  かささったと思ったのでした。
 ・ぼうし屋さんはそれを人さし指にのっけてかち合わせてみると、チンチンとよ
  い音がしましたので、これは木の葉じゃない、ほんとのお金だと思いましたの
  で、たなから子ども用の手ぶくろを・・・
 ・月が出たので、きつねの毛なみが銀色に光り……

など、短い作品の中に10例もあった。3番目にあげたものなど、一つの文に2回もつかわれている。
「ので」のほか、
 ・かわいいぼうやのおててにしもやけができてはかわいそうだから・・・
  毛糸の手ぶくろお買ってやろうと・・・
 ・雪にさわるとすぐあたたかくなるもんだよ。
など、「するから」「すると」の形もあった。この時ふと、「するので」と「するから」はどう違うのだろう。同じようなものじゃないか。「するので」と「すると」は少しちがうようだが、どうちがうのだろうと思ったことが、結果的には私を論文を読むことと結びつけてくれた。
 「するので」について何か書いてあるものはないかとさがしていくなかで――私は力においても姿勢においても、そんなところにいた――「条件付けを表現するつきそい・あわせ文」にぶつかった。言語学研究会・構文論グループの方々のものと奥田靖雄先生の「―—その体系性をめぐって――」と二つであった。「するので」と「するから」のちがいをしらべるのなら、体系的に考えてあるのがいいだろうなどとまことにいいかげんな、虎の巻でもみるような読み方だった。
 それまで、「するので」も「するから」も、「すれば」も「するなら」も、さらには「すると」や「したら」さえも、同じあるいは似たようなものと思っていた。(後略)
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 読んで私は、本当に門真さんらしい、いや、門真さんしか書けない学びの原稿だと思った。サークルの教材研究では話してもらうことはあったが、門真さんは、決して他を押しのけて自分から多くをしゃべらなかったことを考えると、「論文に学んで」とサブタイトルを付さないでおれないところなど、いかにも門真さんらしいと言えると思った。それゆえになおさら、この「文学作品の読みと文法」は、私のなかでは今になるも門真さんを考えるとき、浮かんでくる報告のひとつになっている。ーつづくー( 春 )

今度の週末は、児美川さんの講演会!

 Youtubeでのライブ配信もします!

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 すでにホームページやdiaryでお知らせしていますが、今週末の7月3日(土)は、法政大学の児美川孝一郎さんをお招きしての教育講演会「GIGAスクール構想と子どもが主役の教育」を行います。

 学校現場からは、タブレットは来たけど、アルファベットも習っていない低学年の子たちは、IDやパスワードを入れるだけで1時間終わってしまうとか、タブレットを使おうとすると固まって動かないとか、すでに子どもが壊してしまったが修理とかどうなるのという問題など、学校現場の状況や意向などはお構いなしに一斉に導入してしまったことで多くの戸惑いや混乱を招いているようです。
 その一方で、職場にパソコンのつよい先生がいたりするところでは、徐々にいろいろな使い方や取り組みも始まっているようですが、そのことによる問題や課題なども出てきてもいるようです。全体的としては、まだまだ始まったばかりで試行錯誤の段階というところでしょうか。

 このような日々の忙しさのなかで見落とされがちなのが、そもそもタブレットの導入などを推し進める「GIGAスクール構想」とは如何に?ということです。どんな背景のもとに、どんな学校や教育を目指して、これらの構想や教育が推し進められようとしているのでしょうか。

 講師の児美川さんには、これからの教育のあり方と課題にについても大いに語っていただこうと思っています。今回は遠方の方も、またコロナで会場に行くのはちょっとという方も、Youtubeでのライブ配信 も行いますので、ぜひご参加ください。

 【YouTubeでの配信視聴】
   視聴するには以下のURL、またはQRコードから
       https://youtu.be/vf2OJBlP4ww

1年間の取り組みが、『研究年報 創刊号』として結実!

 コロナ禍のこの1年は、思うように活動ができない歯がゆい1年でしたが、決して手をこまねいていただけではありません。

 突然のコロナによる一斉休校、そして約2か月遅れでの学校再開。この事態に研究センターとして「何ができるか、何をすべきか」を議論し、まずは学校の教職員・県民の声を聴こうと「アンケート調査」を開始、2度にわたるアンケート調査を行いました。調査結果は、その都度報告してきましたが、これらの活動を中心的に担ったのは、数見代表を先頭に、この調査のなかで立ち上げた「研究部」のみなさんでした。

 また調査活動を通じて見えてきたのは、ややもすると子どもたちが「管理」と「しつけ」の対象になっている姿でした。それはまた私たちに教育の課題として、「コロナと主体的に向き合う子どもを育む」ことの重要性を示唆するものでもありました。今年に入ってからはその授業プランづくりと、鳴瀬桜華小の先生たちの力を借りながら授業実践にも取り組んできました。

 これらの取り組みを、今回『研究年報 創刊号』としてまとめ発行することにしました。さまざまな形で参加・協力いただいたみなさんに感謝いたします。
 研究年報には、調査活動の最終的な報告とそれらをもとにした論稿。コロナと向き合う授業実践プランと授業記録、さらには「つうしん」でお伝えしてきた主要な論稿なども改めて掲載しました。

 日々子どもたちと向き合い授業づくりに取り組んでいる先生方はもちろん、多くのみなさんに読んでいただき活用いただければと思っています。
 ご希望の方は、【こちら】 から研究センターまでご連絡ください。        

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センターに寄せられた「読者の声」

 つうしん会員の皆さんのもとには、最新号の103号が届いたでしょうか。
 前号(102号)より、皆さんからの感想や意見、近況、日ごろ思っていることなどをお寄せいただきたいと返信用はがきをお送りしています。センターと皆さん、そして会員同士の交流をより一層つくっていきたいと思います。

 お寄せいただいたものを最新号の103号に載せましたが、すべてを掲載することはページ数の関係などでできませんでした。申し訳ありません。
 つうしんに掲載することのできなかったものを中心に、ここで紹介したいと思います。前号(102号)は、「3・11から10年」という内容のため、そのことに関わっての感想や思い、近況が多く寄せられました。ありがとうございました。

 ※ 最新号の「つうしん103号」にも返信ハガキが入ってます。みなさんの声を
  お聞かせください

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★3.11震災から10年目ですが、原発について報道番組で久しぶりに取り上げていました。今後も続く課題で、考えていかなければならないと思います。原発のゴミの課題は、まだ解決策を見つけられないままです。原発を再稼働させることは間違っていると思います。将来の子孫に借金を背負わせることになります。原発政策の転換を熱望してます。今後とも原発関係の報道・本・資料を注意深く見ていきたいです。(小出信也さん)

★3.11特集がコロナ禍の中で取り組まれたことに世紀末を感じます。この資本主義の社会が行き着いた「新自由主義」の政治形態の中で、あらゆる面で人々が苦難に直面している感じです。私たちは、自然環境としては海洋プレートの境界に位置する火山列島の上に生き、経済政治的には大国の植民地的な立場にあります。この日本という島国に生きる私たちが、この時代をどう生きていくのか、試されている気がします。(田村蒸治さん)

★3.11後の防災学習のあり方について歴教協石巻支部でも話題になっています。その点でも数見先生の提言は、具体的で分かりやすく学習計画立案にも役立ちそうです。
 加藤先生の「はしりもの・かわりだね」のすすめは、私の現職の頃から科教協の方々の実践があったと記憶しています。過去のことの紹介もほしかったです。
                             (齋藤俊子さん)

放射能に汚染された稲わらの焼却が行われている状況は?と思うのですが、行政は止めよう・・・としません。また再生エネルギーの対策を進めようとすると大型の風力施設を導入する・・・、環境などを考慮しない方策が取られようとしています。コロナ禍に乗じて、権力(国・県)は、強いゴリ押しで・・・解決しようとしています・・・。何かとストレスが充満してしまう毎日の生活になっています。
                             (高橋利昭さん)

★太田先生の「災厄時代の十年に想う」、数見先生の「提言」を身につまされる思いで読みました。「地球自然と人間の生活とのつながりを考え、そこから全体性崩壊に立ち向かう行動力を育てること」「問題を自らの生命と生き方に結びつける」我が身に、生活に結びつける。「地域に根ざす学校」でなければと思います。
 どうすべきか、その後の表題の通りです。「目の前の子どもからスタート」。「皆で語り、一緒に進む」そこから地道に子供たちと共に、地域社会と協働で創り上げなければと思います。
 読者・同人との対話を求めようとする葉書、いろんな実践例を吸収し更に深め発展するきっかけになると思います。更なる学びの場となります。
                             (大沼俊幸さん)

★10年前に教師を辞めてから、それまでに読んでいなかった本を改めて読み直しています。不思議なことですが、これまでよく分からなかった同じ文章が、何となく理解できる、読めるようになってきました。太田先生の哲学単行本もそのように読み直しました。(岡崎正治さん)

季節のたより78 ウリノキ

  人知れず 葉かげに咲く花 花の簪(かんざし)

 樹木のなかには花がきれいなので庭や公園に植えられたり、建築材や生活用具、薪炭などに利用されたりして、人と深いかかわりをもつものが多くあります。しかし、特に人の役に立つわけでもないので雑木として片付けられてしまう樹木も数多くあって、ウリノキもそのひとつかもしれません。でも、森や林を歩いていて、初めてこの花に出会うと、誰もが思わず立ち止まって、これは何だろうと思うようです。カールした白い花びらに黄色いおしべ。小型でシンプルな造型でありながら、ウリノキの花は、どこか工芸職人が作る花の簪(かんざし)を思わせます。

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           花かんざしを思わせるウリノキの花

 ウリノキはミズキ科ウリノキ属に分類される落葉低木で、北海道〜九州の山地の林内に普通に見られる木です。一般にあまりなじみがないのは、人が利用しない木というのもありますが、自然の散策路からはずれた暗い林内に生えていて、花の時期も6月から7月の梅雨どきに重なり、しかも小さい花が大きい葉のかげにかくれて咲くこともあるのでしょう。

 ウリノキというと、カキノキ(柿の木)、クリノキ(栗の木)のように、ウリの実がなるのかと誤解されますが、そうではなく、大きな葉の形がウリの葉によく似ているので、そう呼んでいるようです。ウリだけでなくウリ科の植物、例えば、野菜のキュウリや外来植物のオオアレチウリの葉の形にも似ています。ウリノキと名づけた人は、小さな花の形よりも大きな葉が印象深く感じられたのでしょう。

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     ウリノキの葉         キュウリの葉     オオアレチウリの葉   

 樹木の葉にもウリノキの葉と似ているものがあります。ウリハダカエデ(カエデ科)やアカメガシワトウダイグサ科)の葉がそうです。 
 ウリハダカエデは、若い木の樹皮がウリの果実の縞模様に似ているのでその名があります。若い葉が成長して大人の葉になり紅葉するまで、ウリノキの葉とそっくりです。

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    ウリハダカエデの若葉         ウリハダカエデの紅葉

 アカメガシワの名は、新芽が美しい紅色をしていて、その葉が柏餅をつくる柏の葉の代用とされたことによります。アカメガシワにはウリノキの葉に似ている葉と、葉の周りが角のない葉の2種類の葉があるようです。

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     アカメガシワの新芽        アカメガシワの黄葉(落ち葉)  

形の似ている3種の葉を並べて比べてみました。

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       ウリノキ     ウリハダカエデ     アカメガシワ

 ウリノキの葉は、他の2つの葉よりかなり大きく、触るとヒラヒラと薄く感じます。ウリハダカエデとアカメガシワの葉は、どちらもゴワゴワして厚く丈夫です。この違いはどこからきているのでしょうか。

 ウリハダカエデは山間の開けた斜面や谷筋に多く見られ、比較的日当たりの良い場所に生えています。アカメガシワも川岸やガケくずれのあった攪乱された環境の、日の当たる明るい場所にいちはやく芽生えます。アカメガシワは生育に光を必要とする典型的な陽樹といわれています。
 一方、ウリノキは谷沿いの沢筋や林縁などの暗い場所に生育していて、日かげの環境でも育つことのできる木です。このような木を陰樹といいます。

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       スギ林の中のウリノキ。大きな葉で木漏れ日を受け止めます。      

 葉の最も大事な役目は、日の光を受け光合成をして養分をつくることです。
 日当たりのよい環境に育つウリハダカエデやアカメガシワの葉は、光の量が多く、葉の裏側まで届くので、葉を厚くして光合成の効率を高めているのでしょう。
一方、日かげに育つ樹木は、光が弱いので葉の表側に吸収されて裏側には届きません。ウリノキは葉を厚くする代わりに薄く広がる大きな葉にし、光合成の効率をあげているようです。樹木の葉の厚さ薄さや大きさの違いは生育環境に影響しているようです
 光合成に必要な葉の面積は広い方がいいわけですが、日かげに育つウリノキのように葉が薄いとすぐにちぎれたり、虫に食べられたりしてしまいます。日当たりのいい環境で育つホオノキやトチノキのような大きい葉は、台風などにあうとぼろぼろに破けてしまいます。葉の厚さや大きさをどうするか、風を逃がすためにカエデやモミジのように形を変えたり、ヤマウルシやサンショウのように羽状複葉にしたり、植物たちの試行錯誤が続いたはずです。いまある葉の形は、それぞれの植物が自らの生育環境にあわせて、どうしたら効率よく光合成ができるのか、長い時間をかけて生み出されたものなのでしょう。

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    ウリノキの大きい葉は、小さい花を雨風から守る役割もしているようです。

 ウリノキの花期は5~6月です。花期が近づくと、大きな葉のつけねに緑色の細長い3cmほどのつぼみができます。
 緑のつぼみはしだいに乳白色をおびて、ホワイトチョコレートをまぶしたお菓子のようになります。やがてつぼみの先端が割れて、花びらがくるくると巻き上がり、黄色いリボンのようなおしべが出てきます。おしべの真ん中に一本、長く伸びた白いものが、めしべです。

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           大きな葉の下に伸び出したつぼみ          

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  緑から乳白色へ変化    巻き上がる花びら     ウリノキの花姿

 図鑑を開くと、ウリノキは「花弁は6個あり、外側にくるりと巻き込み、雄しべの黄色い葯が目立つ」(山渓ポケット図鑑1)とあります。カールした花弁(花びら)を数えてみると、花によって3個だったり5個だったりで、花びらは裂けやすい所から裂けて巻き上がるようです。2枚になるはずの花びらが、裂けずにひとつの花びらになっていたりして、図鑑どおりのきれいな数のものは見つかりません。
 おしべの数も数えると、6本から8本が多く、なかには10本のもあって、花によって数が違います。ウリノキの花は意外に細部にこだわらない花のようです。

 開いたばかりの花はかすかにいい香りがします。花にハナバチが飛んできました。黄色いリボンにしがみつき、カールした花びらの奥にある蜜のありかを探しています。羽をふるわせおしべにしがみつくと、黄色い花粉が体につきました。
 ハナバチたちは花から花へとせわしく飛び回っています。順番に花をめぐるもの。派手に旋回し目立つ花だけ追うもの。ひとつの花で鉢合わせした2匹が派手な喧嘩を始めたかと思うと、散った花の蜜腺近くで粘るハチもいました。ハチの蜜集め行動は一様ではなく、見ていてあきません。
 不思議なのは、同じ花にハチが何度もやってくること。花は蜜を一度に出さずに小出しに分泌し、何度もハチを誘って受粉のチャンスを多くしているのでしょうか。

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  おしべにしがみつくハチ   蜜を探しおしべにもぐるハチ     蜜はあるの?

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  役目を終えた花      散って崩れた花    緑の果実は、熟すと藍色に

 花は葉が変形したもので、その役目は受粉して種子を作ることです。虫媒花といわれる花は、昆虫の好みに合わせて花の形、色、香りや蜜のありかを多様に変化させ、昆虫もまた蜜を得られるよう花にあわせて体を変えて共進化してきました。
 花の立場になるなら、花は多くの種類の昆虫を呼び寄せる花の形にするか、特定の昆虫に限って特殊な花の形にするか、その中間あたりにするか、知恵を働かせたことでしょう。その結果がいまある花の形です。
 ウリノキのようにカールした花びらの花を探すと、身近のところでトマトの花がありました。ユリの仲間やカタクリ、ホツツジの花もそうです。これらの花は、蜜をカールした花びらの奥に隠し、その蜜を得ようとするチョウやハチがおしべにつかまりもがくときに、花粉をつけて運んでもらうしかけになっています。

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      トマト     タカサゴユリ      カタクリ     ホツツジ

 植物たちの葉の形も花の形も実にさまざま。その多様なデザインは植物たちがこの地上で生きぬくために長い時間かけて進化させてきたものです。
 地上に植物が現れたのは今からおよそ4億2千万年前のこと。この間には、大気や水、気温、地形や土壌、生態系などの自然環境がどれだけ大きく変動したことでしょう。そのたびにたくさんの植物の種類ができ、生き残れたものだけが残ったのです。花や葉のそれぞれの独特の形は、地球の変動の歴史を生きぬいてきて、今日まで受け継がれてきたものです。

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   暗がりに浮かぶ白い花   美しい花の造形は、約4億年かけて生み出されたもの

 直接暮らしの役には立たないウリノキですが、その大きな葉と美しい花の造形を見ていると、時間をかけた自然の手仕事を見ているような気持ちになってきます。(千)

◇昨年6月の「季節のたより」紹介の草花

講演会・開催! 教育改革(GIGAスクール構想など)を問う 

【教育講演会】YouTubeでのライブ配信もします。
 GIGAスクール構想と子どもが主役の教育
   講師 児美川孝一郎 さん(法政大学教授)  ※ 参加費 無料

  ◆日 時:2021年7月3日(土)13:30~16:00
  ◆場 所:フォレスト仙台2F  第1・2会議室  
   (仙台市青葉区柏木1-2-45 地下鉄北四番丁下車、徒歩7分

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 コロナ禍に便乗して、これ幸いと子どもたちに一人1台のタブレットが小・中学校に一斉に導入されました。国も文科省もゆくゆくは、導入を考えていたことだと思いますが、それが一気になんの抵抗も、条件も整わない中で学校現場に入ってきました。

 今年3月の年度末、多くの学校現場から聞こえてきたのは、子どもたち一人ひとりのアカウントを設定したり、狭い教室の中にタブレットの保管場所を作ったりと、戸惑いと困惑の中で準備に追われる先生たちの声でした。私は、教育行政は入れてしまえばこっちのもの、 ❝ あとは野となれ山となれ ❞ と学校現場に丸投げで、 できるもできないも学校現場の責任ということになるのではないかと危惧します。教育行政というのは、ある意味では大変お気楽なものです。

 そんな心配をしつつ、一人1台タブレットが入って、これからの学校、教育はどうなっていくのでしょう。「GIGAスクール構想」「令和の日本型学校教育」「個別最適化」など、さまざまな言葉が氾濫していますが、それがどのようなものなのか、どういう教育を目指しているのか、よくわからないままです。
 一体何が、どう変えられようとしているのか。未来は、子どもたちを幸せにするのか。参加者のみなさんと、一緒に考え合いたいと思います。

YouTubeでの配信視聴】
 視聴するには以下のURL、またはQRコードから
     https://youtu.be/vf2OJBlP4ww 

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