mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより43 ナンテン

 難を転じる薬用の葉や実 紅葉する常緑樹

 小雪のなか、ナンテンが赤い実をたわわにつけて、冬の庭を彩っています。
 校庭に雪が降ると、このナンテンで、低学年のこどもたちと雪ウサギを作って遊んだことを思い出します。新雪をそっと両手でかき集め、雪かたまりを作り、目には赤い実を、耳にはナンテンの葉をつけてできあがり。大小のたくさんの雪ウサギがこどもたちの手から生まれて、思い思いの場所で遊んでいるようでした。 f:id:mkbkc:20200109160654j:plain
      小雪ふるなか ナンテンの赤い実が鮮やかです。

  ナンテンは、メギ科ナンテン属の常緑低木で、呼び名の音が「難転」と同じで、「難を転ずる」に通じる縁起のよい木として、古くから日本の民家の垣根や庭などに植えられてきました。赤い実は、お正月の門松やしめ縄飾りにもよく使われます。

 ナンテンは、本州中部以西の温暖な林野に、野生のものが生えていますが、それらは、自生のものか、栽培種の種が運ばれ育ったものかは、不明のようです。
 漢字では「南天」と書きますが、もともとは日本にはなかった木でした。中国原産ともいわれ、漢名が「南天燭」「南天竹」「南天竺」で、それが省略されて「南天」となったといわれています。
 我が国で、最初にナンテンの記録が見られるのは、鎌倉時代の初期に書かれた藤原定家の「明月記」とのこと。調べてみると、寛喜二年(1230)の6月22日の日記に「中宮の役人が南天竺を選んで庭に植える」といった内容が書かれていました。すでに庭木として植栽されていたようです。ナンテン平安時代に日本に入り、鎌倉・室町時代を通じて縁起木として人気を集めていたと思われます。

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    今でもナンテンの木は、家の玄関や庭先に植えられています。

 江戸時代の百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』の「南天燭」の項で、「これを庭に植えて火災を防ぐ。大へん効験がある。」といっています。火事の多い江戸のこと、ナンテンは防火用としても人気があったのでしょう。その後、「難を転じる」に「魔除け」の意味も加わって、どこの家でも、生け垣や玄関口、手水鉢や厠などに植栽されていったようです。こうした習俗は今も日本の各地に残っています。もし、古い民家の庭先で大きな南天の木を見かけたら、それは江戸時代から今日まで人の暮らしをみつめ見守ってきた長寿の老木かもしれません。

 ナンテンは、6月の梅雨の頃に、小さく白い花をいっぱい咲かせます。赤い実に目にとめる人があっても、花に心をよせる人は少ないかもしれませんが、白い花を散りばめたような円錐形の花穂の集まりが、あたりをほの明るく照らしている様子は心惹かれるものです。

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  円錐状に花を咲かせるナンテン      つぼみと開いた花のようす

 ナンテンは、花が咲いても、白い花びらはすぐに散ってしまい、きれいな形の花は、なかなか見ることができません。花びらは6枚に見えますが、正確には花びらが3枚、ガクが3枚です。花びらもガクも同じような形で区別がつきません。このような特徴の花は、チューリップなどのユリ科植物に見られますが、樹木では「ありふれた庭木だが、植物学的に珍しい」(「花おりおり」・湯浅浩史)のだそうです。

 ナンテンの葉は、小葉が鳥の羽のように並んでいる羽状複葉といわれる葉です。枝先に集まってつきます。葉の集まりの中から、一つの葉柄をとってよく見ると、小さな葉がデザインされたように美しく、日の光も十分に受けとめられるように並んでいます。自然の造形は、すっきりしていてむだがありません。

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  光があたるように広がる葉      三回奇数羽状複葉といわれる美しい葉

 ナンテンは常緑樹ですが、冬に紅葉する葉が見られます。寒くても半日かげで風の当たらない場所の葉は緑のままですが、直射日光や寒風にさらされる葉は、茶色や赤色に変色しています。もっと環境が厳しくなると、モミジやカエデに負けないほど真っ赤に紅葉していきます。
ナンテンの葉は紅葉しても、落葉はしません。落葉樹のように枝から葉を落とす離層を作らないのです。そのまま冬を越して、暖かくなると緑に復活していきます。ナンテンの紅葉は、冬の寒さにじっと耐えて、春待つ姿でもあるのです。

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     冬、寒風にさらされると 葉も紅葉して赤くなります。

 こどもの頃、祝い事でお赤飯を近所に配るとき、重箱にお赤飯を入れたその上に必ずナンテンの葉がのっていました。
 ナンテンの葉にはナンジニンという成分が含まれていて、熱いお赤飯の上に乗せると、その成分が微量のチアン水素を発生させます。チアン水素は猛毒ですが、含有量はわずかだと危険性はなく、殺菌効果があることが分かってきています。
 昔の人は、ナンテンの葉には “ 食べ物を腐敗させない何かがある ” と経験的に感じて、それを利用していたのです。

 ナンテンの赤い実も、古くから咳止めの薬として使われていました。完熟した実を天日干しで乾燥させた「南天実(なんてんじつ)」という生薬は、今は医薬品の有効成分として認められ、咳やのどの炎症をおさえる「南天のど飴」の原料となっています。

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  雨にぬれた、ナンテンの実      綿帽子をかぶった ナンテンの実

 ナンテンの葉を防腐用にしたり、実を煎じて咳止めの薬にしたり、昔の人は薬用成分など全く知らなかったはずなのに、先人の知恵はすごいものです。

 ナンテンの実は、人間が利用するだけでなく、冬の野鳥たちの貴重な食べ物にもなっています。よく見られるのはヒヨドリですが、越冬のために日本にやってくるツグミジョウビタキなどの冬鳥も群がって食べにきます。でも、弱毒を含んでいるので、食べ続けないで少し食べては移動することを繰り返します。ナンテンは、時間をかけて広い範囲に種子を運んでもらうように仕組んでいるようです。

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      雪の白さは、実の赤さを 際立たせます。

 小川未明の作品に、「おじいさんが捨てたら」という童話があります。

 おじいさんが、いつものように手車にくずかごをのせて歩いていると、喫茶店の若いおかみさんに、不用な道具やがらくたを買ってくれと言われます。その中にあったのが、枯れかかった鉢植えの南天の木。「どうせその木はだめなんですから、どこかへ捨てて鉢だけ持っていってくださいな。」と笑っていうのです。おじいさんは持ち帰りますが、誰もがこの木は助からないと言うのです。

 「子供を育てると同じようなもので、草でも木でも丹精ひとつだ。」
 こう、おじいさんは、いったのでした。それから、おじいさんは、朝起きて、出かける前に、鉢を日あたりに出してやりました。また帰れば店さきにいれてやり、そしてときどきは雨にあわせてやるというふうに手をかけましたから、枯れかかった南天もすこしずつ精がついて、新しい芽をだしました。新しい芽は、また子供のように、太陽の光と新鮮な大気の中で元気よく伸びてゆきました。そして夏のころ白い花が咲き、その年の暮れには真っ赤な実が重そうに垂れさがったのであります。(「定本小川未明童話全集10」講談社

 みごとに育った南天を見て、売ってほしいという人がいても、おじいさんは断りますが、ある日、孫の正坊が重い風邪で高熱をだして、夜中に駆けつけてくれたお医者さんに助けられます。そのお医者さんが、南天をたいそうみごととほめたので、おじいさんはお礼にさしあげるのです。そして、そのあとにいうのでした。「あの人なら、だいじょうぶ枯らすことはない。」と。

 命あるものへのやさしいまなざしを感じさせてくれるお話。小さなこどもたちと一緒に読んでみたいものです。なぜ「おじいさんが捨てたら」の題名なのか、考えてみるのもおもしろいかもしれません。

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      おもそうにたれさがる ナンテンの実

 これまで、ナンテンを「木」として紹介してきましたが、ウエブサイトを見ていたら、「ナンテンには年輪がない」「南天は木質化した茎を持つ草」という記事がありました。さて、どうなのでしょうか。ナンテンの謎はまだまだありそうです。
 身近にあるものは、いつでも手にとり観察できますし、一年をとおしてその姿をみつめることができます。ナンテンを「ありふれたもの」と思うと、何も見えてきませんが、じつは、自然の不思議を考える素材をいっぱい見せて、私たちの前に立っているような気がするのです。(千)

◆昨年1月「季節のたより」紹介の草花