mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより33 クサギ

 葉は臭いけれど、花は芳香、実は青い宝石

 8月になると、深緑の葉の上にピンクのつぼみと白い花が目立つクサギの花が咲き出します。クサギは、シソ科の低木で、北海道から沖縄まで分布、日当たりのよい山地に生育します。陽の当たる空き地などでもよく見かけますので、気にしてみれば普通に見られる樹木です。
 花は、甘く、ほのかにジャスミンの花に似たいい香りですが、葉っぱを傷つけたり、枝を折ったりすると臭い匂いが漂います。それで「臭木」と命名されたようです。「くさい」というと悪臭のイメージですが、どちらかというと、ビタミンB剤のような薬品に近い匂いでしょうか。葉の出初めが最も匂いが強いのは、昆虫から食べられないようにしているためでしょう。見かけたら葉っぱの匂いをかいで確かめてみてください。

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      遠くからでもよく目立つ クサギの白い花

  葉の匂いは、ゆでたり、蒸したりすると消えてなくなくなるので、若葉を山菜にしている地方もあるようです。 インターネット版「広島の植物ノート(別冊)」の「くさぎ菜」によると、「クサギの若葉は山菜として古くから食べられている。多くの山菜と異なり、東北地方ではなく、富山県三重県以西の本州、四国、九州(奄美まで)で利用されている。分布の中心が暖温帯にあるからだろう。」と書かれていました。そして、広島県内のある地方の直売所では、クサギの葉をゆでて乾燥させた『くさぎ菜』が販売されていることや、岡山県の吉備中央町では、「くさぎなかけめし」という郷土料理が、道の駅などで食べられることを紹介しています。

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  赤いのはガク。ピンクのつぼみに、白い5枚の花びら。長く伸びる雄しべと雌しべ

 夏、クサギは、甘くいい香りを漂わせながら、次々と白い花を咲かせます。花びらはガクから長く突き出てその先で5つに分かれて開きます。その中心から4本の雄しべが斜め上方に突き出ます。自家受粉を避けるために雄しべが先に熟して花粉を出しますが、雌しべは下向きに垂れて、花柱の先を固く閉じて花粉を受け入れないようにしています。
 4本の雄しべが花粉を出し終わって垂れ下がると、今度は成熟した雌しべが斜め上方に突き出て、柱頭の先端を開き、花粉を受け入れやすくします。長い雄しべと雌しべは、日々その姿を変えて、花の表情を豊かにしているようです。

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   放射状に広がるクサギの花

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  雄しべが成熟した花(上)、雌しべが成熟した花(下)

 昆虫たちは、クサギの花の甘い香りに誘われて集まってきます。でも、どの昆虫も蜜を吸えるわけではありません。花の筒の入り口から蜜腺までの距離が最大2.5cmもあって、とても長いのです。そのため、ストローのような細長い口を持つ大型のチョウ・ガ類でなければ蜜は吸えません。蜜が吸えるのは、カラスアゲハやクロアゲハなどのアゲハチョウの仲間や、ホシホウジャク、オオスカシバなどのスズメガの仲間に限られています。6月にとりあげたホタルブクロがハナバチの仲間だけを選んでいるように(季節のたより30)クサギも蜜をあげる昆虫を選んで、花粉を確実に運んでもらおうとしているのです。

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   横から見た花。蜜線まで筒が長い。      花に集まるアゲハチョウの仲間   

 花のガクは、初めのころは緑色ですが、次第に鮮やかな紅紫色へと変化し、花の後には星状に反り返ったように開きます。その真ん中に、丸く光沢のある青色の実がついて、熟しながら青紫色から黒紫色に変化していきます。赤紫色のガクに包まれた宝石のような実は、遠くからでもよく目立ち、花の時期とは違った美しさで、目を惹きます。

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 最初は、緑色のガク。          実を包み星状に開くガク

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      クサギのガクと実(拡大)

 クサギの実は、古くから青色の草木染の染料として利用されてきました。染料にする植物はいろいろな種類がありますが、青色系統の色が出るものが少なかったようです。クサギの実の煮汁で、媒染材を使わないで布を青く染めることができます。

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  小鳥たちの好物のクサギの実。草木染の青の染料にも利用。

 成熟したクサギの実は、小鳥たちの好物のようで、すぐにジョウビタキメジロなどの鳥たちが食べに集まってきます。種子は遠くに運ばれ糞と共に排出されます。林床が明るくなると、種子は一斉に発芽し、成長していきます。

 クサギは、アカマツアカメガシワなどの樹木とともに、パイオニア植物とよばれています。パイオニアとは、”開拓者”のこと。これらの樹木は、他の樹木がまだ生えていない裸地に真っ先に生えて、文字どおり、新たな森づくりの先頭に立つ植物なのでそう呼ばれるのです。  

 裸地に芽生えたパイオニアの樹木は、強い日射しや乾燥、寒さや強風などの厳しい自然環境にも耐え、少ない栄養分で育ちます。やがて葉を広げ日かげを作り、落とした葉や枝は朽ちて土壌の養分となって、他の植物が育ちやすい環境を作ります。その環境に後からやってきた新しい樹木が大きくなると、パイオニアの樹木は、光を遮られ、勢いを失って、役目を終えるように枯れていきます。
 これらの植物のおかげで、長い年月をかけて何百種類のもの植物が育ち、四季の恵みをもたらす豊かな「森」が生まれるのです。山火事や崩壊などで破壊された森林に真っ先に芽を出し、森を再生してくれるのもパイオニア植物たちのおかげ。クサギもその一翼をになっています。

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         豪華に花をつけるクサギの木

 クサギの葉は、小枝ごと採取して天日乾燥させて、漢方の生薬・臭梧桐として調合されています。沖縄では、乾燥させたクサギ材で、イカ釣りの疑似餌を作るという話を聞きました。
 クサギ(臭木)というと、何だか嫌われ者のように聞こえますが、匂いは植物を見分けるときの重要な要素です。人の目を惹き付ける白い花と赤いガク、宝石のような青紫色の美しい実。そして、何よりも人々の暮らしと深く結びついている樹木であることを思うと、クサギ(臭木)という名前は、誰にでもわかりやすく覚えやすい愛称のように思えてくるのです。(千)

◆昨年8月「季節のたより」紹介の草花