mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより23 コブシ

 北向くつぼみ 雪のような白い花

 野山の雪解けが進み、木々の芽吹きも感じられる季節となりました。里山にコブシの白い花が咲き出すのはもうすぐです。

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 2月の「マンサク」に続いて、早春の息吹を伝える丸山薫の詩を紹介します。
  
    北国の春               丸山 薫

 どうだろう / この沢鳴りの音は
 山々の雪をあつめて / 轟々と谷にあふれて流れくだる
 このすさまじい水音は

 ゆるみかけた雪の下から / 一つ一つ木の枝がはね起きる
 それらは固い芽の珠をつけ / 不敵なむちのように
 人の額を打つ

 やがて 山すその林はうっすらと / 緑いろに色付くだろう
 その中に 早くも / こぶしの白い花もひらくだろう
 朝早く 授業の始めに /  一人の女の子が手をあげた
 一一 先生 つばめがきました

 冬から春へ、自然の胎動が始まる季節。沢鳴りの音が響き、埋もれていた木々の枝は雪をはねかえして起き上がります。固い殻につつまれていた冬芽が次々と開いて、野山は淡い色彩に色づいていきます。その中に早くも、コブシの花も雪の白さをうけつぐかのように咲き出すのです。
 朝一番に教室に響いたのは、「先生 つばめがきました」と手を上げる女の子の声。北国の子どもたちが、ずっと待ち望んでいた春の喜びが伝わってきます。 

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   毛皮のコートのつぼみ。緑の小葉が見えます

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         花ひらいたコブシ。雪のような白さ

 コブシは、里山や奥山に生えるモクレン科の落葉高木です。コブシの花はヤマザクラより半月ほど早く咲き始めるので、農作業を始める目安にされてきました。地方によっては、「田打ち桜」、「田植え桜」、「種まき桜」とも呼ばれています。
 白い花は直径7~10cmほどで、さわやかな芳香を放ちます。ゆったりした枝ぶりで、丸みを帯びた樹形が特徴です。山々の、まだ木々の葉が開かない早春に、枝いっぱいに白い花をつけたコブシの木は、遠くから見ると雪が積ったように見えます。

 宮沢賢治の童話「なめとこ山の熊」には、親子の2匹の熊が山の斜面に月光に光る花を見つけて、小熊は白く光るのは雪だと思いこみ、母熊が「あれはねえ。ひきざくらの花。」と教える場面があります。ひきざくらの花とはコブシの花のこと、賢治の目にもコブシの花は雪のように見えていたのでしょう。夜の月光に光る花とその樹形も目にしていて、その美しさを「月の光が青じろく山の斜面を滑っていた。そこがちょうど銀の鎧のように光っているのだった。」と描写しています。

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       枝いっぱいに白い花を咲かせるコブシの大木

 コブシは、古くから日本では「辛夷(しんい)」という漢字をあて、「こぶし」と読ませていました。この字を調べてみると、中国では「辛夷ピンイン)」と言って、同じモクレン科の「モクレン」を指していました。中国原産のモクレンは、つぼみを乾燥させて生薬として利用されていて、飛鳥・奈良時代頃に漢方の伝来とともに日本に伝わってきたと思われます。それ以来、コブシとモクレンは混同されたままだったようです。

 コブシの学名は「Magnolia Kobus」で、種名の「Kobus」は、日本の在来種である和名の「こぶし」そのままです。コブシには辞書に「拳」という漢字もあって、これは「握りこぶし」を意味し、花のつぼみが人の拳に似ているとか、または、果実が拳に似ているからとかということで、名前の由来にもなっています。

 コブシの花とよく似た花を咲かせる「ハクモクレン」の花は、街路樹に多く植えられています。ハクモクレンはコブシより早くに咲き出します。ハクモクレンは花の下に葉をつけませんが、コブシの花は、花の下に小さな葉が一枚ついています。花を比べると他にも違いがありますが、この葉の違いで見分けるのが分かりやすいかと思います。
 花びらが赤紫色をしているのが「モクレン」の花です。花の色から「シモクレン〈紫木蓮〉」ともいわれ、ハクモクレンより遅れて花を咲かせます。

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 コブシの花(花びら6枚、小葉が1枚つきます)

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        ハクモクレンの花(花びら9枚、小葉はありません)

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 モクレンの花(赤紫色の花で紫木蓮ともいいます)

 栗駒山蔵王連峰には5月の雪解けの頃に、やはりコブシによく似た「タムシバ」の花が咲き出します。花の香りがいいので、別名「ニオイコブシ」ともいわれています。コブシは高木になりますが、タムシバは小高木で、ハクモクレンと同じように花の下に緑の葉をつけないので見分けられます。
 コブシは里山に春を告げる白い花、そしてタムシバは高山に春を告げる白い花といってもいいでしょう。

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   タムシバの花        高山の谷間に咲くタムシバ栗駒山

 コブシは開花する前に、つぼみの先端が一斉に北の方に向いていることがあります。登山者はこれを見て北の方向を示す指標としています。
 同じモクレン科のハクモクレンタムシバも、早春のつぼみが「北向き」になることが多いようです。これは、つぼみが大きく生長する過程で、光をたっぷり浴びる南側が生長が早く、結果としてつぼみの先端が「北向き」になるのだそうです。ヤナギ科のネコヤナギも同じように、花穂の先端が北を向く光景が見られました。他の木のつぼみはどうなのでしょうか。

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        北向きに花を咲かせるハクモクレンの花

 3月は、木々の芽吹きの季節です。冬芽がふくらみ、花芽や若葉が伸び出す姿は新鮮で美しく、見飽きることがありません。野山に出かけなくても、公園や街路樹、校庭などの木々の冬芽も、日に日にふくらみを増し変化しています。
 こどもたちの目をそっとそこに向けさせるだけで、何かを発見し夢中になってくれるのではないでしょうか。これから育つこどもたちが、自然界の小さな命の営みに不思議さや神秘さを感じながら、大人になってくれるといいなあと思います。(千)