mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより21 マンサク

春告げる 折りたたまれたリボン花

 立春がすぎてから急に寒さがもどってきたようです。雑木林の中もまだ目覚めていないように見えたのですが、見上げると枝先の茶色のつぼみから黄色いものがのぞいていました。マンサクの花がひらき始めたようです。

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 マンサクの花を見ると、ふと口ずさむのは、この詩です。

   まんさくの花       丸山薫

 まんさくの花が咲いた と / 子供達が手折って 持ってくる
 まんさくの花は淡黄色の粒々した / 眼にも見分けがたい花だけれど


 まんさくの花が咲いた と / 子供達が手折って 持ってくる
 まんさくの花は点々と滴りに似た / 花としもない花だけれど

 山の風が鳴る疎林の奥から / 寒々とした日暮れの雪をふんで
 まんさくの花が咲いた と /子供達が手折って 持ってくる

 詩人の丸山薫は、大分県大分市の生まれですが、終戦を挟んで1944年(昭和19年)ら1948年(昭和23年)まで山形県西川町に疎開して、そこで国民学校の代用教員をしたことがありました。そのときの北国の子どもたちとの生活を詩にした作品があるのですが、これもその一つです。

 早春、まだ山々に雪が残る頃、寒気に負けず咲き出すマンサクの花は、最初は小さく、誰にも気づかれることはありません。その花を目ざとく見つけたのは、北国の子どもたちでした。嬉しくなって、真っ先に先生に見せてあげようと思ったのでしょう。マンサクの花を受け取った先生も、花には見えない小さな花をよくぞ見つけたものと感心し、山の風が鳴る疎林の奥から、寒々とした日暮れの雪をふんでやってきた子どもたちを思いやるのです。マンサクの開花に心をよせる子どもたちと先生の姿から、あたたかな信頼で結ばれた教室の姿が浮かんでくるようです。
 マンサクはマンサク科の落葉小高木で、本州から四国、九州に分布しています。宮城県では、ブナ帯下部の山林から里山地帯にかけて、ごく普通に見ることができます。花の少ない時期に開花するので、庭木にも植えられますが、庭木はどちらかというと、花の色が鮮やかな園芸種のマンサクが多いようです。

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  庭木に植えられているマンサクの花(交雑種が園芸種と思われます)

 マンサクの名の語源にはいろいろな説があります。春にどの花よりも先がけて咲くので、「先(ま)んず咲く花」が「マンサク」になったという説。花が枝いっぱいに咲くので「満っ咲く花」、またその様子が秋の豊年満作を予想させてくれるので、「満作」となったという説。いずれも北国の人々の、春待つ思いと収穫への願いがこめられた命名です。
 北海道や青森県の一部では、前回とりあげたフクジュソウをマンサクと呼んでいるところがあります。また、北秋田地方では樹木のアブラチャンをマンサクと呼んでいるということ。 草花でも樹木でも、早春に先駆けて「まず咲く花」を、どうも「マンサク」と呼んでいたようです。

 マンサクは漢字で「万作」や「満作」と表記されますが、俳句の季語として「金縷梅」の漢字も使われています。「縷」とは糸や細い紐のようなものという意味です。この時期に咲く「蝋梅」と比べて、4枚の花びらがリボンのような形なので、そう表記しているのでしょう。花の咲く季節か、花の形か、視点のあて方で表記する漢字が違っているのもおもしろいことです。

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  蝋梅(ロウバイ)の花びら      金縷梅(マンサク)の花びら

 マンサクの花のつぼみは、秋の黄葉の頃から準備され、落葉のあとも茶色の表皮につつまれて越冬します。花が咲く間近になってふくらみ、割れて中から黄色い花びらをそっとのぞかせます。つぼみの中にはリボンのような花びらが驚くほど小さく折りたたまれていて、それが伸び出し舞うように広がります。ちょうど羽化したばかりの蝶の羽が伸びていく姿にも似て、命あるものの不思議な美しさに魅せられます。

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    秋にできるつぼみ       折りたたまれた花びら     伸び出す花びら

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          舞うようにひらく マンサクの花びら

 早春に咲く樹木の花は、黄色が多いようです。マンサクのほかにも、キブシ、ロウバイ、アプラチャン、ダンコウバイ、レンギョウなど、みな黄色い花です。早春の雑木林は色彩がなく、黄色がよく目立ちます。この時期に活動するのが、アブやハエの仲間。これらの虫たちは、黄色に敏感に反応して集まってきます。それで黄色い小さな花をたくさんつけて、虫たちを惹きつけ受粉の手助けをさせているのでしょう。

 花が受精したあとにつぼ形の実ができます。その中には2個の大麦ほどの種子が入っていて、成熟して黒くなるまで育てられます。実は動物たちに食べられないよう固い皮につつまれています。秋の晴れたある日、乾燥した実は小さな音を出して裂けます。そのはずみで種子が飛ばされ、遠くまで運ばれるようになっています。

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  葉かげで育つ実      成熟した実       種が弾けたあとの実

 マンサクの木は、高さが5mから8mほどになります。細い木を生のうちにねじって繊維をほぐすと、縄のように使えるので、昔は河川工事用の柵や蛇籠(じゃかご)の材料、背負いかごの骨組みに利用されていました。炭俵や薪を結わえたり、刈った柴などを束ねたりするのにも便利だったようです。

 以前に北陸に行き白川郷を訪れたとき、この地方特有の茅葺き屋根の合掌造りにマンサクの若木が使われていることを初めて知りました。大きな合掌造りの屋敷の最上階に登ると、屋根の茅葺や屋根下地の構造材の組み方がよく見えました。屋根の骨組みはわら縄で結ばれ、一部は細い木の枝で巻かれていました。そこには、「結束材・ねそ」とあり、「マンサクの若木、80年前のもの」との説明がありました。

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      白川郷の合掌造り

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              マンサクの若い枝 

 合掌造りの家屋には、釘やかすがいなどの金物類は使われていません。屋根組みは、基本となる木材を合掌に組んで、頂部をわら縄や「ねそ」と言われるマンサクの細枝で堅く結んで造られています。「ねそ」は、生のうちに巻き付けられたものが時間とともに乾燥して交差部を強く締めつけ、木組みを頑丈にするのだそうです。さらに「結び合わせ」という柔軟な固定法が、強風が来ても屋根全体の揺れにしなやかに対応して倒壊を防いでいるといいます。釘やかすがいではこうはいきません。植物の性格を熟知して見事に活用していた昔の人の知恵は見事です。

 マンサクは春を知らせる早春の花、そして、暮らしの中では、結束の生活用具として重要な役割をはたしていた樹木だったようです。
 私たちは生活の日常用具はほとんど手作りすることなく購入できます。便利さを手に入れることで、人は自然との共生から遠ざかり、自ら工夫し生きる力を失ってきました。マンサクに限らず身近な植物を見事に利用し生きてきた昔の人の知恵にこそ、これからの未来を生き抜くための大切な手がかりがあるように思うのです。(千)