mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

安倍内閣もビックリ?! の 架空文壇内閣

 新しい年を迎えた。元日以来晴れの日がつづいているが、新年になってもいっこうに晴れやかな気分にならない。歳をとったお前はどうでもいいだろうと思われそうだが、そううまくはわりきれない。残された時間がどのくらいだろうが、その時間を気持ちよくすごしたい。それなのに、年がかわったから世の中が明るくなるか。いや、ますます住みにくくなりそうに思うのだ。だれもが安心して暮らせる・笑い合って暮らせる世の中にどうすればなるのだろう・・・。そう、そう願うオレたちが力を合わせるしかないのだ!と思うのだが、ついグチってしまう。
「憂鬱だ」などと言っていても少しも前進はない。

 話は飛躍するが、臼井吉見の古いエッセー集の中にある「架空文壇内閣評判記」に話を切り替える。1952年7月に書かれているものだ。そのエッセーは、

 世はまさに選挙戦たけなわである。文壇では一足先に新内閣の組織にとりかかり、明朝までには組閣を完了するはずであるが、文相に擬せられている永井荷風が行方不明のため浅草方面を捜索中である。内定した顔ぶれは次の通り。

と始まり、この後に文壇内閣の組閣一覧(大臣名・次官名)が載っている。 
 総理大臣以下全員埋まっているが、「行方不明だ」とある永井文相は発表に間にあうだろうか。
 心配(?)になった(いや、おもしろくなった)私は、荷風の「断腸亭日乗」を書棚からとりだした。その中に、次のような日記があった。

 午後浅草公園大都座楽屋。裸体舞踊一時禁止の噂ありしがその後ますます盛にて常盤座ロック座大都座の三座競いてこれを演じつつあり、今日見たる大都座にては日本服着たる女踊りながら赤きしごきを解き長襦袢をぬぐところまで見せる。午前十時開場と共に各座満員の由。燈刻帰宅。

とある。浅草周辺をハイカイしている荷風については誰にも周知のことなので、臼井たちは少しも心配しているはずはない。それよりも、この日記を読んで、読み手の多くの方が、「こんな荷風を文部大臣に選ぶなんて・・・」と、たとえ「架空」であろうとも気になってきたのではあるまいか。
 ご心配なかれ。臼井は、永井文相について、次のように説明している。

 永井文相は荷風勅語などかつぎ出すきづかいもなく、感傷的な漢文復活提唱のおそれもなく、何よりも永井文相の存在自体が、立身出世的人生観を払拭するうえに偉大な効果のあること必定だが、その行先をつきとめたにしても、はたして承諾をえられるかどうか、せっかくの名案も実現があやぶまれている。
 中野次官の起用は全学連対策上からと見られるが、永井文相とはけだし名コンビであろう。

と。(ちなみに「中野次官」とは中野好夫である)。

 なるほど、この文からは、文部大臣の職に荷風を期待した意図がよくわかる。しかし、それでも、(荷風は承諾しないだろうなあ)と私は思った。なにしろ、大臣になったら、浅草に自由に行けなくなるのだろうから・・・。

 でも、大臣要請を断った人をこれまで聞いたことはないから、どんなものか・・・。いや、「架空」とはいえ、荷風が断ったということが後々まで話のタネとして残してもらえば、後世、良心的な辞退者がひとりぐらい出て、人びとの語り草になり、このごろの内閣とはちょっとぐらい違ってきたのではないかと、「架空」に今を重ねる。

 前記「断腸亭日乗」によると、1945年8月15日は谷崎潤一郎亭を訪ねている。
行く途中、「駅ごとに応召の兵卒と見送り人小学校生徒の列をなすを見」ており、「正午ラジオの放送、日米戦争突然停止せし由を公表したりという。あたかも好し、日暮染物屋の婆、鶏肉葡萄酒を持ち来る。休戦の祝宴を張り皆々酔うて寝に就きぬ。」とあり、20日の文は「~~とにかく平和ほどよきはなく戦争ほどおそるべきはなし。」と結んでいる。

 敗戦直後であろうと、「とにかく平和ほどよきはなく戦争ほどおそるべきはなし。」と明記するだけでも文部大臣適格者ではないか。憲法改正を一族の家訓(?)とがんばる総理大臣までいることを考えると・・・。
 「文壇内閣」について書き始めたが、長くなりすぎるので永井荷風文相だけで止めることにする。ちなみに架空文壇内閣の他の顔ぶれは以下のとおりだ。どんな理由で選ばれたのかいろいろ想像してみてはいかがだろうか。なお何人かについては次回で。( 春 )

    架空文壇内閣一覧

     総 理  武者小路実篤
     法 務  志賀直哉(伊藤 整)
     外 務  正宗白鳥小林秀雄
     大 蔵  獅子文六舟橋聖一
     文 部  永井荷風中野好夫
     厚 生  吉屋信子(上林 暁)
     農 林  井伏鱒二坂口安吾
     通 産  宇野浩二河盛好蔵
     運 輸  内田百閒(火野葦平
     郵 政  久保田万太郎(林 房雄)
     労 働  川端康成丹羽文雄
     建 設  大佛次郎石川達三
     国務(経審)吉川英治中野重治
     官房長官 中島謙蔵
     保安庁長官 尾崎士郎
     衆議院議長 青野末吉
     参議院議長 谷崎潤一郎