mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより18 ビワ

寒さに向かって 咲きだす花

 寒さに向かって咲き出す花があります。サザンカ、ツヤブキ、ヤツデなど、数は少ないですが、ビワの花もその一つ。多くの草木が春の暖かさを待って花を咲かせるのに、これらの植物は進化の過程でわざわざ他の植物とは逆の生き方を選んでいます。

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    初冬に花を咲かせるビワ。甘い香りが漂ってきます。

 ビワは秋から冬にかけて花を開き、春から初夏までにじっくりと実を育てる常緑樹です。関東以南、四国、九州などの温暖地に育つ樹木と思っていたのですが、宮城県内の神社や境内、住宅地の庭などに植えられていて、冬に花が咲き、初夏に果実が実るまでの姿を見ることができます。

 ビワの花の蕾は、褐色の毛に包まれていて、下向きにつきます。冷たい雨や冬の雪に冷えないように、花を守っているようです。
 11月頃、毛布にくるまれたビワの花は、寒気の中でそっと顔を出します。花びらは5枚、クリーム色を帯びた白い小さな花がたくさん集まって、体を寄せ合うように咲き出し、12月を盛りに、2月中頃まで少しずつ開花していきます。

 ビワの葉は、濃い緑色で大きく長い楕円形。葉の表面は、初めは毛がありますが、生育するにつれて消え光沢が出てきます。葉の裏面は、淡褐色の毛におおわれていて、手で触るとビロードのようにあたたかです。ビワの葉は、厳しい寒さに耐え、冬の弱い光をしっかりとらえて、光合成するしくみを備えています。

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 長く大きいビワの葉     暖かい毛に包まれた蕾   寄せ集まって咲く花

 ビワの花に顔を寄せると、甘くいい香りがします。こんな寒い時期に花粉を運ぶ虫たちはいるのでしょうか。
 観察してみると、風もやんだ暖かい日には、ミツバチやハナアブたちが、羽音が聞こえるほど集まっていました。昆虫だけでなく、メジロヒヨドリもやってきました。真冬に咲くビワの花は、冬をすごす昆虫や野鳥たちの貴重な蜜源になっています。ビワは花にたっぷりと蜜を蓄え、開花の期間を長くすることで、彼らを呼び寄せ受粉を確実にできるようにしているのです。
 花の蜜を求めて旅をする養蜂家の人たちは、気候の比較的温暖な千葉県南房総のビワ栽培農家をたずねて、養蜂のミツバチをひと冬すごさせ、最良のビワ蜜を集めているということです。

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 冬、大雪に見舞われることもあります。  冬の虫たちの貴重な蜜源です。

 ビワは6月頃に橙色の実をつけます。
 詩人のまど・みちおさんは、「びわ」(作曲 磯部俶)という童謡に、

 びわはやさしい 木の実だから/だっこしあって うれている
 うすい虹ある ろばさんの/お耳みたいな 葉のかげに

と作詞しています。寄せ集まって寒さに耐えて咲いた花が実になると、その実は押し合うようにつきます。その姿を、まどさんは、やさしい木の実だから、だっこし合っているとうたいます。熟れた実を葉かげに守る長く大きい葉は、うすい虹あるろばさんのお耳みたいと、小さな子どもにぴったりの感覚で表現しています。
 この童謡を口にすると自然とやさしい気持ちになれるのは、小さな子も大人も変わりがないようです。童謡(詩)の不思議な力を感じるのです。

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 青い実は、ゆっくりと大きくなります。 実りの季節、だっこし合うビワの実

 ビワの実は、初夏の到来を告げる旬のもの。ほどよい酸味と甘味で、のどをうるおす好適な果物ですが、果肉のわりあいが少なく種がでかいのです。その種を見て、まどさんは、「ビワのたね」と言う詩もつくっています。

 てのひらに つまみだされても/まだ よりそって 眠りこけている
 クマの子の兄弟たちのように/まるまる ふとって

 ビワの実を食べたことのある人は思わずうなずくのでは。橙色の果肉から飛び出したでかいセピア色の種の存在感が、何ともユーモラスに表現されています。

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   住宅地の庭で実をつけたビワの実。寒冷地でも-10℃程度まで結実します。

 初夏の旬の果物であるビワの実は、季節が短く傷みやすいので、お店では高級品あつかいになっているようです。
 仙台市の自校給食校に在職していたときに、栄養士さんの粋なはからいで、給食の果物にビワがついたときがありました。
 子どもたちは見慣れない果物にびっくり、ビワの実を初めて口にした子もいました。この時に、ビワの花は寒い冬に花を咲かせて、冬から初夏にかけてじっくりと実を大きくしていくことを話しました。花は春に咲くものと思いこんでいた子どもたちには新鮮な発見だったようです。
 リンゴでもブドウでもふだん口にする果物や食べ物が、どんなふうに花を咲かせ実を実らせて、ここに届いているかに思いをはせること、それは私たちが自然からの恵みをうけて、今生きているということを感じとることにつながるのではないかと思うのです。        
 最後に、懐かしいと感じる方はおられるでしょうか。「花ごよみ」の一節です。

 北風寒き やぶかげに
   びわの花咲く 年の暮れ ・・・  尋常小学校唱歌  (千)