mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより17 ツクバネ

 4枚の羽根をもつ 回転する木の実

 木の葉を落とした雑木林は、冬の陽が低く射し込んでいました。山道を歩くと頭上でキラリと光ったものがあります。近寄ってみると、崖の斜面に高さ2m程の低木が生えていて、その枝にツクバネの実がゆれていました。4枚の羽根をもつ実は、ふだん茶褐色で目立たないのに、斜光に照らされて金色に光っていたのです。

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      初冬 小雪の中で、木枯らしを待つツクバネの実

 ツクバネの魅力はなんといってもその実の形でしょう。枝から離れ落ちるとき、まるでプロペラのようにクルクル回転します。その回転の美しいこと。モミジやカエデの実も2枚の羽根を持ち同じように回転しますが、ツクバネは、実の上部に4枚の羽をもつ凝ったつくりをしています。自然がつくりだす造形のみごとさに驚かされます。
 低学年の担任のとき、子どもたちに見せると、「羽子板の羽根にそっくり!」とびっくり、それから興味津々、どうしても自分で見つけたいと、母親を誘って雑木林に探しに出かけた子もいました。

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 ツクバネの若い実     しだいに茶褐色に変化   熟したツクバネの実 

 名前の由来を調べると、正月の羽子板あそびの羽根に似ているからとのこと。羽根突きの風習は室町時代に始まり、その羽根はムクロジの木の黒い実に鳥の羽をつけて作られました。その羽根に似るのでツクバネ(衝羽根・突羽根)らしいのです。でも、羽根の形は人間が考えだすより自然の造形の方が最初なのではないでしょうか。真似たのは人間なのでは。命名室町時代以降だとすると、以前は何とよばれていたのでしょう。このみごとな造形の木の実は古代の人にも目についたはず、でもその記録は今のところ不明です。

 ツクバネはビャクダン科のツクバネ属の植物で、本州、四国、九州(北部)に分布します。その特徴は雌雄異株で半寄生植物であることです。普通の低木と変わりなく緑の葉で光合成をしますが、他の樹木に寄生根を入りこませて水と栄養分をもらうという生き方をしています。

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  早春の芽吹き      雄花 とても小さい   雌花 4枚の羽根をもつ 

 初夏の頃に花が咲きます。雄花は、雄株の枝先に数個つきます。淡緑色で花径は5mmほど、小さくて全く目立ちません。雌花は、雌株の枝先に一個だけついて、花は小さいのですが、苞とよばれる長さ3cmほどの羽根が4枚ついています。目立たない花どうし、受粉は難しくないのでしょうか。秋にはたくさん実ができるので、花粉の運び屋がいるのは確かですが、まだ見たことがありません。

 秋になり実が大きくなります。実は葉と同じ緑色、上手にカモフラージュしていて、近くを人が通っても気づかれません。実が熟すと茶褐色になり目につくようになります。ツクバネの葉が黄葉して散ったあとも、その実は枝に遅くまで残ります。細い枝にツクバネの実がゆれる姿は、初冬の雑木林の風物詩です。強い北風を待つ種子の旅立ちの準備でもあります。

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  葉も実も緑色、見過ごしてしまいそう    初冬の雑木林の風物詩 

 ツクバネの実(種子)が発芽するのは6月頃、多くは林下や丘陵地、乾燥した急斜面地に育ちます。これらの土地はやせて水分・養分も不足しがちです。でも、陽は良く当たるので、低木のツクバネにとっては光合成して生き抜くための適した場所になります。
 発芽したあと自分の葉で光合成し育ちます。そのまま2年ぐらいは生き延びるといわれていますが、その間に寄生する樹木を探り当てなければなりません。そうしなければ枯死してしまうからです。
 寄生する樹木は主にスギ・ヒノキ・モミなどの針葉樹など、針葉樹以外にもアセビ・カエデ、コナラなどに寄生する例も報告されています。

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   黄葉の頃のツクバネ、上に見えるのは寄生しているモミの木の葉

 『宮城の樹木』(河北新報社)によると、「宮城県では、丘陵地、山地帯下部の林に生育するが少ない。また仙台市街地周辺の林内には比較的多い。」と書かれていました。仙台市青葉山太白山周辺にはモミの大木が多く、モミの木が寄生の樹木になっているようです。
 ツクバネの根はこれらの寄生する樹種をどのように見分けるのでしょうか。又その根の位置をどのように探り当てるのでしょう。その根にどんなしくみがあるのか。いろいろ考えると興味がつきません。

 熟した実はフライパンで煎ると食べられると聞きました。試してみたら、ナッツの香りがしました。若葉は山菜として食用になり、若い実は塩漬けにしてお正月料理の飾りにしている地方もみられます。

 植物で「ツクバネ〇〇〇」という名前のつくものがあります。
 野山で見られるのは、ツクバネウツギや、ツクバネソウ。園芸種では、ツクバネアサガオペチュニアの名でが知られる)や、ハナゾノツクバネウツギ(アベリア)などです。これらの花は、よく見ると葉やガク片がツクバネの羽根に似ています。それで名前にツクバネがついているのです。

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   ツクバネウツギの花と実         ハナゾノツクバネウツギの花と実

 身近に見られておもしろいのは、ハナゾノツクバネウツギ(アベリア)。この木は庭園やグリーンベルトなどに多く植えられています。夏から晩秋まで咲き続けているので、花を見つけたら一つ失敬し、花びらをとってガクを空中に放り上げてみてください。きれいに回転して落ちてきます。種ができていたら、本物のツクバネの実のかわりにできます。小さい子と一緒なら、きっとウケルこと間違いなし。小さな種の遊びをきっかけに、動けない生きものである草木たちがどんなふうに仲間をふやしているか、子どもたちと想像をめぐらしてみるのも楽しい遊びになりそうです。(千)