mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより15 リンドウ

晩秋の枯れ野に咲く 青紫色の花

 11月になって、森の中は花が少なくなり寂しくなりました。
 小春日和のある日、森を歩いていたら、枯れ野にぽっとあかりがともったようにリンドウの花が咲いていました。思いがけなく懐かしい人に出会ったようなトキメキを感じました。 

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   枯れ野に咲く一輪のリンドウ。ふつうは複数個の花をつけることが多い。

 リンドウの花は秋遅くになってから咲き始め、霜が降りる頃まで咲き続けています。秋の野山を彩る代表的な草花なのに、山上憶良万葉集で詠んだ秋の七草には入っていません。キキョウやオミナエシなどに比べて花の咲く時期が遅いからなのでしょうか。

 清少納言は「枕草子」の「草の花は、なでしこ。・・・・」〈第64段〉の後半で、このリンドウにふれています。

竜胆(りんどう)は、枝ざしなどもむつかしけれど、異花(ことはな)どもの、みな霜枯れたるに、いと花やかなる色あひにさし出でたる、いとをかし。
                    〈新潮日本古典集成 枕の草子上〉

 りんどうは、枝ぶりなどは絡み合ってすっきりしないけれど、他の花がすっかり霜枯れた頃に、とてもはなやかな色合いで咲いているのは趣きがあるものですー。
 平安時代、居住地を少し離れると、あたりは一面の野原だったのでしょう。晩秋の霜が降りる頃、枯れ野に咲くリンドウの花を見つけたうれしさは昔も今も変わりないように思えてきます。源氏物語の「野分」の章では、「心とどめ取り分き植ゑたまふ龍胆」(心をこめて特別にお植えになった龍胆)との文章があり、平安時代にリンドウは庭先でも栽培されていた様子もうかがわれ、枝ぶりはともかくも、その青紫色の美しさは、古人の心をしっかりとらえていたようです。

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  つぼみは茎の先や葉の   花の形はつりがね形。  花びらの先は、とがって
  付け根に何個もつく。   陽光に敏感に反応。   三角形。

 リンドウ(竜胆)は古くから薬用としても用いられていました。根や根茎を咬むと非常に苦く、その苦さは中国では熊の胆以上だというので竜胆(りゅうたん)と名づけられたとのこと。日本ではその竜胆を「リュウタン」と音読みをしていたのが、いつの間にか転訛してリンドウ(竜胆)と呼ばれるようになったといわれています。

 リンドウの花はつりがね形です。つりがね形の花は、ホタルブクロやツリガネニンジンのように下向きか横向きにつくのが多いのに、リンドウは上を向いて毅然としています。陽光を好み、晴の日は花開き、曇天や夜間は閉じたままです。よい天気で虫たちが活発に活動するときだけ花は咲いて、後は花を保護しているように見えます。

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  花が終わると花の形はそのままに、花の青紫色は次第に薄れ、茶色に変わる。

  花は咲き終わると散らずに、果実を包みこむようにして残ります。果実は熟すと、枯れた花から突き出て2つに裂け、木枯らしの吹く日を待って、たくさんの細かい種子を飛び散らします。
 リンドウはかつては水田周辺の草地や堤防などで数多く見られました。農作業にあわせて定期的に草刈りがなされていたので、リンドウのような草丈の草花が育ちやすかったのです。今は手入れがされないので種子が発芽しても育つことができず、里山周辺のリンドウはその数を減らしています。

 秋遅く蔵王山栗駒山に登ると、リンドウの仲間であるエゾリンドウやエゾオヤマリンドウの群落に出会えます。 

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 蔵王のお釜とエゾオヤマリンドウ(花は茎の先にだけつけます) 苅田岳周辺で

 高山に咲くこれらのリンドウは、濃い青紫色をしていて、秋の陽の透明な光のなかに輝くとき、はっとするような美しさを見せてくれます。
 5年前、東京都美術館でフェメールの「真珠の耳飾りの少女」を見たときでした。大きな瞳の少女の頭に巻かれたターバンの青の美しさを目にして、一瞬、これはエゾリンドウの青だと感じました。髪を結んで肩先に流れるリボンの黄色はエゾリンドウの黄葉の美しさと重なって見えました。

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   エゾリンドウ(花は茎の先と葉の    エゾリンドウの葉の鮮やかな黄葉
   つけねにつけます)

 フェルメールの青はフェルメールブルーといわれる独特の深みのある青、彼の現存する数少ない作品に、この青と黄色の美しい組み合わせが見られます。
 ゴッホの「夜のカフェテラス」「ローヌ川の星月夜」も青と黄色が美しい絵です。彼の代表的な作品の多くに青と黄色が好んで使われています。
 青色と黄色はお互いを引き立てる補色の関係、その美しさを、自然はすでにさりげなく私たちに見せてくれています。ツユクサの花びらの青と雄しべの黄色、ワスレナグサの淡い青の花びらと中心の黄色い輪。青い空にくっきりと浮かんで輝くヒマワリの花やイチョウの黄葉。少し意識して自然を見るなら次々と見えてくるでしょう。
 秋は色彩ゆたかな季節、草紅葉や木々の紅葉、落ち葉や枯れ草のなかにどんな美しさが潜んでいるか、探してみるのも楽しいもの。ふだん眠っている感覚の回路がしだいに開かれていく心地よさも一緒に味わえるのではないでしょうか。(千)