mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記・ブログです。

季節のたより6 ドクダミ

  古来からの 庶民の万能薬

 外は雨。庭の草のかげから背のびして白い花が咲いています。ドクダミの花です。ほの暗いかげにうかぶ花の白さにはっとさせられます。
 司馬遼太郎街道をゆく」シリーズの挿絵で有名な須田剋太画伯は「この白は高い品格のある白磁である」とまで絶賛しています。

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 この季節に図工科の描画の教材としてよくとりあげたのが、この花でした。
 黒や紺色の画用紙に小筆で直接絵の具で描くようにすると、花の白さがうきたちます。
 白い花の十字形、その中心から伸びる淡黄色の花穂、広いハート形の葉、その造形がこどもたちには描きやすく、どの学年でも楽しんでとりくめる教材でした。 

 ところで、「白い花」と表現しましたが、花びらのようにみえる白いものは苞(ほう)とよばれる葉の変形したものです。本当の花は雄しべと雌しべだけでとても小さく、真ん中の棒状部分に集まって咲いています。白い苞と小さな花の集まりである黄色い花穂が一つになって大きな花のようにみせかけ、虫たちを誘っているのです。

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 ところが、日本に分布するドクダミは、3倍体という受粉せずに結実(単為生殖)できる性質を持っていて、虫の手助けなしにタネをつくってしまいます。それに、地下茎を縦横にはりめぐらし、コンクリートや石垣のスキマからでも芽を出します。庭に植えたりするとあっという間に占領されてしまうので用心です。

 ドクダミが身近に見られるのは、昔から民間治療薬としてさかんに用いられてきたからでした。薬草としての記述は平安時代からみられます。煎じて飲めば風邪や便秘の治療や高血圧の予防に、傷・おできなどには火であぶった葉を貼ればよく、風呂に入れれば冷え性に、鼻につめれば蓄膿症に効くと、まさに万能薬、病気になってもすぐ医者にかかれない時代の庶民にとっては願ってもない味方でした。

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      花の背丈になってみると、違った美しさを見せてくれます。

 ドクダミという和名は江戸時代の文献の記述にみられます。毒草のように聞こえますが、これは毒を抑えるという意味の「毒矯め(ドクダメ)」や、毒や傷みに効能があるという意味の「毒痛み(ドクイタミ)」から転訛したものだろうと言われています。

 ドクダミの最大の特徴は何といってもある種の特有のにおいがあることです。このにおいを嫌う人も多いのですが、研究者が調べたところ、このにおいのもとになる揮発性の物質は、細菌やカビの増殖を抑える抗菌作用があることがわかってきました。

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  朝露にぬれた花        それぞれの 花の表情

 草花の命を脅かすものは、虫や草食動物に食べられたり、細菌やカビに襲われ病気になったりすることです。ドクダミの葉や花をよく見ると、虫に食われたり病気で痛んだりしているところが少ないのです。葉を食べる蛾の幼虫はいても食草とする昆虫はなく、ウシやウマは牧草地に生えていれば食べますが、餌ではありません。それは、ドクダミの側からみればきわめて健康的に生きられるということです。
 つまり、ドクダミは、人類がこの地上に現れるはるか以前から、病気に対する薬の成分や抗菌、抗カビ物質を体内につくりだし、身を守ってきていたということになります。何だかすごいことです。昔からの民間治療法は、いわば人間がこのドクダミの薬効や抗菌力に経験的に気がつき利用させてもらっていたのですね。

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    仙台・治山の森の ドクダミの群落。 白い花で 暗い森が明るくなります。

 植物はこの地球上に誕生したときから試練を重ねて、人類よりもずっと長い歴史の時間を生き延びてきました。その命をつないで来れたのは環境に対応し命を守るしくみを備えてきたから。野生の強さとはそういうものです。
 これから先、便利さだけを求めている人間は、ドクダミのように命をつないで生きられるのでしょうか。(千)