花ひらくまでの試練
カタクリの芽生えのときの、あのきゃしゃな芽は、どうやって雑木林の地面を突きぬけて出てくるのでしょう。その生命力の不思議さに驚くばかりです。
カタクリが芽生えて花が咲くまでも、多くの試練が待ち構えています。風雨にさらされるのは当然のことですが、ある年に、せっかくつぼみをつけたのに、大雪になった日がありました。雪が降り続いても、カタクリはつぼみを下向きにして、雪にうもれて耐えていました。
雪がとけて、やがて陽が照りだすようになると、何事もなかったように花ひらきました。
雑木林はコナラやブナの落ち葉がたくさん積もっています。この落ち葉を突きぬけて、カタクリは芽を出すのですが、突きぬけた葉を振りはらえずに、そのまま大きくなっているのも見かけます。
つい、取り除いてやりたくなるのですが、手助けしないのが自然界の掟。じっと見守るしかありません。落ち葉に何の罪はなく、ただそこに降り積もっただけ、カタクリもそれとは知らずそこに芽生えただけ、その偶然のかさなりが自然のいとなみなのです。
多くのカタクリは生長しながら自力で落ち葉から抜け出します。でも、どうしても振りはらえずに、つぼみをつけたカタクリがありました。
そのカタクリが、ある晴れた日、花を咲かせました。
自由を奪われながらも、凛として咲いているその姿に、野に生きるカタクリの矜持を見る思いがしました。(千)