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mkbkc’s diary

みやぎ教育文化研究センターの日記です。

話題沸騰の映画 『この世界の片隅に』

 先週末あたりから、次号センターつうしんの原稿が送られて集まってきています。「おすすめ映画」欄の執筆をお願いしたKさんからもメールで原稿が届けられました。メールには、800字では書きたいことも十分に書けなくて少し残念という主旨のことが書かれていました。それなら、いっそのこと書けなかったことも加えてdiaryに載せるのは? と提案。改めての執筆となるにもかかわらず、快く承諾してくれました。

 ということで、以下にその映画紹介を載せます。

  現在、チネ・ラヴィータ、109シネマズ富谷で上映中

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 ヒロシマのその後を描いた「夕凪の街・桜の国」のこうの史代(ともよ)が原作ですから、さっそく駅裏のチネ・ラヴィータに出かけました。ちっこい画面でガッカリなんですけど、そんなマイナスの気持ちは、フォークル(フォーク・クルセイダーズ)の「悲しくて悲しくて」が流れる青空の絵に「のん(能年玲奈改め)」の字が表れるとどっかに消えてしまいました。

 家に帰って、さっそく離れて住む長女にSNS通信です。「君の名は。」「殸の形」に続くアニメの傑作だよって。

 では映画の話を。

 製作費をクラウドファンディング(アイデアやプロジェクトを持つ起案者が、専用のインターネットサイトを通じて、世の中に呼びかけ共感した人から広く資金を集める方法)で集めたからでしょう。東京では上映後拍手が起きたそうです。映画への手応えがあったでしょう。この映画に参加できたという喜びの拍手だったんでしょうね。たった全国63館で始まった上映が、話題を呼んで180館にも増えるなんて、そうありません。

 絵の美しさと現実感は宮崎映画のそれです。目を凝らして見るところがたくさんあります。現地を実地調査して当時の呉、広島の町並みを作画したというからでしょうか。呉の町は直接知らなくても、そのころの人々の生活ぶりが伝わってきます。ああ、こんなんだったんだろうなって眺めました。原爆ドームとなる広島産業奨励館が画面に生きて現れると胸がドキッとしました。片渕須直監督以下制作者の志を感じます。ただ格好いいだろうなぁと期待していた戦艦大和は、なぜか悲し気に見えました。これは意外でした。頭の中に軍艦マーチは流れてきませんでした。

 抜群の描写力で、軍港呉の海軍工廠に勤める一家、北条家に嫁いだ浦野すずの生活が描かれていきます。嫁いだその日からすずは一家の切り盛りをすることに。義母は足が悪く、出戻りの姉はきつい。とんとん隣組の集まりにも出なきゃない。でも、すずには嫌がる素振りが見えません。配給所からもらった二匹の小イワシを切って数を増やし、道ばたの野草をまな板にのせて食卓に色と味わいの一工夫を心がけます。畑仕事にだって勤しむすずです。収穫した大根が軒に吊された北條家は平和だったのです。

 そんなちっちゃな家族の平和にピッタリな、垢抜けない、今風に言えばトロいすずが映画を楽しませてもくれます。少女すずの宝物は二本のチビたエンピツで、だけどそのエンピツからくり出される絵は奇想天外。好意を寄せる先輩に描いてあげた海の絵には、沢山のイナバの白ウサギが飛び跳ねていました。空襲警報に脅かされる毎日となっても、すずはいつものすずです。そのたんびに家族は防空壕へ急ぐのですが。すずは立ち止まって、まるで寝る前にやるときと同じ調子で竈の火を指さし点検しています。停泊中の軍艦への激しい爆撃があった次の日。何で海にたくさん魚が浮いたんですか?と満面笑顔で魚の煮付けを皿に盛る無邪気なすずにいたっては、ナントモカトモです。買い出しを頼まれて呉の街に出かけ、色町に迷い込んでしまったり、グラマンの機銃掃射にも身軽に逃げられません。楽しみながらもハラハラの連続です。

 そして後半も過ぎると、すずにも悲しい出来事が起こります。ここからは山場に近づいていきますから書きません。

 話は、焼け野原のすずの生家広島を訪れ、夜北條家へ帰ったところで終わります。感心させられました。タイトル通りのhumanisumです(これは今、映画を振り返って思った言葉です)。

 定番的に戦争の悲劇を感動の対象に祭り上げなかった点が、これまでのこの手の映画と違っています。今週始まる戦中戦後を突破した「海賊とよばれた男」なんかと一緒にされたくないなぁ、ボクは。

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