~~社長は必ず朝礼の挨拶をする。ほとんど元小学校長の教育課長が草稿をつくるのだが、そんなときはすぐ分かる。面白くないからである。なんといっても、社長が思いついて喋るのにはかなわない。 「きのうの箱根慰安旅行に加わらなかったものが意外に多かったのは残念だ。おそらく、平素よく働いてくれているから、せめて日曜ぐらい家でくつろがせてくれというのだろう。それももっともだが、遊びがなければほんとの仕事もできない。旋盤のバイトを目盛りに合わすとき、一度ハンドルを左に回し、右に回して合わせて行くだろう。それはネジに遊びがあるからで、この遊びがあってこそ、正確に目盛りに合わすことが出来るばかりでない。なければ、機械そのものも壊すだろう。(中略)係長が言っている。たとえば、旋盤工を採用しようというときには、ひと目で分かる。それはすでにからだに遊びがない、旋盤になっているからだ、と。それもそうだろう。しかし、旋盤が街を歩いていれば、わが社の者だと言われるようでも困る。わが社のためになるようでいて、ならないのだ」